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その時、また桃花の手が私の頭にふっと降りてきた。
「ねぇ。仁奈さんとわたしのだったら、どっちのがいい?」
でも、すぐにこういい直す。
「瑠美はどっちの脚が……好き?」
「桃花……のが、好きだよ」
顔を少しだけ上げて、そう答えてみる。
「本当に?」
「うん、本当に」
「もう浮気しない?」
「浮気って」
「だって、約束したじゃん」
「そうだけど……じゃあ、桃花もしないでよ」
「わたし? しないよ、そんなこと」
「早紀」
「え?」
「あんまり、仲良くしない……で」
ぐっと胸が苦しくなる。
それは脚を抱いてるからなのか、それとも別の理由からかはわからなかった。その苦しさを吐き出すように、言葉をつなげる。
「楽しそうに話してるとすごくイライラするから、ふたりで帰ったり、おそろいのもの買ったりされるのイヤだから、だからやめて。仲良くしないで。一緒にいないで」
「瑠美……重い」
「……うん。ちょっと太った、かも」
「そうじゃなくて」
「……わかってる」
そんなの、ずっと前から気づいてたし理解していた。
でも、頭でわかってても。
気持ちは抑えられなかったから。
「嫌いになった?」
「ううん。でも、仲良くしないでっていうのは無理、かな」
「なんで?」
「だって早紀は友達だもん」
さらりと返されて、私は一瞬言葉につまった。




