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あ、ちょっと離れてください

創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)

 マグナト商品を自由自在に召喚できるスキル。


 この圧倒的王の力を行使して、大量のハンバーガーを生み出します。もちろん、ご一緒に揚げ芋も付けてあります。


 抜かりのないマグナト店員でございます。


「さ、どうぞお召し上がりください」

「……」


 おや、返事がありません。どうしてでしょうかと疑問して、わたくしは周囲を見回します。

 いません。


 私が可愛らしく首を傾げますと、下の方から返答が帰ってきました。どうやら、マグナトの海に溺れていたようです。

 幸せな方ですね。


 彼女をマグナト海から救い出し、バーガーと揚げ芋を手渡します。


「さ、召し上がれっ!」

「うん」


 ゆっくりとゆっくりと、マグさんはバーガーを唇に近づけていきます。バーガーが唇に、触れました。

 唇が徐々に開いていき、バーガーを齧る事が可能な大きさになります。


「あの……あんまり見つめないで」

「おっと、失礼しました」


 誰だって、食べるところをまじまじと見られていい気分はしませんよね。皆様もお気をつけくださいませ。


 私は後ろを向き、彼女が咀嚼し終えるのを待ちます。女子の生着替えを見ないようにしている気分でございますね。


 彼女がバーガーを食べ終えました。

 素早く、振り向きます。


「どうでございましたか?」

「美味しい」

「リアクションが薄い!」


 バーガーを舐めているのでしょうか。否でございますよ。バーガーは舐めるものではなく、噛むものでございましょう。


「あ、揚げ芋はどうでしょうか」

「美味しい」

「語彙が乏しい!」


 何でしょうか、このリアクションの薄さは。もしや、このお方は感情を失ってしまったのでしょうか。

 何という悲劇。


 マグナトで救われないなど、もうこの世界の誰もどうしようもありません。


「喉が渇く」

「そうですか。では、これを」


創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』は当然ドリンクも完備しております。


 私が召喚したのは、『グー』という飲み物でございます。喉越しも味も爽やかで、白ぶどうのほんのりとした甘さが癖になりますね。


 それをマグさんに渡しました。


「これ、何?」

「ああ、ストローでございますよ。口を付けて、吸うのです」


 マグさんは理解はしていないのでしょうけれど、私の言った通りの動作をなさいます。


「さて、一体どの商品がマグさんの好みに合うのでしょうか」


 私が彼女に合う商品を考えていた時でございます。悲鳴が轟きました。

 マグさんからでございます。


「どうなさいましたか!」

「うまああああい!」

「へ、へ?」

「この水、すっごく美味しい! 何これ。口内を侵食する甘い氾濫。意識が一緒に流されてしまいそう。舌に触れた瞬間、さっと甘みを放って、喉に幸せを置いていく。この世界にここまで素敵な味があるだなんて」

「お、お待ちください! いえ、悪くはありませんが、え、えぇー」


 マグナトの商品は全て最高ではございますけれども、ドリンクは何というかその……ですね。


 彼女は興奮した様子で、グーを飲み続けます。普段の低いテンションが嘘か幻のようでございますね。


 私が完全に気圧されていますと、彼女がグーを飲み終えました。

 幾ら吸ってももうないことを理解して、彼女はショボンとしました。


 幾らでも出せるので、問題はありませんけれども。


 と、マグさんがおかわりを要求してきました。


「う、承りました。で、ですから、バーガーの方もですね」

「早く」

「ミ、ミニ揚げ鶏など如何ですか?」

「早く」

「う、うぅ。わかりましたよ」


創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』を起動します。


「どうぞ」


 彼女はご機嫌なご様子で、グーを飲み始めます。困りましたね。


「はぁ、私も食べましょうか」


 美味しいです。ですが、どうしてでしょうか。テンションが上がりません。


 マグさんがごくごくタイムを過ごし、私がむしゃむしゃタイムを謳歌していると、森の奥から様々な獣が集まって来ました。


 匂いにつられてやって来たのでございましょう。


 警戒して、マグさんが私に近づきます。私の服の袖を掴み、周囲の獣たちを睥睨します。


 その時、私の体に異変が生じました。

 くしゃみが出たのです。そして、目が異様に痒くなってまいりました。鼻水が止まりません。


 あれ、これはもしや。


 私は戦慄しておりました。隣では、マグさんが私を見て驚いております。


 そうです。

 私は猫アレルギーでした。まさか、猫の魔界族であるマグさんも駄目だとは想像もしておりませんでした。


 彼女を抱き締めた時に、鼻がムズムズしたのは恥ずかしさが原因ではなかったようなのです。


 困りましたね。


「青方。大丈夫?」

「あ、ちょっと離れてください」

「えっ」


 マグさんが泣き出してしまいました。いや、申し訳ないですが、アレルギーはどうしようもありません。


 アレルギーによって涙する私、私の言葉によって涙するマグさん。

 匂いにつられてやってきた獣たちは、私たちを見てドン引きでございました。


 バーガーを差し上げますから、そのような目で見ないでくださいませ。


 私は物理的にも、精神的にもおいおいと涙を流しました。

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