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躾のなっていないワンコだね

 狼男さんでございますか。

 今日は重ね月の日らしいですし、丁度良いタイミングではございますね。


 通行人と思わしき女性は悲鳴を上げて、そのまま逃げ去ってしまわれました。


「ふぅん。婦女子を驚かせるとは、躾のなっていないワンコだね。お仕置き、して上げようか?」


 ミーアさんが静かに剣を抜き去りました。清涼な空気すらも同時に切り裂いて、甲高い金属音が鳴り響きます。


 その動きに倣うように、我々も構えました。


「グ、グルウゥゥ!」


 狼男さんは首を左右に振り乱し、両腕を高速でブンブンと交差させております。何でしょうか。

 狼男流の殺しの挨拶とかですかね。


 何と恐ろしい動きなのでしょうか。


「青方。マグ、怖い」


 とてとてと歩いてきて、マグさんがひしりと我が右腕に抱き付いてきました。その表情には一変の恐れもなし。


「ず、するいぞ、マグ! 君次、妾も、妾も怖いぞ」

「レディたち、どうしてそんなに緊張感がないの?」


 呆れるミーアさんを放置して、ナルさんもやってこようとしましたが、途中で何かを踏み付けて転んでしまいました。


 全力でお鼻を地面に殴打したらしく、洒落にならない量の血液がドバドバしております。


「お、お。お、おの、おのれ、狼男!」

「ガルル!?」

「そなた、妾に今何をした!」

「ガルル、ルル?」

「ガル、ルルル、ルルガガル」

「ガ! ガルル!」


 ナルさんと狼男さんが口論を開始されました。というよりも、ナルさんは狼男語が話せるのですね。

 凄いです。


 何気に、ナルさんのスペックは高いですよね。


 しかし、あの呻き声に意味があると言うのならば、我が『創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』でどうにかできますね。


 揚げ芋を召喚して、パクパク致します。


 徐々に、耳に言葉が入ってきます。


「姉さん! それはほんまに言いがかりやで。わい、今何もしとらんわ」

「妾が君次の前で恥かいてもうたやん。この落とし前、どないしてつけてくれるん? あぁん!?」

「わいばっかり何でこうなるん? もう嫌や! 狼男って何やねん! 需要ゼロやないか」

「黙っとれ。今、いてこましたるわ」


 おやおやおやおや。

 狼男語とは、関西弁だったのでしょうか。この前、つい関西弁を使ってしまった時は通じませんでしたけれども。


 まあ、良いでしょう。


「あの、ナルさん。聞こえてますよ?」

「き、君次!? これは違うんだ! 妾はそのだな」


 ナルさんが途端に威勢を失い、あたふたし始めました。まあ、よろしいでしょう。


「で、狼男さん。貴方様は何をしていらしたので?」

「逃げてるんや。メルセルカから」

「ほう、それはどうしてでございますか?」

「あの家は異常や。いや、あの家やない。あの娘があかんねん」

「あの娘?」

「シックザール家の御令嬢や。あの子だけはあかん。あの娘は命を何とも思うとらへん。わいらの命で遊んどる。特に、タマちゃんやん何て……」


 タマちゃんやん?

 それはタマちゃんさんのことでございましょうか。となると、依頼人のあのゴスロリさんこそがシックザール家の御令嬢でございましょうか。


 彼女が命を弄んでいる?

 そうは見えませんでした。けれども、狼男さんの証言もまた、嘘を言っているようには見えません。


「話はわかりました。取り敢えず、タマちゃんさんにお会いしたいです。どちらにいますか?」

「教えへんで。わいらは今夜、タマちゃんやんに逃げて貰う為に、脱走したんや。わいらはタマちゃんやんを守る!」


 狼男さんが向かってきます。

 一番に対応したのはミーアさんでございました。彼女は翻訳ができていませんので、狼男さんを野獣だと勘違いしているようでございます。


 剣撃が煌きます。直後に、狼男さんは地面にひれ伏しておりました。


「峰打さ。命は奪っていない」

「わあ。ミーアさん、ナイスでございます」


 私は狼男さんに駆け寄って、ギルドでのことを話しました。


「やっぱり探しとんのか。で、あんさんらが刺客と。こら、幾らタマちゃんやんでもヤバイかもな」

「私はきちんとお話が聴きたいのです。一体、貴方様方は何をされているので?」

「言えへん。わいらの獣としてのプライドが口を開かせーーあいたたたたた! 喋る! 何でも喋ります!」


 口を閉ざそうとした狼男さんに、ナルさんが魔法を打ち込みました。非道ですね。


「あははー。焼き狼だあー。いけー。燃やせー、焼き尽くせ! 愚か者たちには裁きの劫火を見舞うのだ!」


 トートさんがエキサイトしてきましたね。黙らせる為に、お口にジャストサイズのバーガーを挟んでおきます。


「あの娘は鬼何ですわ。嫌がるわいを水攻めにしたり、嫌がるわいの首に鎖を付けたり、体調悪いのに無理矢理外を連れ回されたり。もう、わいらは限界なんや」

「それ、普通に可愛がられているだけでは?」

「わいらは普通のペットやないで。確かに、言葉は通じひんけどな。ペットちゃうねん」

「そういうものでございますか。まあ、確かに私が同じ状況でも嫌ですが」

「やろ? 兄さん、話わかんなあ。それでやで? 何と今夜タマちゃんやん、お見合いさせられんねん!」


 お見合い、ですか。確かに、無理矢理やらされるのは苦痛でしょうね。


「しかもやで。お相手のまた醜いこと! メルセルカ基準やと可愛いんかもしれへんけどな。わいらにとって、あれはもうバケモンやで」

「なるほど、なるほど。貴方様たちはお見合いが嫌なのだと?」

「せやせや。なあ、兄さん。できたら、うちの嬢ちゃんに話つけたってくれへんか? この通りや、助けてくれ」


 狼男さんがその場に寝転がり、お腹を見せてきます。正直、見たくありませんでしたね。


 けれども、彼の熱意には敗北しました。


「よろしいでしょう! お話をしてきましょう。さしあたっては、タマちゃんさんの居場所をーー」

「わいを騙すつもりやな。タマちゃんやんの居場所はーーあいたたたたた! わかった、わかったから! 言うから勘弁してやぁ!」


 タマちゃんさんの居場所が判明しました。

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