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「へぇ、そんなことがあったんだ。誘ってくれればよかったのに」
桃花がちょっと拗ねたような顔で私を見る。
「でも、ももちー人混み苦手でしょ?」
「けっこう人いたの?」
「まあねー」
そこで早紀は私に向き直っていう。
「あ、お姉さんの漫画読んだよ。すごいおもしろかった」
「それはどうも」
短くそう答えて、私はトマトに箸を突き刺した。
なんでこんなことになっちゃったんだろ。
胸のうちで大きく溜息をつきながら、トマトを噛み砕く。
イベントから明けて翌日の昼休み、私は早紀を交えてお昼ごはんを食べていた。
本当に、なんでこんなことになったのかさっぱりわからない。
いつものように桃花のところへ行っただけなのに、なんだか知らないうちに三人でごはんを食べることになってしまったのだ。
いや、正直にいうとなんとなく予想はしていた。
でもまさか昨日の今日で早紀がこんなに絡んでくるなんて思わなかったし、絡んできても拒むか何かして適当に距離を置くつもりでいた。
いた、のだけど。
いざ声をかけられたらそんな考えはどこへやら、川に浮かぶ葉っぱみたいに簡単に流されて、こうしてひとつの机を囲ってそれなりに会話を弾ませることになってしまった。
もっとも、弾んでいるのは早紀だけなんだけど。




