進撃を開始するぞ
神の支配する国、新国ルインレイズが動き出しました。
宣戦布告をした翌日、既に軍が動いていたのでございます。一方で、ラピーセルの行動も迅速でございました。
すぐさま、ギルドにて特殊依頼が発注されました。また、その依頼は半強制的なものでございます。
ギルドの冒険者さんたちの実力はかなり高いです。上位陣ともなれば、それはもう語り尽くすのも面倒な程の能力をお持ちです。
私たちも、その上位陣の一角にしか過ぎないと申せば、彼らの化け物ぶりが伝わるでしょうか。
そう。ギルド都市ラピーセルの全戦力は、一王国と同程度の力を持つのです。
「見てきたぞ」
と、ナルさんが皆様の前で報告なさいます。現在、ラピーセルから出てすぐ近くの広場には、一万程の冒険者さんが集まっておいででした。
この中で最も空間魔法に秀でているナルさんが、敵情視察を担当なさったのです。
「数はこちらと同程度。いや、向こうの方が僅かばかり多い」
ナルさんの言葉によって、広場には喝采が溢れました。
同程度ならば、実力が上のこちらの勝利は決まったようなものですからね。血の気の多い冒険者さんたちは、既に報酬に思考が行っているのでございましょう。
私は視線でナルさんに合図を送りました。
「ちょ、君次。こんな時に、ウインクをするなよ。照れるぞ」
「違います! 向こうの戦力について、お話ください!」
ナルさんは目を瞬かせてから、成る程と呟きました。ごほん、と仕切り直した時、気管に唾液が入ったのか激しく咳き込みます。
そのまま、また嘔吐しないかと不安でしたが、どうにかナルさんは堪えました。実に凛々しい表情ですね。
隣でマグさんが拍手しております。
「向こうの戦力について話す。大体は雑魚だ。そこらのゴブリンと同格程度だろう」
更に、冒険者さんたちが勢い付きますが、数人の……上位層の方々は表情を曇らせます。そう。弱い方についてなど、述べる必要はないのです。
下手に弱いと宣伝して、油断をしてしまえば無駄に被害が増えるだけですからね。
「だが、七人程。妾でも勝てないと思える相手がいた」
おそらく、その言葉は嘘でしょう。
ナルさんが勝てない相手など、おそらくは敵国の大将である神様のみ。七人も居るはずがありません。
けれども、ナルさんの言葉は偉大でございました。
「ま、マジかよ。あの残念魔王が勝てないなんて……」
「あの『食狂い』のチームが総出でやっと、といったところか?」
冒険者さんたちが呟きつつ、私たちを見やります。
残念魔王はナルさんの二つ名で、食狂いは私の二つ名でございます。ある程度活躍すると、嫌でも付くものなのだそうです。
「かなり激しい戦いになりそうだな」
と、冒険者さんたちは気を引き締めてくださいました。
この世界では数ではなく、圧倒的な個人の方が危険ですからね。仕方ありません。
「諸君!」
と、今度はミーアさんが演説を開始しました。今回のリーダーは彼女なのです。
「我らは誇り高きギルド都市ラピーセルの冒険者だ! 人々を苦しみから解放する手助けをする、誇り高き騎士だ!」
おお! と冒険者たちが叫びを返します。皆さん、こういうイベント大好きですからね。伊達や酔狂で冒険者業は務まりません。
「何故攻められる理由がある? 我らはただ人々を助けたいだけだというのに! 理はこちらにある! 諸君! 日々、依頼人たちの心を満たし、依頼料で懐を満たしている諸君。久し振りに、暴れようじゃないか。理由は生まれた。さあ、存分に暴れるぞ!」
「おおおおお!」
冒険者さんの大半は、その力を持て余しております。ですから戦争というのも、最適な気晴らしにしかならないのかもしれませんね。
また、今の時代の戦争は私のスキルによって、殺しがそうそうできません。
本当に、暴れることが目的のようなものなのでございます。
ただ今回は神様が相手なので、そう楽にもいかないでしょうが。
「全軍! 進撃を開始するぞ!」
ミーアさんの叫びに呼応して、冒険者さんたちが歩を進ませます。普段は団体行動が苦手なのに、随分と上手く連携できるものですね。
と、私も文句は言っていられません。軍の動きに追従します。
私たちは遊撃軍。個人個人の動きで、敵軍に攻撃をしかける予定です。
「あ、そういえば、マグさんもナルさんも、この戦いには否定的でしたよね? どうして参戦なさったので?」
暇潰しとして、私はマグさんたちに話しかけます。
「マグは危険だから嫌。でも、青方だけが行くのはもっと危険だから」
「妾もそうだよ。それでも、君次は神との争いを選んだだろう? もう、ついていくしかない」
なるほど。
お二人とも、私の所為で戦争に参加することになってしまったのでございますね。
申し訳ありません。
しかし、ナルさんの仰る通りでございます。神様を見過ごせば、世界は消えてしまいます。
そのようなこと許容できません。
「いい加減、雑談止めたらー? トートねー、暗い話嫌いー。もっと爽快なお話しよー」
「そうですね」
「うんー。例えば、愚かな人類を粛清していくお話とかー」
「私、よく思いますが、貴女様は人類の敵なのですかね」
などと、トートさんにツッコミを入れていますと、ようやく敵軍が見えてきました。
そうして、我々は絶句致しました。
「な、何だこれは!? 妾が見たときは、このようなことにはなっていなかったぞ」
あるのは悲鳴。
そして、恐怖。
戦場のは血が溢れておりました。見たところ、死体はございません。私のスキルの力でしょうね。
戦争で死者がいなくなるように、敢えて他国にもバンバンバーガーを流していましたから。
「魔物だああああ!」
叫びは冒険者さんのものか、それともーールインレイズの方々なのか不明でした。
神国ルインレイズの軍は、突如現れた魔物の奇襲により、既に半壊しておりました。




