……る
「勇者になりましょう」
と、私は提案致しました。
私の言葉を聴いて、ミーアさんはきょとんとした顔になりました。それからその顔色をぐんぐんと赤らめて、怒りを表情にて表しました。
「ふざけるな! 勇者になる? 舐めるなよ」
「私、そこまで変なことを言いましたか?」
「勇者は選ばれたメルセルカしかなれないんだ。そんなことも知らないのか。父のことも知らないようだし」
「選ばれたメルセルカ? 何方が勇者を選ぶのですか?」
「先代勇者に決まってるだろう!」
大声で、ミーアさんは断言致します。私の知っている勇者様と異なりますね。
まあ、取り敢えずは私の見解を述べましょうか。
「勇者は様々なメルセルカを助ける存在ではないのですかね」
「そうだ。全メルセルカの救世主だ」
「だとすれば、勇者を決めるのは先代ではありません。民でございます」
人を助けるのが勇者であれば、勇者は民がいなければ存在できません。
また、民が喜ばねば、それは勇者の行いではないのです。
「名称が大切なのですか。違うでしょう! 本当に大切なことはそのようなことではございません。本当に大切なのは、民の笑みでしょうが」
「民の……笑顔?」
「勇者とは、勇気ある行動で沢山の方を救う者でございましょう? 誰かを継ぐのではなく、誰かに求められることでしょう」
そうでなければ、勇者という役職はただただ傲慢なだけではございませんか。
人を救う。
私はそれをとても尊い行為だと考えております。
だって、そうでしょう?
人が救われる時。その時の人の気持ちを見るだけで、私は過去の多幸感を思い起こすことができます。
同じ気持ちを共有できる嬉しさで、心が幸せで満ち溢れます。
「貴女様は本当の勇者になれる!」
「本当の勇者?」
「誰かの為に、貴女様はきっと動ける筈です。お父様が貴女様を見てくださらない? 小さなことではないですか」
ミーアさんが頑張って、ミーアさんが沢山の方をお救いになれば、
「嫌でも貴女様が見える筈ですよ」
誰かに見て欲しい。
ミーアさんの行動理由はたったそれだけ。
実に視野の狭いことですよ。
ミーアさんは周囲に認められたいあまり、周囲を見られなかったのでございます。
「ミーアさん。本当の勇者になってくださるのならば、少なくとも私は貴女様のことを認めます」
だから、と、私は彼女に手を伸ばしました。
「共に人を救いましょう」
人が何を言うかなんて、どうでも良いのですよ。
私はミーアさんをミーアさんと認めます。
「なれるかい? 俺は……勇者になれるのかな? 親に捨てられた俺が」
「なれます。どのような貴女様でも、きっと。皆さんが貴女様を認めてくださいます」
「認めて、くれるかな? お父さんは……」
「貴女様が望み、進み続ければきっと」
彼女はきっと何にでもなれるのでございます。
「貴女様は勇者の娘でもなければ、勇者の息子でもございません」
そう、貴女様は、
「勇者ーーミーア・クローバーでございます。私がたった今、貴女様をそう認めました」
勇者なんていう称号は、飾りに過ぎません。そういうクラスがあるとは思えませんしね。
何よりも大切なのは気持ち。
誰だって救ってみせるという覚悟。その重い覚悟を背負う勇気を持つ方こそ、勇者と人々に呼称されるのでございます。
「答えは後日で結構ーー」
「……る」
「え?」
「なる。俺は、勇者になりたい」
実に澄んだ瞳で、ミーアさんは決意なされました。であれば、私は彼女のことを手助け致しましょうか。
「では、決まりですね。ようこそ、ミーアさん。マグナト店員の面接、見事クリアでございます!」
「……へ?」
「いやあ、私、嬉しいですね。私に協力してくださるとは」
「な、何のことを言っているんだ? 面接? え? へ?」
ミーアさんこそ、何を仰っているのでしょうか。
もっと喜べば良いのに。
勇者ーーつまり、マグナト店員になれたのですから。
「いや、何か大きな勘違いがあると思うんだよ、俺。もう一度、よく考えてみてくれないか?」
「よくわかりませんね」
「俺がなりたい勇者とお前の提唱する勇者は姿が異なる気がする!」
「気のせいでございましょう?」
皆様を笑顔にできる素晴らしい英雄的な職業。
それこそがマグナト店員さん。
「さあ、これから共に労働に勤しみ、お客様を幸せにしていきましょうか!」
「話を聞いてくれないかい!? ちょっと、この変な男のハーレムメンバーの子! この男に話をきーー」
マグさんとナルさんが目を逸らしました。
「他人の振り!?」
「青方のあれは病気」
「君次はあれさえなければ完璧なんだけどなあ。ま、そこが魅力でもある、のか?」
「駄目だ、このハーレムメンバー!」
失礼ですね。
マグさんもナルさんも、ハーレムメンバーではございません。彼女たちは私の大切なお友達。
侮辱するのならば、その喧嘩バーガー三個分くらいの値段で購入させて頂きますよ。
「それにしても、マグナト異世界店の店員さんが新しく見つかりましたね。後は大金を手に入れるだけでございますね」
「ま、待って。話を聞いてくれないかい? 俺……勇者になりたいんだけど」
「これにて一見落着でございますね」
「理不尽だああああ!」
ミーアさんの叫びが響き渡りました。勇者修業によって鍛えられた、恵まれた身体能力からの驚異的な接客と集客に期待できますね。
実に楽しみな人材でございます。
次回から更新時間が大きく変化する予定です。
毎日更新には変わりありません!




