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仲良く握手など

 屋敷はまるで嘘のように簡単に、倒壊してしまいました。


 我々は全員、顔を青褪めさせました。


「これ……弁償とかさせられるんですかね?」

「言うな、君次。現実を見るな」

「青方、黙って」

「お、俺は勇者だぞー」


 他の方は既に現実逃避を開始されておりました。ミーアさんなどはお上手でございますね。流石は元洗脳されていたお方です。


 ただ一人、いいえ、ただ一本トートさんだけがかなり大笑いなさっておりました。恐ろしい方ですね。

 ちなみに、爆笑というのは複数の方が大笑いすることであり、個人には使わないそうです。けれども、それでもトートさんの笑い方は爆笑と表現したくなりますね。


 当の家を破壊された張本人は何と気絶なさいました。


 狼男さんも天馬さんもあたふたなさっておいででございます。


「えっとー。これは何が起きたんだ?」


 サーちゃんさんの頭の上で声がしました。そこに視線を向けますと、一人の男の子が尻餅をついていました。サーちゃんさんの飼い主さんでしょうかね。


「こ、これは何が起きたんだ!?」


 呆然としたリアクションから激烈なリアクションへと、サーちゃんさんの飼い主さんは変化していきました。


「屋敷が壊れて、る? 何故? もしや……」


 絶望の表情で、飼い主さんが周囲を見渡してから己の下にいるサーちゃんを睨み付けます。


「貴様か! っち。この図体だけの役立たずが。僕がどれだけ苦労して貴様を手に入れたと。この家の娘に近付く為の口実が」


 ぶつぶつと飼い主さんは何かを呟いております。いえ、何を仰ったのかは聞こえておりましたがね。

 随分、嫌な性格のお方のようでございます。


「ん?」


 と、私がジトーっとした目で彼を見やっていますと、向こうもこちらに気が付いました。そしてすぐに、彼の瞳が輝き出します。


「冒険者か! 丁度いい。貴様らがやったことにしろ」

「ええ?」


 正直なお話、同罪でございましょう? というよりも、普通の道をサイクロプスの上に乗って闊歩して、更には屋敷の屋根を壊させるなど、明らかに向こうの方がダメでございましょう。


 私たちもあくまで自衛しただけですしね。


「嫌ですよ。せめて二分の一。いや、三分の一くらいでしょう」

「黙れ! 僕は貴族だぞ!」


 絶句致します。だから何ですか。


「ふん、それで良いんだ。貴様ら平民は僕たち貴族の為に生きて死ね」

「貴方様は酷いお方ですね。そのような方には従いたくありません」

「何だと!?」


 飼い主さんは苛ついたように、私を睨み付けます。それと同時に、どうしてだかマグさんを見てにやりも笑いました。


「はっ! 所詮は平民か。小汚い魔界族の奴隷しか飼えないのか。その程度の奴隷、幾らでもやる。だから責任を取れ」


 そういうことでございますか。


 差別は何処にでもあるものなのでございますね。まあ、私が元いた世界でも、肌の色が違うだけで差別が行われておりましたからね。

 メルセルカと魔界族。


 両者の違いは肌の色程度ではございません。差別が生まれてしまうのは、仕方がないことなのかもしれませんね。


 しかし、不快です。

 マグさんはもう差別を気にしません。魔界族に、恥じるべき所がないと理解してくださったからです。


 しかし、悪口を言われていることに変わりはないのですよ。

 傷付かない筈がない。


 彼女が傷付くのは、私も嫌です。


「おい! 返事はどうした!?」

「お断りですね」


 声を発したすぐ後に、私は足を大きく振り上げておりました。それを地面に全力で振り下ろします。


 たったそれだけの動作で、地面に亀裂が走り、奈落が誕生致しました。


 その光景を目にして、サーちゃんさんの飼い主さんは目を見開きました。表情は恐れに染まっております。


「……おやおや。貴方様に一歩近付こうとしただけなのですが。困りましたね。仲良く握手など、してみたいのですが」

「く、来るなあ!」


 サーちゃんさんの飼い主さんは己の手を壊されると錯覚して、私に背を向けて逃げ出してしまいました。

 サーちゃんさんを置いて行ってしまわれましたね。


「これ、責任を押し付けられてしまったのでしょうか?」


 私ががっくりしていますと、マグさんが抱き付いてきました。


「青方、ありがと」

「ええ。構いませんよ」


 構いません、けれども、困りましたね。屋敷の修繕費など、今の我々では出せません。


 私がこっそりと慌てていますと、依頼人さんが狼男さんに身体を支えて貰いながら立ち上がっておりました。

 すかさず、私は言い訳を開始します。


「あのですね、これはーー」

「聴いていました。貴方たちは悪くないわ。悪いのはあっちよ」

「あ、そうでしたか。なら、良いです」

「貴方、良い人ね。仲間の為に、あそこまで怒れるなんて。身分も気にせずに」

「怒っていましたか?」

「ええ、とっても。そして、ありがとうね。あんな奴と危うく家族ぐるみの関係になるところだったわ」


 まあ、そうなりますね。

 ペット(この表現で合っているのかは不明ですが)の結婚相手のお家とは、嫌でも仲良くせねばなりませんからね。


「だから、貴方たちに私は協力してあげる」

「何をですか?」

「貴方たちは店を建てたいのよね?」

「何処でその情報を?」

「ギルドの受付の人に聞いたわ」


 私、あの方にその話をしましたっけ?


「援助して上げる」

「誠でございますか? というよりも、屋敷は宜しいので? 壊れてしまいましたし」

「構わないわ。ここは別荘だもの」


 スケールが違いますね。

 貴族さんたちの世界観は凄いです。食糧難のご時世だというのに、凄い方は凄いのですね。


 文句を言うつもりはございません。

 貴族さんたちは貴族さんたちなりの方法でお金を稼いでおられるのでございますからね。


 依頼人さんのお家は、少なくとも悪政はなさっていないでしょう。ですから、非道だとは思いません。


 それに、私がお店を建てた暁には、誰もが気軽に食事ができる場所を作るつもりです。

 もう食糧難で人々を苦しませないようにするのです。


 依頼人さんの援助は受けましょう。

 ただ甘えるだけでなく、当然利益を返却致しますのでギブアンドテイクでございます。


「では、よろしくお願いしますね」


 この日、資金という課題がクリアされました。

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