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誰得でございますか、これ

「誰得でございますか、これ」


 呻くように、我が声帯は震えておりました。何でしたら、我が身体も恐怖によって震えておりました。


 何ですか、これ。

 何方も喜びませんよ。いえ、重度の年上好きには堪らないのかもしれませんね。

 おばあさんの肉体を詳しく描写しても構わないのですが、我が精神が壊れるかどうかのチキンレースが開始されますので、敢えてやめておきましょう。


 私としたことが、ファンサービスができないとは。青方あおかた君次きみつぐ最大の失態でございますね。


 おばあさんの裸体から目を背け、私は尋ねます。


「あの、ここは男風呂の筈ですが。どうしてこちらに?」

「ん? ここは混浴よ」

「ふええ!?」


 慌てて周囲を見渡しますが、残念ながらマグさんもナルさんもいらっしゃいませんね。

 どうしてですか。

 これでは詐欺ではございませんか。私、どうせならばお二人の裸体を拝見致したかったです。


「まあまあ。一緒に入るかい?」

「お断りします!」

「まあまあまあまあまあまあ。若い子の肉体を見ることくらいしか、おばあちゃんには楽しみがないのよ」


 酔狂な趣味をお持ちのようで。

 まあ、構いませんけれどもね。我が魅惑の裸体は多くの女人にとっては眼福となるでしょうからね。


 伊達に毎日マグナトバーガーを食しておりませんよ。

 お客様にマグナトバーガーのことを勘違いされないように、日々の筋肉トレーニングや有酸素運動は欠かしたことがございませんからね。


 ふふふ、おばあさん。

 ならば、刮目してご覧あれ。私にも無論羞恥心はございますが、相手が数百歳も上ならばもう気になりません。

 我が肉体の観察が目的ならば、それもまたよろしいでしょう。


 お客様の幸せこそが、私の幸せでございますからね。まあ、今はあちらがお店側で、こちらが客ですが。

 それは些事なり。


 私がどうどうと裸体を見せつけ(最低限タオルは巻いておりますからね。私、露出で捕まりましたが、露出狂ではございません)、おばあさんへと視線を向けました。


 そこにはーーマグさんとナルさんがいらっしゃいました。


「ふわあああぁぁ」


 マグさんがかわいらしい鳴き声と共に、私を凝視致しました。


「そ、そ、そそそそれは妾には刺激が」


 ナルさんは鼻血をタラタラと流し、自らの血液で滑って転んで頭を床に打ち付けておりました。


 それが原因で、巻いていたタオルが落ちました。その下には何と、水着がございました。


 ……なるほど。それを着ていたので、こちらへ来るのが遅かったのでございますか。


 君次なっとくー。


「これは……ちゃうねん」

「青方。言葉変」

「それはいつものことだと、妾は思うぞ」


 裸体をまじまじと見られてしまったショックから、私としたことが取り乱してしまいましたね。

 いいえ、プロマグナト店員たるもの、このようなことで取り乱したりは致しません。そう、今取り乱したのは我が裏人格ジョンでございます。


 さらば、ジョン。

 貴方様は全国のジョンさんに謝罪なさいませ。


「説明させてください! おばあさんが我が裸体を見ることを所望されたので……」


 いや、この理由もこの理由で駄目な気が致しますね。ここでの正解は沈黙でございます。


「おばあさん? いないぞ? 君次、そなたもしかすると、その熟女というか、老婆好きなんじゃあ……」

「違いますよ!」


 ナルさんがとんでもない発言を私に浴びせ掛けてきます。私の繊細なハートはズタボロでございますよ。


「……青方」

「何ですか?」

「その性癖、だめ」

「だから違いますって! 誤解ですよ!?」


 マグさんまで。


 もう私は誰を頼りにお風呂に入ればよろしいのでございますか。半分泣きそうになっていますと、トートさんが見えました。


「トートさん! 貴女様からも仰ってくださいませ」

「触るな、ど変態」

「ええー」


 味方は何処。

 諦めて、私は男湯へと逃げ去りました。バタン、とドアを閉めます。


「はぁはぁ。大変な目に遭いましたね」

「どうしたんだい? そんなに息を切らせて。何かあったのかい?」

「ミーアさん!?」


 全裸のミーアさんがいらっしゃいました。彼女は下半身こそタオルで隠していますが、上半身はその……


 彼女は御自身を男性だと思っていたのでございました。


 これはいけない。


「早く! 早く、露天風呂へ! 混浴なので」

「そうなのかい! 楽しみだね。ふふふ、待っていなよ、俺のレディたち。メロメロにしてあげるよ」


 ミーアさんが露天風呂へと駆けていきます。ドアを開き、その後すぐに悲鳴が響きました。ミーアさんのものですね。


 大方、お二人何方かに襲いかかって返り討ちにされたのでございましょう。


 私が呆れていますと、向こうからドアが開けられました。


 そこには白眼を剥いたミーアさんを、肩に担いだマグさんがいらっしゃいました。


「青方、説明」


 どうやら私がミーアさんを男湯に連れ込んだと勘違いされているようでございますね。

 私、いつナルさんに触れたのでしょうか。


 取り敢えず、バーガーを咀嚼しておきます。

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