俺もお前に協力する
新たな店員、ミーア・クローバーさんが我が指揮下に参入なされました。
優秀な店員は、マグナト店には不可欠ですからね。彼女ならば、よく働いてくださることでございましょう。
うんうん、と私は何度も頷きました。
「だから、話を聞いてくれないかい?」
「時給のお話でしょうか? 店ができてから、ですね」
「違う!」
ミーアさんは気性が荒いですね。洗脳されていた時はそうでもなかったというのに。
ああ、洗脳といえば、ジョアンさんはどうなされたのでございましょうか。
と、ジョアンさんの方を見やりますと、そこには誰もおりませんでした。
おやおや? という疑問が湧いてきます。
「ジョアンさんはどちらへ?」
「……逃げられたみたいだな」
ナルさんが答えを提示してくださいます。逃げられましたか。
それは残念ですね。
というよりも、ノックダウンしたのにすぐに起き上がってきたということですか。
やはり、魔王さんの耐久力には恐れ入りますね。
まあ、逃げられてしまったのならば仕方がございません。別に、地の果てまで追いかける必要はないのです。
今はそれよりも、ミーアさんを歓迎する時間でしょうね。
「では、みなさん。お食事に致しましょうか。幸いなことに、ミーアさんとの戦闘で大量のバーガーが召喚されたことですしね」
そうです。
戦闘の余波で、現在地面には大量のマグナトバーガーが鎮座しております。
我が『創造せよ、至高の晩餐』によって召喚されたバーガーは、外部からの食べるという影響以外は受け付けません。
ですから、汚れもなく、形一つ崩れることはないのです。
やはり、私のスキルは最強ですね。そして、何よりも最高でございますね。
幸せの象徴たるマグナト商品を幾らでも食せるなんて。
ここは天国でございましょうか。いいえ、ここは異世界です。
「さあ! みなさま、お召し上がりくださいませ。ああ、ミーアさんのハーレムメンバーの方もどうぞ」
それぞれが好きなバーガーを手に取ります。
一番に召し上がったのはマグさんでした。他の方々も、首を傾げながら口にバーガーを運びます。
その後、とても驚いた顔をなされて、ハムハムと召し上がる速度が早まりました。
この世界は食糧難らしく、本当に美味しいものを食べることは中々できません。
現代の知識が生み出した最高の料理であるマグナトバーガーを食べれば、一口でその虜になることは必至。
一度は食したことのある筈のミーアさんも、その目を驚愕に見開いておりました。
「おいし、い? 嘘だろう。あんな男のスキルが、こんなに美味しいなんて。何かズルくないかい!?」
「失礼ですね」
けれども、反応は上々でございますね。
ここは異世界ですので、もしかすると味覚にも齟齬があるかもしれないと愚考しておりました。
マグナト商品が口に合わない生物など存在する訳もありませんのに。
私の心配は杞憂に終わりそうですね。ならば、良かったです。
「これを店で売るつもりかい?」
「ええ」
「……売れるだろうね。今まで食べたことのない味だけど。味は認める。下手をすれば、この商品が無限に製造できるならば、お前は国だって簡単にとれる」
そうでしょうね。
児戯に等しいです。また、私の『創造せよ、至高の晩餐』にかかれば、商品は全て薬ともなります。
農作業のお供にすれば、能率もアップ間違いなし。法外な値段を取ったとしても、それでも飛ぶように売れるでしょうね。
まあ、マグナトは良心的な価格設定なのですけれどもね。
「お前の目的は何なんだい?」
「私の目的はただ一つ。お客様の笑顔でございます」
ぎょっとした目で、ミーアさんが私を見やります。
「本気かい? それだけの力があって」
「ええ。これだけの力があっても、まだ足りないくらいの志でございますよ」
「ふ。嘘を言っているようには見えないなあ。わかったよ。俺もお前に協力する」
そうしてミーアさんは、微笑を浮かべたのでございます。




