第七話 瀬奈々ちゃんを救え!
突然の悲劇に、八田は放心状態で学校に向かっていた。どうして瀬奈々がここまでされなきゃいけなかったのだろう。もっと早く解決していれば、こんなことにはならなかったのに……。彼女は自分の無力さを呪った。悔し過ぎて、悲し過ぎて、涙も出なかった。
学校に到着すると、部室では今朝の事故の話題で持ちきりのようだった。しかし、誰一人として瀬奈々の名前を出す人はいない。どうやら事故現場に行った者は一人もいないようで、いつものように騒いでいる人が殆どだった。
「みんな、おはよう」
八田が皆に挨拶する。皆は彼女がいつもと違うことに気付いたようで、急に話の勢いがしぼんだ。ある一人の部員が八田に話しかける。
「あの、八田先輩、どうしたんですか?」
しかし彼女は何も答えず、荷物を置いて部室を後にした。そして職員室に出向き、事故の真相を顧問に話そうとする。
「先生、おはようございます」
「おはよう。今朝の列車事故、聞いたか」
「はい。現場を見ました。亡くなったのは愛川です」
「ああ。私もいたのだが、まさか愛川が亡くなっていたとは……」
「それを他の人たちは知りません。今から部室に言って、全部話しましょう」
「分かっている」
顧問は沈痛な気持ちで、噛み締めるように話していた。二人は部室に向かい、勢い良くドアを開ける。いきなり顧問が登場したことにより、部室は一気に静まり返った。
「みんな聞いてくれ。今日の定期演奏会は中止だ」
その発言に、部員一同がざわついた。しかし顧問は、それを無視するかのように話し続ける。
「今朝の列車事故、みんなは知っているよな。その被害者は、うちの吹奏楽部のトランペットのパートリーダー、愛川 瀬奈々だ」
その言葉に、部員一同は衝撃を受けた。まさか被害者が同じ部員だったなんて。中には膝から崩れて泣き出す部員もいた。
「即死だったようだ。トランペットと車椅子は金属の塊となり、当然、身体はどうなったかわかるな?」
八田は唇を固く結んで悲しみを堪えている。恭一郎のあの顔を思い出してしまうのだ。瀬奈々がいなくなったことによって、あのエネルギッシュだった先輩が、ゾンビのように無表情になって、足取りも覚束なかったのだ。それは彼女も同様で、今は何もしたくない気分だった。
「今日は全員、黙とうして解散としよう。定期演奏会中止のお知らせは、私が学校の入り口に張り紙を貼って知らせる。それに事務局の先生がホームページ上にアップしてくれる。それでは、黙とう!」
顧問の合図で、皆は一定時間黙とうをささげた。女子部員の嗚咽が聞こえる。八田はそれすらも聞きたくない気分で、耳を塞ぎたい衝動に駆られた。しかし、今は故人を偲ぶことしか出来ない。そのことが、八田の無力感を一層強めた。
黙とうが終わり、部員たちは無言で校舎を後にする。しかし一人だけ、黙とうが終わってもそのまま部室に残っている女子がいた。夢見 友恵という一年生の女子である。彼女はトランペット担当で、よく瀬奈々からアドバイスを貰い、日々成長していたのだ。黙とうが終わって泣き崩れている彼女を、八田は優しく介抱した。
「夢見、もう帰ろう。部室閉めるよ」
八田が夢見を立たせ、鍵を閉める。夢見は未だに八田に寄り添っており、泣きやむ様子も見せない。職員室に入ると、先生方は察したのか、無言で彼女たちを見つめていた。顧問に鍵を返した彼女たちは校門を出て、近くの公園で落ち着こうとした。
「何で、先輩が亡くならなきゃならなかったんですか」
「私だってわからない。でも、瀬奈々ちゃんは下級生の男子に虐められていたのは知っているよね?」
「はい。でも、虐められて自殺する性格じゃありません!」
「それは私も分かっている。でも……」
すると、彼女たちにとって聞き慣れた声が飛び込ん出来た。要を含む、男子数人が公園の前で喋っていたのだ。
「あいつら……」
「知っているの? 夢見」
「うちのクラスの男子です。何時も先輩を虐めては、クラスの男子に自慢していました」
夢見は彼らに殺意にも似た視線を向けているが、本人は気付いていない。すると八田はとある機械を持ち出し、男子たちに近付いた。
「先輩、それなんですか?」
「見ればわかるでしょ、ボイスレコーダー。これで何か掴めたらなって」
「……そうですか」
夢見は息を潜めるようにベンチに座っている。八田はすぐに男子数人の会話を盗聴することにした。幸いにも彼らは大きい声で話していたので、会話を拾うのは容易だった。
「今日のあれ、どうだった」
「まじで最高! こんなに面白いことしてて、俺たち呼ばないなんてずるいよ」
なんのことだ? 八田はレコーダーを彼らに向けているが、話し始めたばかりなのか、本題に入ろうとしない。しかし、それでも彼女は辛抱強く待ち、情報を掴もうとする。たとえどんなに些細な情報でも……。
その頃夢見は、八田の様子をベンチに座りながら、緊張した面持ちで見つめていた。先輩は大丈夫なのだろうか。しっかりと会話は聞き取っているのだろうか。彼女は勝手に悩んでいる。と、そこに彼女にとって見慣れた男が公園の近くを横切る。彼女はそれに気付いたのか、迷わずに声を掛けた。
「あの……」
男は夢見の声に立ち止り、彼女の方を振り返る。そこにいたのは、今にも死にそうな顔をしている恭一郎だった。彼は瀬奈々を亡くした失意に耐えられず、今の今まで春野町を彷徨うようにして歩いていたのだ。
「君は?」
「春野高校一年の、夢見 友恵です。吹奏楽部で、パートはトランペットです」
彼女は礼儀正しくお辞儀をして、恭一郎に敬意を示す。恭一郎も同様に、軽く会釈をする。そして、うなだれるようにしてベンチに座った。相当疲れていたのだろう。夢見は恭一郎の淀んだ表情を見て、彼の隣に座る。
「初めまして、ですね」
「そうだね」
「先輩は、愛川先輩と同じで、トランペットをやっていたと聞きました」
「そうだけど、君は瀬奈々を知っているのか」
「はい。とても優しくて、私が失敗しても庇って下さる、優しい先輩でした……」
そう言っているうちに、夢見の目から涙が零れた。瀬奈々のことを話していると、彼女との思い出が蘇ってくる。何回一緒に帰ったことだろう。何度ためになるアドバイスを授かったことだろう。彼女の中では数え切れないくらいだった。
「すみません、先輩方の前では泣かないって決めていたのに……」
「いいよ。俺だって泣きたいくらいだ。最愛の彼女を、失ってしまったのだから」
「愛川先輩、私と帰るときは良く恭一郎先輩のことを話していました。写真も見せて下さった時もありました。早く会いたいって、何度聞いたことか。私、羨ましいなって思いました」
涙に声を震わせながらも、夢見は話し続ける。彼女の顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。そこに、恭一郎がティッシュを差し出す。
「良かったら使って」
「え、あ、はい。ありがとうございます」
「いいよ」
「こういう優しさも、愛川先輩そっくりですね」
「あいつは元から思いやりがある奴だった。しかし如何せん不器用でな。だから、自他ともに認める吹奏楽部の足手まといだったんだよ。去年までは」
恭一郎も瀬奈々についての思い出話を語り始める。夢見はそれに食いついていた。彼の口調が饒舌になりつつあることにも気付きながら。
「でも、俺と付き合い始めてから大きく変わったな。なんでもてきぱきとこなすようになったし、卒業式が終わってからのサプライズを企画したのもあいつだった。びっくりしたよ」
サプライズとは、卒業式が終わった後に吹奏楽部の三年生を全員部室に呼び出し、薬玉と花束でお祝いするという、ごく単純なものであった。
「後から聞いたけど、あいつ、徹夜で薬玉作っていたらしい。それで卒業式には遅刻ギリギリで来たんだと」
「そうだったんですか」
「あいつはこれからどんどん変わっていくだろうなと思った矢先に、今日があった」
「恭一郎先輩の心中、お察しします」
「君だって辛いだろう。先輩の中で一番面倒見てもらっていた人が亡くなったんだから」
「でも、恭一郎先輩ほどではないです」
夢見はいつの間にか、泣かなくなっていた。恭一郎と話していると、不思議と心が安らぐ感じがしたのだ。同時に、二人の距離も自然と縮まっているのも感じている。
「あいつ、俺が告白をオッケーしたときに、初めて俺の前で泣いたんだよな。今まではどんなことがあっても、部活では泣かなかったのに」
「そうなんですか。私は泣いてばっかりでしたけどね。厳しい口調で指摘された時とか、いつも愛川先輩に慰めてもらっていました。今考えると、情けないですね、私」
夢見が自虐的に笑うと、恭一郎は彼女と向き合った。何かあったのかとキョトンとしている彼女に、恭一郎が語りかける。
「今のうちに泣いておけ。自分の感情を吐き出せるというのは、とても幸せなことなんだよ。現に俺は不幸せだ。本当に情けないのは、泣きたくても泣けない奴のことを言うんじゃないかな」
「そう……、ですか?」
「そうとも。なぜだか泣けない俺なんかと比べたら、夢見はとても逞しいよ」
「恭一郎先輩、なんだか、愛川先輩の喋り方に似ていますね」
夢見は恭一郎の喋り方によって、瀬奈々と会話していると錯覚しそうになっていた。彼女は涙目になって恭一郎を見つめており、そのたびに現実に引き戻されていく。
「そうか? 俺は瀬奈々よりはきついけどな、喋り方」
「愛川先輩、いつもこんな感じで私を励ましてくれました。もう声も聞けないんですね」
夢見と話していた恭一郎は、この言葉で我に返った。そうだ、瀬奈々はもうこの世にはいないのだ。彼は現実を受け入れるようにして夢見から視線を逸らした。それから二人の間に沈黙が流れる。夢見は恭一郎が再び下を向いてうなだれてしまったことに気まずさを覚えた。私のせいで、先輩はまた暗くなってしまったのか。そんな感情もあって、彼女は余計に話しづらくなってしまっていた。
何とかこの状況を打開しなければ。夢見は考えていた。すると幸いなことに、八田が帰ってきたのだ。八田は恭一郎がここにいたことにびっくりしている。
「恭一郎先輩?」
「八田か。なんか済まないな」
「なんですか! 先輩は何も悪いことしていませんよ」
「俺が要を潰したいといったばっかりに、瀬奈々は、瀬奈々は……」
「自己嫌悪はやめてください! というか夢見、何やってるの!」
「す、すみません」
「いいんだ、八田。もう少し彼女と話させてくれ」
恭一郎は控えめな口調で八田を制すると、再び夢見と向き合った。夢見も同様に、泣きそうになりながら恭一郎と再び会話をしようとする。
「今日はありがとう」
「え、私、何かしましたか?」
「俺と話してくれたことだよ。少しだけすっきりしたよ」
「あ、はい! そう言っていただければ嬉しいです!」
夢見は恭一郎に礼を言われ、少し嬉しく、また照れ臭くなった。彼女も瀬奈々同様に、先輩から褒められることに慣れていなかったのだ。
「恭一郎先輩、良かったら連絡先、教えてもらえませんか? こんな時に不謹慎だってことは分かっているんですけど……」
「別にいいよ。SNSでいいかい?」
とあるSNSを起動した恭一郎は、自分のIDを夢見に見せた。同時に、隣にいた八田もIDを見て、友達リストに入れる。
「そういえば八田も、登録していなかったな」
「ですね」
「恭一郎先輩、登録完了しました。ありがとうございました!」
「こちらこそ。好きな時間に連絡して。まあ、出られるかどうかは分からないけど」
そう言って恭一郎は席を立ち、二人と向き合った。
「これから瀬奈々の家に行こうと思う。一緒に来てくれないか」
「勿論です」
「私も行きます。でも、黒っぽい服装に着替えてからの方がいいですよね」
「私たちは制服があるからいいけど、恭一郎先輩はどうしますか?」
「そうだな。着替えてからにするよ。ちょっと待っていてくれないか」
「分かりました。いつまでも待っていますよ」
そういうと恭一郎はいったん二人と離れ、自宅に到着した。そしてクローゼットを探り、父親が使用していた葬式用の礼服に身を包む。それを見た父親はびっくりしたような顔で恭一郎を見つめた。
「葬式にでも行くのか」
「愛川さんの遺族の方々に、顔を合わせに行くだけさ」
「まさか、今朝の事故で亡くなったのって……」
「そう、愛川さんの一人娘の瀬奈々だよ」
父親は呆然として立ち尽くしていた。それを尻目に、恭一郎は誰にも告げずに外に出る。そして数分後、彼は八田と夢見と合流し、瀬奈々の家に出向く。そこにはすでに、近所の人たちが花束を持って参列しており、瀬奈々の両親は涙で目を腫らしていた。しかし、参列したのは彼らが最後のようで、彼らの後ろには誰もいない。
「失礼のないようにな」
「はい」
三人が愛川家に入ると、母親が涙を拭いて応対してくれた。
「ほかの吹奏楽部の人たちは、もう参列して下さったのですか?」
「ええ。先生、生徒の皆さんはみんな泣いていましたよ」
そう言いながら、母親は三人に飲み物を出してくれた。
「貴方たちは、瀬奈々にとてもよくしてくれましたね。ありがとう」
「そんな、私たちなんて……」
「良いの。私からの気持ちだから。飲みなさい」
三人は口々に失礼します、と一言添えて飲み物を飲む。母親は早朝からのごたごたで疲れていたらしく、ぐったりとしてソファーに座る。恭一郎は瀬奈々の家に来ていたことを思い出していた。手を繋いで語り合っている所を母親に見られ、付き合っているのがばれたとき、休日に遊びに行って、初めて父親と会ったとき、とても緊張し、気まずい空気になったこと。それを瀬奈々が和ませてくれたこと。
「恭一郎君」
「はい」
「瀬奈々をありがとうございました」
「それを言われる義理なんぞ、僕にはありません。僕は彼女を守ることが出来なかったのですから」
「いえいえ、瀬奈々は、貴方といた時間が一番楽しいと言っていました。ここにはいないけど、お父さんも、この人なら瀬奈々を任せられる! なんて言って……」
「そんなことを……」
恭一郎は顔を赤くして俯いた。まさかあんな強面な人が、そんなことを思っていたなんて。彼は目頭が熱くなるのを感じた。
「八田さんも夢見さんも、瀬奈々を支えてくれてありがとうね」
「とんでもないです。私なんて、先輩に迷惑ばっかりかけて」
「瀬奈々、家に帰ってきてからはいつも私たちに部活で起こったことを報告してくれたんだけど、貴女の話題で持ちきりだったのよ。いつも元気一杯で、たまにミスもするけど可愛い後輩だって。八田さんのことも、いつも車椅子を押してもらって申し訳ないって」
夢見はその言葉に胸を打たれ、自然と目から涙が零れてきた。八田もこの時ばかりは顔をくしゃくしゃにして泣き崩れる。申し訳ない気持ちはこっちだって一緒だ。要を潰す途上で最大の友人、先輩を失ってしまった。彼が落ちていく様を、瀬奈々と一緒に見たかった。また一緒に、笑い合いたかった。吹奏楽もしたかった。様々な思いが浮かんでは、涙となって落ちていく。
すると、瀬奈々の父親が部屋に入ってきた。三人は弾かれたように彼を見る。
「お邪魔しています」
「ああ、恭一郎君に八田さん、それに、夢見さんか」
父親も同じく、疲労困憊の様子だった。どうやら会社の人たちに瀬奈々が亡くなった報告をしているうちに、かなりの時間が経ったようだった。
「君たちには本当にお世話になったと思っている。今まで瀬奈々を、ありがとう!」
「そんな……、僕は何も」
「君は実によく出来た男だ。このまま仲が続けば、瀬奈々を君にやろうとまで思っていた」
「そうだったんですか……」
「それなのに、それなのに……」
父親は急に泣き出した。瀬奈々のことが思い浮かんだのだろう。恭一郎は、なぜだかそれを止めることが出来なかった。すると、母親が父親を別室に連れて行く。
「すみませんね」
「いえ、むしろ僕も泣きたいです。そういえば、踏切での事故でしたよね」
「ええ。瀬奈々には毎日のように、踏切は渡らないで遠回りして学校に行きなさいって言っていたのに、今日に限ってこんな……」
「多分、早く練習したかったんでしょう。もしも彼女と同じ状況だったら、僕も踏切を渡って近道しますから」
その会話を聞いていた八田は急に眼を大きく開き、何かを思い出したかのように二人の間に割って入った。
「二人とも、ちょっといいですか?」
「なんだよ、八田。息が荒いぞ」
「瀬奈々ちゃんは踏切を渡りたくて渡ったわけではありません。無理やり連れてこられたのです!」
「え?」
その一言に、二人は耳を疑った。特に母親は混乱しているらしく、どう対応していいかわからず、フローリングにへたり込む。
「それはどういうことだ」
「私、偶然要たちに遭遇して、会話をこの盗聴器で傍受しました」
「本当か!」
「まずはこれを聞いてください。車の通る音とかも聞こえますが、結構よく録れてます」
夢見は混乱している母親を引っ張り、八田の盗聴器に耳を傾けさせる。八田が盗聴器の再生ボタンをオンにすると、会話が再生された。
「それで、あの障害者はどうなったの」
「ああ、死んだよ。列車事故、見なかった?」
「マジかよ! 特急に轢かれたんだろ?」
「そうそう。ひでえ有様だったらしいぜ。身体はミンチになって、トランペットとかもうぐしゃぐしゃ。まあ、あの障害者にはお似合いだったけどな」
八田以外の三人は凍りついて聞いていた。当の八田も、改めて聞くと殺意がこみ上げてくる。会話はまだ続くようで、要たちのテンションも高くなっていく。
「トランペット必死で取る姿、あれ最高!」
「どうせ安物なのに、何でここまで必死になれたのか、分からないぜ」
「にしても考えたな、トランペットひったくって、踏切の前に置くなんて」
「徹夜で考えたんだよ。あの障害者、もうおもちゃにするのは飽きたから、そろそろ死んでくれないかなって」
「自分で手を下さずに殺せるなんて最高じゃん! 流石町議会議員の息子だよ」
「おいおい、そこ関係あるか?」
ここで会話は途切れていた。母親はわなわなと震えており、恭一郎と夢見も殺意に満ちた表情をしている。
「これが現実です。辛いかもしれませんが……」
「これはれっきとした殺人よ! すぐに警察に通報して!」
母親はヒステリックになっており、周りが見えなくなっていた。実の娘をこんな下らない理由で殺されたのだ。発狂するのも無理はない。気持ちは痛いほどわかったが、八田は母親を制止させた。
「私に考えがあります。警察に送るよりも辛い方法が」
「え?」
「まあ見ていてください。二日もあれば、彼と彼の家族を地獄に叩き落せます」
意味深な発言を残し、八田は一礼して愛川家を後にする。恭一郎も発狂しそうになっている夢見を介抱しながら、母親に一礼をして、八田の後を追った。この先、彼女の考えていることは何だろう。恭一郎は期待と不安、そして一抹の恐怖を心の中で膨張させながら、先程の公園に到着した。
「ひどい! 先輩をおもちゃ呼ばわりするなんて! 絶対に許せない!」
「俺も夢見と全く同じ気持ちだ。絶対に許されるべきではないと思っている」
その時、八田からSNSに着信があった。グループの誘いのようだ。グループ名には、『瀬奈々ちゃんを救え』と書かれてある。誘いは夢見のスマホにも届いていたようで、二人はほぼ同時に誘いを承認した。トーク画面に入ると、早速通知が入る。
『承認ありがとうございます。これから本格的に作業を開始いたしますので、各自着替えてから私の家に来てください。全員揃い次第、作業の概要を説明いたします』
二人は同時に「了解」と返信し、ベンチを立つ。
「それでは、またあとで」
「はい」
二人は決然とした表情で公園を後にした。この先待っていることの重大さに、覚悟を抱きながら。




