来たよ、青方くん
蹂躙、という言葉が正しく最適でございました。
我々チームマグナト異世界店は、その圧倒的能力で兵隊方を無力化していきました。
その光景を見てくださった方々は、ある程度我々に対して友好的に振舞ってくださるようになります。
こうして、本当に少しずつですが、味方が増えていきます。
しかし、私も少々疲れましたね。
毎日、お店と戦場を往復しております。お金はどんどんと入ってきて、更には周囲の人々も徐々に活気に溢れてきています。
私は異世界に来て、少しだけ旅をしました。そして思い知ったのですが、少しの頑張りで食事や飲み物を手に入れられるというのは、かなりありがたいことでございます。
この世界には、無論自販機などございません。食料も不足しており、最下層の方々は毎日餓死者が出ていたと聞いております。
少しのお金を手に入れても、それで何も手に入らない。作物なども魔物にやられてしまいますからね。
そのような問題をマグナトは解決してくださいました。ワンコインで食事ができますからね。
薬草を採取する依頼を受けるだけで、マグナトがあっさりと何個食べられることか。
食料が安定して、人々が働き、他の食べ物にも興味を向けます。ですから、我がマグナトは他の飲食店さんからも高い支持を得ています。
そのような幸せなお店経営とは裏腹に、戦場は実に酷い。
人の悪意が満ちております。
戦って、戦って、戦って。
このような生活にも、限界があります。
お店と戦場の行き来は、予想外に私の心を潰していたのでしょう。
ある日、私は突然、倒れてしまいました。
「青方!?」
「君次! マグ、ミーア、バーガーを食べさせろ、妾は念の為に離れておく!」
「了解、だよ」
バーガーを無理矢理に食べさせられたお陰で、どうにか一命は取り留めました。あと、やはり美味しかったです。
「申し訳ありません。では、私は……」
「だめ」
「マグ、さん?」
「今日、青方は休む」
「そうは仰いますけれどもね。この戦争の原因は私なのですよ?」
「違う。青方の力を狙う悪い奴の所為。青方は悪くない。青方が悪かったら、それに救われたマグたちも悪くなる」
おや。
マグさんの仰る通りでございますね。私が己の行為を悪だと断じれば、それによって救われた方の立つ瀬がございません。実に軽薄な言葉でしたね。
「そうですね。今のは私がいけませんでした」
「だから、休んで」
「それとこれとは話が違いますよ」
「嫌。休まないなら、マグが青方と戦う」
それは困りますね。私、単純は実力ではマグさんに及びません。トートさんを使用すれば別ですが、現在トートさんは揚げ芋を掬うのに忙しいのでございます。
そう、トートさんに揚げ芋を食べさせると、普通サイズのバギングスクープに変化なされたのでございます。
戦闘を嫌う彼女には天職ですね。
ということで、トートさんは使えません。
「俺もマグちゃんの意見には賛成だよ?」
「ミーアさんも?」
「ああ。最近のきみは働き過ぎさ。そういう仕事は勇者に任せなよ」
ミーアさんに続いて、ナルさんも言葉を紡ぎます。
「そなたが倒れた時、妾は焦った。また、妾の所為なのか、と。妾を不幸にしないでくれ」
そこまで言われてしまえば、私は何にも言えません。実に優しいですね、皆さん。
私は笑顔を浮かべてから、寝室へと向かいました。マグナトの四階が我々のお部屋です。
布団を敷き、中に潜り込みます。お布団に入るのなんて何日ぶりでしょうか。
眠らなくとも、スキル『創造せよ、至高の晩餐』があれば死にませんからね。
しかし、お布団は良いものでございますね。安心感が訪れて、私の瞼を優しく撫でます。それだけで、私の意識は眠りへと落ちていきました。
夢の中。
ここは神様の空間でございます。
「久しいな、マグナト店員よ」
「お久しぶりでございます、神様」
「最近は寝ていないのか? 中々来なかったが」
「ええ。少しだけ、やりたいことがございまして」
「まあ、良い。そろそろお前のお祖母様について語ろう」
と、神様は仰いました。私は頷きを返します。
「簡単に言えば、彼女はかつて第一魔王だったんじゃ」
「魔王? 勇者ではなく?」
「ああ。彼女は世界中の魔なるモノを纏め上げ、世界を平和にしたのじゃよ」
「お祖母様がそのようなことを」
「しかし、その所為でもう一はしらの神の怒りを買った」
「どうしてでございますか?」
「儂らにとって、世界経営とは遊びのようなものじゃった。玩具の戦争を止められて、キレたんじゃ」
何と勝手なのでしょうか。
「じゃがな、彼女は単身儂らの元に来て、儂らに説教をしてな」
「神様に説教!?」
「もう一柱の神は、そうして彼女に恋をした」
「こ、恋!?」
話の展開についていけませんよ。それに、もう一柱の神様は女性の筈では?
いえ、まあ、同性間での恋愛もあり得ますか。
「幸せそうじゃったよ。もう一柱の神は。その恋心は最後まで無視されておったがな」
「はあ、なるほど」
「お前のお祖母様が寿命を全うした日。もう一柱の神は狂った。お前のお祖母様の魂を拘束し、永遠に自らの元に置こうとしたのじゃ」
ヤンデレ、という奴でございますね。怖いです。
「それはあまりにもかわいそうじゃった。じゃから、彼女の魂を無理矢理に我が世界へ送り、その場で普通の人間にした」
そして、寿命を終わらせた、ということでございますね。
「彼女の魂は強い。だから、まだお前の心の中で生きているのかもしれん」
ジョアンさんに洗脳された時、助けてくださったのはお祖母様でしたね。
「そう。もしかすると、まだいーー」
神様の言葉が終わる前に、私の意識は覚醒してしまいました。
目を覚ましますと、そこには血相を変えたミーアさんの姿がございました。
「来たよ、青方くん。とうとうルインレイズがラピーセルに宣戦布告した」
 




