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では、いざ参りましょうか

 入り口やロビー、廊下などとは反対に、部屋はあまりにも美しかったのでございます。

 丁寧に掃除された家具たちは、天井のシャンデリアの光に照らされ輝きを放っております。ソファやベッドなどには埃一つなく、見ているだけで心までふかふかしてまいりますね。


 もう、全てが規格外のお部屋でございました。私とマグさんはそれに圧倒されています。

 ナルさんは慣れてらっしゃるのか、平気なお顔でございました。


「ベッドは一つかー」


 と、ナルさんはこの部屋に備え付けられたただ一つのベッドに接近していきます。


「広いな。妾はもう少し狭いほうが好みだけど」


 ベッドの質感を掌で楽しんでおります。

 ベッドが一つですか。でしたらば、私はどうやらソファで寝ることになりそうですね。幸いなことに、ソファまでもふかふかなので、問題はございません。


 身体を痛めてしまっても、『創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』があればどうとでもなりますしね。


 安心健全な青方くんなのでございました。


 さて、寝る場所も久し振りにきちんと存在します。まあ、ソファですが。

 これで少しは寛げるでしょう。


 マグさんもナルさんも、幾らお強いと言いましても、年頃の美しい少女であることは不変でございます。ですから、きっと野宿などは精神的に負担が大きかったことでございましょう。

 その負担が少しでも晴れるのならば、やはり宿をとって正解でしたね。


 後は、そうですね。

 旅の疲れや汚れを落とす意味で、お風呂に入りたいものです。


 この宿には何と温泉があるらしいのです。先程、トートさんに教えて頂きました。


 普段はナルさんの水魔法による水浴びなどで済ませてきたので、これは幸いです。いい加減、現代日本人であった私には耐え難かったので、素直に嬉しいですね。

 お風呂に長らく入っていませんと、日本で暮らせる幸せさが身に沁みますね。異世界ではお風呂も簡単には入れません。


わたくしはお風呂に行ってきますね!」

「マグも」


 と言って、マグさんは私の後についてきます。猫耳さんがウキウキしていらっしゃいますね。

 マグさんの行動は少し、猫というよりも犬っぽいですね。ちなみに、私は断然猫派でございますけれどもね。


 本当に、猫アレルギーさえなければ、もっとマグさんを堪能できたものを。『創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』でどうにかできるとはいえ、不便なことです。


「君次。妾も行く。一人でいてもつまらないからな」

「ですかね。では、ミーアさんも誘いますか?」

「あの女はなあー。妾たちの裸体に発情するから嫌だな」


 まあ、そうでしょうね。

 ミーアさんは己を男だと思い込むことによって、周囲から認めて貰おうとしていました。まだ、その感覚は抜けることなく、存在しております。

 その精神的弱点を突かれて、ミーアさんはジョアンさんに洗脳されていたのでしょう。


 ですからこそ、洗脳されていたとき、ミーアさんの周囲は事実を話すなと言ってきたのでしょうしね。


 という訳でして、マグさんとナルさんの貞操を懸念して、ミーアさんは放置ということになりました。申し訳ありません。


 三人と一本でお風呂に向かいます。一本とは、無論トートさんのことでございますよ。


 お風呂場には容易く到着致しました。途中の道が薄暗く、非常に不気味ではございましたが、まあ到着できたので問題ではございません。


「ほうほう」


 古めかしいタイプの脱衣場ですね。

 入り口は二つ。暖簾があり、何やら文字が書かれております。私とマグさんは読めません。


「なっ! こ、これはマジかぁ!」


 ナルさんが一人、驚愕の表情を浮かべております。一昔前の少女漫画での驚愕顏でございますね。


「で、どちらが男風呂なので?」

「……そっちだ」


 指差されたのは右側。さあ、行きましょうか。


 私は服を脱ぎ、さっとお風呂場に入りました。幸いなことに、ここは日本のお風呂と大差ありませんね。

 過去の欲望者などがどうこうしたのでしょうか。慣れた手つきで、私は頭と身体を洗い切ります。


「では、いざ参りましょうか」


 露天風呂はドアを隔てた先にございます。楽しみですね。

 そういう思考の後に、ドアを開けますと、そこには、


「あらあら」


 全裸のおばあさんが待ち構えておりました。うわあ。

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