やっぱり心配
周辺地域にて戦争が行われた、というお話が私の耳に入ってきたのは、聖さんとのお話の二日後でございました。
目的は不明。
理由なき宣戦布告と共に、一方的に戦争が開始されたのでございます。
死者は……零。
重軽傷者が千と少し、というのが戦争の結果であったそうですね。
死傷者零の戦争。
理由はただ一つ。我がスキル『創造せよ、至高の晩餐』にあります。
このスキルさえあれば、基本的に人は死にません。
しかし、死なないだけで、このままでは最悪な結果が待ち受けております。
私のスキル一つで、戦争のあり方は大きく変容してしまったのでございます。
肉体が死なないならば、心を殺すまで。
兵隊が死なないならば、民を殺すまで。
そういう風に、戦争は変化しようとしていました。
兵隊の目的は一つ。傷を負いつつも、敵領に侵入して、そして、人々に乱暴を行う。
男は拷問して、女性は口に出すのも憚れることを行い、子供は攫う。
今の戦争はそういう風になりつつありました。
まだ、どうにかそうはなっておりません。
ですから、私たちは今、戦場に立っておりました。
「良いですね、皆さん。命を取らずに、けれども戦闘不能に。良いですね」
「うん」
何かあっては困りますので、全員共に行動します。それでも、念の為に申し上げておきました。
「それにしても、本当に戦争が起きるとはね。俺は驚いているよ。そして、この戦争の原因になったことも、ショックだ」
ミーアさんの仰る通りでございますね。
まさか、本当にこんなにもあっさりと戦争が起きるとは想像もしませんでしたよ。
その上、戦場がラピーセルでないのもおかしいですしね。
動いたのは神が率いる国。
神国ルインレイズ。
「ですが、ミーアさん。これは必要なことであると、私は……」
「わかっているさ。確かにね。敵の神を相手取るにはこうするしかない。そして、きみのスキルが出回る限り、そうそう人死には起きないだろうしね」
神を打倒する為には、戦争を起こさねばなりません。神を倒す為の戦。
けれども、それでも人殺しを行いたくない、誰にも不幸になって貰いたくない私の悪足掻きでございます。
「成長した私のスキルならば……」
欲望者のスキルは、所有者の欲望が高まれば高まる程、その力を大きくしていきます。
そのスキル効果の一つこそ、警報でございます。
『創造せよ、至高の晩餐』を悪意を持って使用したとき、この警報の能力は発揮されます。
私へと報せが来るのでございます。
この力が手に入ると、私には昔から感覚でわかっておりました。
私のスキルは、私の願いを形にしてくださいますからね。今までの経験上。
ですから、この力が手に入るまで、私は活動を控えておりました。
具体的には、店を開くのを自重していたのです。
お店を開ける段階に来ても、この力に目覚めていませんでしたので、数ヶ月時間を無駄にしてしまいましたよ。
しかし、この能力を手に入れた以上。
「ナルさん!」
『門』
即座に向かうことができるのでございます。
「お前は大人しく……」
「ひいいい!」
バーガーを片手に、剣を持った男が女性に迫っておりました。
下衆、ですね。
「最低」
問答無用で、マグさんが男を殴り倒しました。予想外の場所から現れたマグさんに、男は抵抗の余地すらなく昏倒させられました。
「行けそうですね。なんせ」
この街に悪意が集合していますので。
この街に、敵が侵入してきていますからね。
散りじりにならない程度に、私たちは戦闘区域を広げます。『創造せよ、至高の晩餐』を使っている相手と戦うのには抵抗がありますね。
戦闘方法は簡単。相手の意識を奪うだけでございます。
我がスキルの性質上、食べ物を呑めれば能力は発動しますからね。四肢が吹飛ぼうと、血を失おうと、たった一口。
食べ物が胃に入れば即再生です。
完全に死ななくては、死ぬことはないのです。けれども、私の能力は身体能力や肉体を強化します。
常人では、スキル強化中の人間を即死させることは叶いません。
ですから、侵略者さんたちを制圧する為には、バーガーなどを食べさせるお仲間毎、敵を無力化せねばなりません。
それができるのは、圧倒的に強い我々だけなのですよ。
「制圧完了ですね。後は彼らを本国に輸送して、次に備える、と」
「ああ。そうだね。この調子で仲間を増やしていこう」
私たちが神様と戦うには、未だに戦力が不足しています。
例え、ギルド都市の皆様が味方してくださっても、まだ勝てないでしょう。私たちはもっと多くの仲間が必要なのです。
神様を放置しておけば、いつか必ず後悔します。全世界の方々が不幸になります。
そのようなこと耐えられません。
私にできることは、戦うこと。そして、勝利するには仲間が必要ならば集めましょう。
その上で、誰も死なない道を選びましょう。
例え、苦しくとも。
「青方、大丈夫? 最近、寝てない……」
「大丈夫でございます。回復できますから。マグさんは?」
「マグは寝てるから」
「でしたら構いません。今日は一旦帰りましょうか」
そう言ってから、私は詠唱を開始しました。
私はこの世界の言語をある程度覚え、更には精霊さんとも仲良くなりました。それはつまり、魔法が使えるということでございます。
私は自らの力で『門』を開いて見せました。
「青方。マグはやっぱり、心配」
彼女の声を耳にしつつも、私は止まりませんでした。




