マグは青方と寝たかった
お風呂場で、私とミーアさんは並んで正座をしておりました。
無論、最低限タオルは巻いておりますよ。
マグさんとナルさんは、同じくタオル姿で腕を組み、私とミーアさんにお説教なさいます。
正直に申し上げますと、ご褒美でございますね。
美少女の裸体(水着がございますがね)を見放題でございますよ。もちろん、きちんとお話は耳に入れておりますよ。
「あ、足が痺れてきたんだけど。それに俺はどうして怒られているのかよくわからないんだよね」
まあ、ミーアさんとしては男性だから男風呂に入ったのに、何故だか怒られている、という状態ですからね。不思議がってもおかしくはございません。
けれども、まだ御自身を男性だと考えていらっしゃるのでしょうか。何度か、自身が女性であると理解しているような言動を耳にした覚えがございますが。
「そうですね。私もこのままではお湯に足を踏み入れる前に、のぼせてしまうかもしれませんね」
熱気が私の頬を撫でます。
現在、我々がいるのはどうしてだか女湯。お客は我々しかいませんので、まあ問題はございますまい。女湯に期せずして侵入できて、やや私は浮足立っておりますよ。
それはミーアさんも同様のようでございまして、楽しそうに周囲を眺め回しております。本来ならば、普通に入れるのですがね、彼女は。
「それもそうだな。妾としても、折角の混浴だ。君次と楽しみたい。ミーアの独断のようだし、妾は君次を許しても良いよ」
「マグも。青方とお風呂」
どうやら誤解は解けたようでございますね。幸いにございます。
しかし、ミーアさんの罪は許されないようでございますね。悲しいことです。けれども、彼女も今は仲間なので、是非とも共にお風呂に入りたいものですね。
別に、美少女が一人でも多いと嬉しいなどと思っておりませんからね。
「ミーアさんも反省するでしょうから、今は許して差し上げましょうよ。一緒の方が楽しいですからね」
マグさんとナルさんは渋々といった様子で、ミーアさんのことも許してくださいました。さあ、では、レッツ混浴。
露天風呂に戻ってきました。
木製の壁に囲われた、少し大きめのお風呂でございます。木の濡れる良い香りが、我が鼻孔を優しくくすぐります。空を見上げますと、そこには漆黒がございました。点々と煌びやかな星々が、夜空にばら撒かれた宝石のようですね。
深い深い暗闇は吸い込まれそうで、私の視線はすでに釘付けでございました。
熱気が身体を火照らせますが、微風が吹き抜け涼しさをくださいます。
露天風呂の良いところでございますよね。この暑さと涼しさの同居する感覚。素敵ですね。
身体は先程洗いましたので、軽く肉体へと水をぶつけるだけで準備は完了でした。つま先からゆっくりとじっくりと、お湯の中に突入致しました。
身体の芯が溶かされるような感覚、陶酔感。
肩までお湯に入ると、はあー、という息が漏れました。思わず、顔が弛緩しますね。
「君次。隣、良いか?」
「ええ、構いませんよ」
私の隣にナルさんが座り込みました。彼女もまた、幸せそうにお湯の気持ちよさに身を任せておりますね。そっと、私の肩に首が置かれました。
お湯の温かさとナルさんの温かさ。混ざり合い、私の顔が朱に染められました。
一方、マグさんは無言で私の前に入ってきました。
「マ、マグさん!? 流石に困ります! 私、水着を着ていないので」
「構わない」
「構いますからね、私が」
「知らない」
知って欲しいものですね。
けれども、とまれ。静かに、温泉を楽しみましょうか。
素敵な夜空に、快適な温泉。近くには絶世の美少女三人。後、トートさん。実に素晴らしい温泉ですね。
穏やかな時間をたっぷりと楽しんでから、私達はお風呂から出ました。入浴後、私は『創造せよ、至高の晩餐』で召喚したグーを飲みます。
隣り合って、ナルさん、マグさん、ミーアさんも飲みます。腰に手を当てて、でございます。コーヒー牛乳ではありませんが、グーだって負けておりません。
「入浴後の一杯は格別だなあー」
「ですです」
ナルさんのお言葉に同意を返しつつも、我々はお部屋へと戻ります。お部屋のドアを開けると、何ということでしょう。王宮のような絢爛豪華なお部屋が一変して、和室に変貌しているではございませんか。
「何ですか、これは」
部屋は間違っておりません。どういうマジックを使用したのかは不明ですが、洋室が和室に変わっておりました。畳の上には、三つの布団が丁寧に並べられておりました。
それを見て、頬を膨らませたのはマグさんでございます。
彼女は布団を睨みながら、
「マグは青方と寝たかった」
と、文句を仰います。実にかわいいですね。猫耳さんもしゅんとなさっております。そのような悲しい顔をされてしまうと、マグナト店員としては放置できません。
「良いですよ。少し狭いですけれども、一緒に寝ましょうか」
猫アレルギーはスキルでどうにかできましょう。
「妾も! 妾も一緒に!」
微笑ましいですね。
今宵、我々三人は狭い、けれども温かいお布団の中で、共に眠りにつきました。




