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「……ごめん」
「ううん、わたしも迷惑かなって」
「違うの、そうじゃなくて……えっと」
言葉を探すように視線があちこちに飛ぶ。
目が泳いでいるのが自分でもはっきりわかった。
でも。
「もしかして、昼休みのこと気にしてる?」
探していた言葉は、桃花の口からさらりと出てきた。
曖昧に返事をしつつも頷くと、わたしもごめんね、となぜか桃花が謝ってきた。
続けて、こう口にする。
「……ねえ瑠美。ひとつ、訊いていい?」
気のせいか妙に優しい声に聞こえて、私はつい身構えてしまった。
「さっきの人って誰なの?」
「さっきって……ああ、仁奈さん? お姉ぇの友達だけど」
「もしかして、あの漫画描いた人?」
「そうだけど。お姉ぇから聞いたの?」
「うん、来る時にちょっとね。そっか。久美さんの、ね」
桃花は噛みしめるようにしてそうつぶやいた後で、俯き気味に顔を傾けて急に黙ってしまった。
ここぞとばかりに、雨音が再び自己主張し始める。
仁奈さんがどうしたんだろう。
別に改まって訊くほどのことじゃないように思うけど──と、そこまで考えて、ふっとあることに思い至った。
ひょっとして。
いや、でも──でも、そうかな。
そう、だといいな。
気がかりはすぐに期待になって、やがてそうであって欲しいという願望にも似た思いに変わっていった。




