暇過ぎて死にそう
その後、何とミーアさんのハーレムメンバーさんたちは帰ってしまいました。
いいえ、彼女たちも気まずそうに、そして申し訳なさそうにご帰宅なさったのです。そこを責める道理はございません。
どうやら、ジョアンさんに洗脳されて、半ば強引に元いた場所からここまで来てしまったようなのでございます。
故郷などから迎えがやってきたりして、彼女たちはお帰りになられました。
ミーアさん率いる(本当はジョアンさんですが)勇者チームとして、ハーレムメンバーさんたちはかなりの実力をお持ちでございます。
いざという時も、安心でございますね。
さて、ミーアさんにとっては寂しいことでしたが、お別れは終わりました。まあ、この世界は広く、また厳しいですが今生の別れという訳ではございません。
また、彼女たちが助けを求めるのならば、私たちはすぐにでも駆けつけましょう。
ナルさんの転移魔法もございますしね。
お別れなどなどがございましたので、我々は数日特に何もせずに過ごしました。
私の訓練もまだ続けられておりますので、本当に何もせずという訳ではございませんけれどもね。
さて、我々の当面の目的はお金を貯めることでございます。
となると、必要なのは依頼を受けること。
我がチームの練度は高いです。それぞれが一騎当千の精鋭でございます。
スキル『創造せよ、至高の晩餐』を操る私、青方君次。
魔界族の圧倒的身体能力と処刑人として幼い頃より戦闘経験を培ってきたマグさん。
不運の魔王として、今まで様々な不運をその魔王の肉体で真っ向から打ち破り、高位の魔法を巧みに操るナルさん。
そして、速度に特化したスキル、高い魔法能力、剣術を高いレベルで安定させているミーアさん。
実に素晴らしい。
やはり、マグナト店員はこれくらいでなければいけませんね。
無論、マグナト店員になれる方は、他のお仕事をさせても大体のことはこなせます。ギルドでの依頼など、もう朝飯前でございます。なお、朝食にはモーニングマグナトをお勧めしますよ。
ということで、私たちは久し振りにギルドにやってまいりました。
「ふむふむ。……字が読めませんね」
「マグも」
「ねえねえねえねえ! どうして文字も読めないの? 所詮、意味のある絵だよ? 棒だよー。一次元だよー。萌えないよ?トートだって読めるよー」
怒涛の勢いでトートさんが喋り始めます。文字がただの棒でしたら、貴女様はただのスコップですからね。
まったく。
まあ、トートさんは生きていますから、その命を尊重致しましょうか。
「叩き折りたい」
マグさんがボソリと呟きますと、トートさんがゲッっと潰された蛙のようは声を発しました。
そうして黙り込みました。
沈黙していれば、トートさんも可愛らしいものでございますね。
容姿はかなり独特ですけれどもね。なんと申しましょうか。スレンダーでございますね。
「こう、特に何もせずともお金の入ってくるお仕事。ございませんかねえ」
「君次! 良い仕事があるぞ」
「ほう、ナルさん。どのようなお仕事で?」
「一夜、妾と共に過ごすだけだ。なあに、言うことを全て聞いてくれればそれで良いんだよ」
「お金を持っていらっしゃるので?」
「……これから貯める」
「では、保留しておきますかね」
残念です。
ナルさんと一夜過ごすだけでお金が貰えるなんて。素敵ですね。ですが、一体何をするのでしょうかね。
ボードゲームとかでしょうか。
さて、と私はミーアさんを見やります。何かを見つけたかもしれませんからね。
と……
「やぁ、お嬢さん。俺と遊ばないかい?」
ミーアさんは冒険者の女性を口説き始めておりました。洗脳されていなくとも、そこは変わらないのでございますね。
「こんなにも素敵な俺の誘いなんだ。誘いを断るいけないお口があったら、この唇で塞いじゃうよ?」
放っておきましょうか。
一言、ファイトと心中でエールを送るに止めておきます。
我々が暫く、あーでもないこーでもないと言い合っていますと、とあることに気が付きました。
依頼の張り紙がされている掲示板。
その隅に、大量の冒険者さんたちがたむろしているのでございます。
そこには何かがあるのでしょうか。
ざわざわと、ギルド内が騒ぎ始めておりますね。いけません。早くここから出ませんと、顎が異様に伸びてしまうかもしれません。
私だけならともかく、女性組のそのような姿は見たくありません。
トートさんの顎が異様に伸びれば、間合いが伸びるのでウェルカムなのですが。
「何の騒ぎですか?」
私は手頃な距離にいた冒険者さんの一人に尋ねました。向こうは快く返答をくださりました。
「画家だよ、画家。世界最高峰の画家の依頼だ。依頼文までがアートでな。今、それについて盛り上がっている」
人の壁を押し退けて、依頼書を見ます。
「何? マジっすか」
と、ナルさんが驚愕しております。まるでど肝を抜かれたようでございますね。
「報酬ーー沢山だと」
実にアバウトな依頼書ですねえ。
あと、怪しいです。こういうのはいざ受けてみますと、あちらが狂っていてサイコなオブジェにされる未来しか想像できませんね。
訝しんで視線を注いでいると、とある重大な事実が絵がかれていると理解できました。
そう、依頼書にはこう記載されていたのです。
『暇過ぎて死にそう。娯楽求む』
と。
そういう文字が日本語で書かれていたのでございます。




