私の服はダサくありません
猫耳少女さんーーマグさんと共に外に出ました。周囲には当然、檻も壁もございません。
「脱獄。死刑になる」
マグさんが不安そうに呟きます。
お客様を不安にさせるのはポリシーに反しますので、ここはフォローを入れておきましょうか。
「脱獄ではありませんよ。ほら、ご覧下さい」
私は巨大な穴が開いた壁を指差します。見るも無残な姿で、暫くはこのアリーナも使用不可となることでございましょう。
「我々は脱獄などしておりません。これは脱アリーナでございます!」
「本当だ」
「確かに、この国では脱獄は死刑なのでございましょうとも。しかし、法律さんは脱アリーナがいけないことだと明記していますか?」
「わからない」
「それが答えでございます!」
「凄い」
「我々は処刑されません!」
「しゅごい」
マグさんは私の説得力しかない言葉に納得してくださいました。私はプロマグナト店員でございますから、説明は得意なのでございます。
お客様に商品について質問されたら、即座に返答することが可能なのです。
「では、行きましょうか」
「……何処へ?」
私は絶句致します。
私は何処へ向かえばよろしいのでしょうか。わかりません。マニュアルも地図もない旅です。
「マグさん、行きたい場所はございますか?」
「特にない」
「んもう、青方さんそういうのが一番困るのよ」
「青方?」
「ああ! 忘れておりました。申し訳ありません。私の名前は青方君次と申します」
私は懐から名刺を取り出そうとして、服ごと持って行かれたことに気が付きました。
うう。
お気に入りでしたのに。
はあ、なんでございましょうか。
この圧倒的な喪失感は。
「青方。逃げないと、追われる?」
「あ、そうでございましたね。取り敢えず、移動しましょうか」
この街にはもういられません。ですから、大人しく出て行きましょう。
最悪野宿となっても、私の『創造せよ、至高の晩餐』があれば飢えることはありません。
雨や風も、バーガーで家を組み立てればどうにかなりそうです。やはり、マグナト商品は完璧ですね。
できるだけ目立たないように移動しているつもりなのですが、街人たちは我々を凝視します。
初めはどうしてだかわかりませんでしたが、少しずつ理解してきました。
私ではなく、マグさんが注目を集めているのです。
マグさんの容姿は良い方です。若干栄養が足りずにやつれてはいますが、それでも私から見れば十分な程の容姿を保持しております。
ですが、今回はその容姿を良くは捉えられていないご様子。
魔界族として、奇異の目を向けられているのでございます。
マグさんは悲しそうに、俯きながら私の背後を追従しておりました。
次に行く場所が決まりましたね。
「マグさん、魔界族の住居に行きましょう」
「魔界族」
「そうです。貴女様のお仲間でございますよ。貴女様は御自身を汚いなどと仰いましたが、さて、他の魔界族を見て同じことが言えるのか」
見ものでございますね。
暫く歩きますと、門が見えました。
「おい、そこの二人止まれ! お前たちは脱獄した奴らか」
「いいえ」
「嘘を吐け! 妙なダサい服を着た男と魔界族のメス。話に聞いていた通りだ!」
「妙なダサい服、ですか」
「そうだ! お前たちだな」
「いいえ。私の服はダサくありません」
何ですか、このお方は。
失礼しちゃいますでございますね。
マグナトバーガーの袋で製作した私の服がダサいなどあり得ません。
むしろ、門番さんの方がダサいですね。ゲームに出てくる門を守る人みたいな服を着ています。コスプレですか?
……お待ち下さい。今気が付きましたが、私は今マグナトバーガーのコスプレをしているのではありませんか?
いゃっほう!
「何だこいつ、急にジャンプしやがった。どのみち怪しいから捕まえるか」
「よろしいでしょう。我が覇道に立ちふさがると仰いますのならば、この私がお相手致しましょう」
相手は槍を持っていますが、問題はありません。今の私は気分が最高ですからね。
バーガーを召喚して構えると、背後で音が聴こえました。何かが高速で動いた音です。
マグさんです。
彼女は相手さんの手首を掴みますと、それをそのまま持ち上げてしまいました。
「消えて」
私たちが来た方向へと無遠慮に投げ捨てました。ぴゅーっと相手さんは空を舞います。
「行こう」
「は、はい」
強い、などという次元を超えております。私、よくこのお方と戦って無事でしたね。
マグさんに殺意がなかったから助かったのでしょう。
街を抜け、森へ出ました。
街の周囲ほど見つかりやすくはありません。この辺りで一度休憩を挟みます。
「それにしても、足は痛くないのですか?」
「うん」
マグさんの足は鉄球付きの枷によって封じられています。彼女の並外れた膂力によって、普通に歩けてはいますけれど。
「外せないのですか?」
「外そうとすると、痛い」
なるほど。
こういう枷を外せる人も、早い内に見つけなくてはいけませんね。やることが沢山でございます。
では、この休憩の間に当面の目的を考えておきましょうか。
そうですね。
まず、一番大切なことがあります。これをやらねば、次へ進めないというくらいの大事な用があります。
そう、何よりもまずするべきことがあるのです。
「マグナト商品を食べましょうか!」
腹が減っては戦はできぬ、でございます。