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「あーあ、とうとう捕まっちゃった」
楽しげにそういった後で、また私の名前を呼んだ。
瑠美。
ねえ、瑠美。
「こっち向いて」
桃花の両手が、私の顔を膝の上に固定する。
「まだ怒ってる?」
「別に、怒ってないよ。桃花こそ怒ってないの?」
「怒ってないよ。でも、ちょっと後悔してるかな」
「後悔? なんで?」
「だって、他の人に膝枕されちゃったから」
「あれは別に……そんなんじゃないから」
「そんなのって、どんなの?」
自分でいっておきながら私にもよくわからなかった。
誤魔化すように太ももの間に顔を埋めて、手の中にある両脚に身体をぐっと押しつけた。
頬と密着した桃花の肌はちょっとだけ冷たかったけど、でも後から温かさがじわじわと広がって、なんだかとても安心した。
気を抜くと眠ってしまいそうなくらいに。
それはすごく気持ちよかった──のだけど。
穏やかな心とは対象に、心臓はありえないほど早く脈打っていた。
蠢くように耳の奥で血がドクドクいっている。
温もりを溜め込んだように、頬が急に熱くなる。
そのうち身体ごと熱くなって、全身がドクドクいった。
何してんだろ私。
今さら冷静になって焦り出す。
というより頭が混乱した。
けど、でも。
手も身体も桃花の脚から離れたくなくて。
ううん、違う。
離れたくないのは脚じゃなくて──。




