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惚れるって

 近いです。

 これは私がナルさんと共に歩き、感じたことでございますね。


 ナルさんと共に買い物に行くということになったのは良いのですが、彼女が私に接近戦を挑んでくるのでございますよ。

 接近戦といっても、実際に戦をしている訳ではございませんけれどもね。


 現在、彼女は私の腕に御自身の腕を複雑に絡ませて、頭を私の肩においております。


 歩き辛いですね。


 しかし、ナルさんがルンルン気分の御様子なので、そこに口出しをするような無粋なことは致しません。


 マグナト店員たるもの、店内でのお客様のいちゃいちゃにある程度目を瞑ることなど児戯に等しいのでございます。

 流石に、店内でお洋服を脱ぎ出したのならば止めますがね。

 あ、もちろん、着物でも止めますよ。


 スクール水着ならば、もう許しましょう。


 さて、戯言はともかくお買い物でございますね。今回、我々はこれから必要になるものを購入する為にやってまいりました。


 けれども、ナルさんも女性。

 一筋縄ではいかないでしょうね。


 かわいらしいお洋服などがあれば、ついつい目がいってしまっても責めることはできません。


 私も、通りにマグナトがあればついつい入ってしまいますからね。仕方ありませんよね。


「ナルさん。何か欲しいものはございますか?」

「君次との幸せな家庭かなあ」

「あははははは」


 実に愉快なジョークですね。

 私程度がナルさんと釣り合う訳がございませんよ。私の美点といえば、マグナト店員であること。そして、スキル『創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』を使えるくらいでしょう。

 あれ、これはモテますね。


「ナルさん、ナルさん! あのお洋服など、ナルさんに似合うのでは!?」

「ノリノリだな、君次」

「ふふふ。どうせならば楽しむ。これは基本ですよ、マグナト店員さんのね」


 それにナルさんには普段お世話になっております。ここで恩を返しておくのも悪くはないでしょう。


 私はナルさんにグーを渡しつつ、お洋服屋さんに入ります。グーを渡す理由は勿論、不運対策でございますね。


「らっしゃーせー」

「いらっしゃいま……ありがとうございます」


 癖で木霊を送るところでございました。フェイントやめて欲しいですね。


 店に入りますと、すぐさま店員さんが襲来なされました。


「いらっしゃいませ。こんにちは。何かお探しですか?」


 店員さんはナルさんに近寄り、何やら流行のコーデなるものを語り始めました。実に素敵な接客ですね。

 私ではこの世界のコーデ、わかりませんから。


 ふむふむ、と私は聴いております。


「あ、い。いや。あのだな」

「そして、このパープルがーー」

「ま、待ってくれ。妾は君次にだな」

「でも、彼女さん美人さんですから、しっかりと選べばきっと彼氏さん惚れ直しますよー」

「ほ、本当か!?」


 店員さんが慣れたテクニックでお洋服をナルさんに手渡していきます。

 ほうほう、これが異世界流の接客でございますか。異世界のお洋服は、少々素材がよくありませんね。また、デザインも素朴なものが多いです。


 それでも、味のようなものはございますね。

 特に、ナルさんのような素敵な女性が着れば素敵度無限大。


「あ、どうぞ。試着室で合わせてみてください」


 沢山のお洋服を持って、ナルさんが試着室に突入さないます。

 着替えに合わせて、衣擦れの音が鳴り響きます。耳を擽る音。


 ドキドキしてきましたね。さて、どのようなナルさんが現れるのでございましょうか。女性とお洋服を買いに来た時、一番ワクワクするのがこの瞬間でございますよね。


 待ちきれずにそわそわしておりますと、うぎぁああぁという悲鳴が鳴り響きました。

 敵襲でございましょうか。と、私は慌てて試着室のシャーっとなる奴をシャーと致します。


「ナルさん!」

「君次ぅぅぅうううう!」


 なんと言いますか。ナルさんはお洋服を着れておりませんでした。

 正しく、ボロボロでございました。


 惨事でございました。

 どう服を着ればそうなるのでしょうか。


 右肩にはシャツとジャケットが三枚ずつ。首にはスカートがかかり、頭にはワンピースが覆い被さっておりました。


 下には何も着ておりません。


 中々壮絶的に眼福な光景な筈なのですが、何故でしょうか。とてつもなく残念な気持ちでございますよ。


「何故、そうなったので?」

「……だって。惚れるって。着れば、惚れるって。いっぱい着たら、いっぱい惚れ直すと思ったんだよ!」


 ナルさんは涙目で、私をうるうる見つめます。私が悪いことをした気分になりますね。


「ギネスチャレンジではありませんので、一枚ずつ着ましょうよ。ナルさんならば、どれも似合いますよ」

「君次。妾は馬鹿なのかなあ。なあ、妾は馬鹿なのかな」

「いいえ! ……おそらく」


 やり直し、今度は普通にお洋服を着たナルさんが現れました。


 水色のふくらはぎ辺りを覆い隠すスカートを履いておられます。露出し過ぎず、されどもナルさんの長い足が微かに見えて色気もございますね。上品な、ナルさんの外見的特徴とマッチしていて、見事な選択と讃えることしかできません。


 上半身は単純に軽めのシャツ。その上から小さめのジャケットを羽織っておりますね。

 私、ファッションには詳しくありませんけれども、ナルさんが着ているからでしょうか。

 かなり心惹かれております。


 ただお上品なお嬢様風ではなく、ほんのりと香る大人センスが格好良いですね。


「良いですね、ナルさん。好きですよ、その服。実に似合っております」

「す。好き! 妾も好きだ!」


 では、それを購入しましょうか。それからも店員さんによる見事な接客が行われました。


 結局、何着も服を買うことになりました。必要経費でございますね。

 かわいいお洋服を着るとテンションが高まり、今後の働きにも影響するでしょうからね。悪いことはございません。


 それに、かわいらしいナルさんを見れれば、私の意欲も高まりますからね。


 お会計します。


「ポイントカードはお持ちですか?」

「申し訳ございません。ありません」

「お作り致しましょうか? 今なら無料ですぐにお作りできますが」


 我々は住所不定無職。作れませんね。


「いいえ。申し訳ありませんが次回ということでお願いします」

「はい、わかりました」


 メルカを払い、お店を後にします。


「ありがとうございました。また、お願いします!」


 気持ちの良い接客を抜けて、我々は他の方と合流すべく歩き始めます。


「君次、今日はありがとう」

「私こそ、楽しかったですよ。また、行きましょう」

「うん! そうだな。また二人っーー」

「今度はマグさんたちも一緒に」

「……惚れ直すんじゃなかったのかよ」


 今日は実に良い買い物ができましたね。ナルさんの仰る通り、素敵なナルさんが沢山見れて惚れ直しそうでございます。

私、あまりファッションがわかっておりません! 変でしたら、もうどんどんご指摘下さいませ! ファッションセンスを磨いて出直してきますね。

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