人の悪意を
「嘘、でございますか?」
嘘を吐かれるほど、私は彼とお話ししていないのですけれども。
一体、どのような嘘を吐かれたのでございましょうか。内容によっては、かなり困ったことになることでございましょう。
「我々欲望者は世界のバグを取り払う為に、ここに派遣されている」
「え」
初耳、ではございませんけれども、そのようなお話は聴いておりませんよ。
行ってこい、と言われて、私はこの世界に派遣されましたからね。
「問題はそのバグの正体さ」
「正体?」
「ああ、あたしたちはバクはバグなのだと説明されたけれども、真実は異なる」
説明されていないんですけれども。
あの神様は説明する時間がないほど、焦っていたのでございましょうか。
「バグの正体はね。もう一柱の神だよ」
「神!?」
「ああ。そうさ。あたしたちは神の命令で、神殺しをしろと言われているのさ」
「それはまた、物騒なことで」
「それだけで済めば良いけどね。神殺しの一番理不尽なところは、あたしたちが絶対神を殺せないって所だよ」
その理由は薄っすらと理解できます。
我々のスキルは神様から与えられたものでございます。そう、神が気軽に、渡せる程度の力。
神から与えられた力で、神を殺すことなど無理と言っても過言ではございますまい。
「それにね。これは推測だけれども、神を殺せばこの世界は消滅する気がするんだ。これはあくまで勘だけどね」
と、聖さんは言葉を締めました。
嘘、ですか。
私は何も聞かされておりませんでした。この世界で好き勝手するつもりでしたからね。
今もなお、マグナト異世界店の夢は放棄しておりませんしね。
「きみも欲望者だ。何かに対して、強い欲望を抱いているんだろね。でも、その欲は捨てた方が身の為だよ」
「どうしてですか?」
「あたしたちのスキルは強過ぎる。反則だ。現に、あたしの能力はその昔、兵器として利用されたことがある」
「兵器!?」
それはあまりに恐ろしい事実でございますね。どうやれば、紙幣や硬貨が兵器となるのでございましょうか。
おそらくは、彼女の能力も私と同じタイプ。であれば、金属などを手に入れたところで、加工ができないのではないでしょうか。
「あたしは舐めていたよ。人の悪意を。そして、魔法をね。まあ、この話はつまらないからしないがね」
あまり過去を詮索するべきではございませんね。しかし、今回のお話は私の未来に関係するかもしれません。
是非ともお話を伺いたいものです。
「神に挑もうなんて、つまらないことは考えるべきではないよ」
「そのようなことは致しませんよ。私は私の目的を達成するのみでございます」
「そうか」
ならいいや、と聖さんは苦笑を浮かべました。
「欲望者は話を聞かないな。まあいいか。久し振りに退屈しなかったよ。また来るといい」
「おや、もう依頼は終了で?」
「ああ。愉快だった。これが謝礼だ」
そう言うと、聖さんは大量のお金を私に渡してきました。
袋いっぱいのメルカでございます。
「こんなによろしいので?」
今回は私が情報を得てばかりでございました。こちらから金銭を払うのならばまだしも、これではあまりにも私が最低でございますよ。
「気にしなくていい。あたしとしては、マグトナルトが久し振りに食べられて愉快だったよ。幾ら金があったところで、この世界では百円のバーガー一つ齧られない」
おっしゃる通りでございます。
「さ、今日はもう帰ってくれ。あたしは用事ができたから」
強引に聖さんは私とナルさんを家から追い出してしまいました。
現在、私の手には溢れんばかりのメルカ。
「かなりの量ですね。これはもう少しでお店を出せるのではないでしょうか」
マグナト商品が売れないわけがございません。そう、お店を出すことさえできれば、後はこちらのものですよ。
「さあ、ナルさん! このお金を貯金致しましょうか!」
「な、なぁ。君次。思ったよりも早く依頼が終わったし、その、だな。デー買い物にでも行かないか?」
「そうですね。それは悪くない提案ですね。必要なものも今のうちに揃えておきましょうか」
「だ、だな!」
「まるでデートのようでございますね」
私がさり気なく告げますと、ナルさんは想定外のことだったのでございましょう。
興奮したのか、鼻から血液が垂れてきました。
「大丈夫ですか!?」
「わからないや」
『創造せよ、至高の晩餐』を使いました。




