百年早い
サイクロプスのサーちゃんさん。
彼女はその恵まれた肉体から繰り出す屋根破壊を披露しました。
屋根があっさりと破壊され、中にいた我々が露わになります。
「大きいですねえ。というよりも、どうして天馬とサイクロプスをお見合いさせようと?」
「相性が良かったのよ。タマちゃんはどのメスにも近寄らなかったのに、サーちゃんの接近だけは拒まなかったのです」
ほうほう。
タマちゃんさんはあの様なお方が好みなのでしょうか。逃げないとは。
先程は見た目が嫌いだから嫌だと仰っていましたが。ツンデレさんでございましたか。
ツンデレ。
どれだけ酷いことを言われても、相手を好意的に見られる魔法の言葉でございます。
「ち、違う。我はただ怖かっただけだ」
どうやら好みではなく、怖くて震えて逃げ出せなかったようでございますね。
と、そのことを私は依頼者さんにお伝えします。すると、彼女は首を傾げました。
「そうなの? ずっと見つめ合って、お互いに離れなかったのに」
「目を離した瞬間、性的に取って食べられると思っただけだ!」
「あんなに仲良く一緒にいたのに?」
「ただ身体を掴まれてひたすら求愛行動されていただけだ!」
見事に意見が食い違っておりますねえ。
依頼者さんが幸せであろうと思ってやったことが全て裏目に出ていますね。
他者の幸せは、他人には決められない、ということでございましょうか。
私もペットを買う際には気を付けましょうか。
そういえば昔、友人が御両親にペットが欲しいと強請ったとき、ペットボトルで我慢しなさいと申し付けられておりましたね。
元気にしているでしょうか。彼と彼のペットボトルさんは。
彼はあれからペットボトルを肌身離さない、不思議な子になってしまわれました。
御両親から好きなペットを好きなだけ飼って良いと言われましたのに、ただペットボトルを愛した友人。
懐かしいですね。
と、今はそのような場合ではございませんね。確認しましょう。
「えっと、貴女様がタマちゃんさんのお見合い相手。サイクロプスのサーちゃんさんでございますね?」
「ヴォォォォォオオオ!」
お腹の底に響く、圧倒的サウンド。私は思わず、一歩後ずさってしまいます。
会話を成立させる為に、『創造せよ、至高の晩餐』を使用致します。
「あたしと結婚しなさいいいいい! タマああああああああ!」
先程の雄叫びとそこまで変わったことは仰っておりませんね。
彼女の言葉を聞いて、タマちゃんさんがひいいという声をお上げになられました。
それにしても良い教訓となりましたね。
己の考える幸せが、他者と同一であるとは限らない。今回の依頼では多量のお金を得られましたが、それ以上の知識が得られました。
嬉しいですね。
「結婚しろおおおおおお」
サーちゃんさんは唸り声を上げながら、タマちゃんさんへと手を伸ばしました。
流石に見過ごせませんね。
私は一歩を踏み出しました。
タマちゃんさんへと迫る巨大な手に向けて、全力の蹴りを放ちます。それだけで、サーちゃんさんの手は上空へと逸れました。
「メ、メメメルセルカ!? 強い」
サーちゃんさんが目を丸く広げます。一つしかない目が、ギョロリと光ります。
サーちゃんさんの視線が私へと注がれました。
「お前も良いなあ」
「……マジですか」
色々な理由で無理だと思いますけれども。私、あまり人を容姿で判断したくはございませんけれども、凡そ見て、サーちゃんさんは人ではございません。
率直に申し上げまして、嫌でございます。
けれども、サーちゃんさんは既にメスの目で私を凝視しております。
「ほ」
我が隣では、難を逃れましたタマちゃんさんが胸をなで下ろしておりました。もちろん、比喩でございます。
「私は止めておいた方がよいかと」
「うるさい。結婚しろお!」
サーちゃんさんが咆哮し、私へと再度手を伸ばしてきます。
それを切り払ったのは、ミーアさんでございました。
「よくわからないけれども、俺の友人に手を出して貰っては困るな」
「小癪な!」
痺れを切らしたらしいサーちゃんさんは、屋敷を押し潰そうとなさいました。
それを前へ出て、力尽くで止めたのがマグさんでございました。
「グー飲んだから、聞こえてる。青方に結婚を迫るのは百年早い」
サイクロプスと腕力で拮抗するマグさん。
その背後から無数の火花が撒き散らされます。その元はナルさんでございました。
「マグに全面的に同意するぞ、妾はな」
ナルさんの魔法。魔王級の魔法を無数に浴びてしまい、サーちゃんさんは意識を簡単に失ってしまわれました。
そして最後には、屋敷へとその巨体を倒してしまいました。
屋敷が崩壊しました。




