02
「どうしたの? 今日はちょっとご機嫌斜めじゃん」
桃花が、優しくそう声をかける。
胸まである長い髪に覆われたその顔は、すぐ近くにあるのに、ずっと遠くに感じてしまうほど小さかった。
「別に、いつも通りだけど?」
「そう? じゃあこの膨れた頬っぺたは?」
私の頬を突いて桃花が笑う。
昼休み、立ち入り禁止の屋上で、私たちは授業までのわずかな時間をこうしてふたりっきりで過ごしていた。
六月の蒸し暑い空気はお世辞にも気持ちいいとはいいがたかったけど、人目を気にせずふたりでいられるのはここぐらいしかなく、一度試しに訪れてみたら案外居心地がよかったせいで、晴れている日は大抵こうして生温い風に身を晒しながらのんびりしていた。
教師や生徒会の先輩に見つかったらめんどうなことになるけど、それよりも私にとっては桃花をひとり占めすることのほうが問題だった。
「ほら、また眉が釣りあがってる」
頬から指を移して、眉間にそっと触れる。
「なんかイヤなことでもあったの?」
「……別に、ないけど」
そう答えて、首だけを横に向ける。
薄汚れたコンクリートが、高い陽射しを受けてきらきらとした光彩を放っていた。その眩しさに目を細めながら、小さく溜息をついてみる。
桃花と私は違うクラスで、休み時間や放課後を除けば一緒になれるのは体育の授業の時だけだった。実際知り合ったのもその時で、ストレッチをするためにたまたまペアを組んだのがその契機だった。
でも初めは、けっこう身体が柔らかいんだな、くらいの印象しかなくて。自己紹介がてら少し話はしたけど、内容なんてもう憶えてないし、当時は別段仲良くしようとも思っていなかった。