あれあれ? ご存じない?
「俺はミーア・クローバー。英雄ゴルバス・クローバーの息子になる予定だった女さ」
あっさりとミーアさんは過去について語り始めました。虚ろな目は、未だジョアンさんの洗脳から完全には抜け切れていないことを証明しております。
「雷霆の二つ名を持つ父は、言うまでもなく世界の英雄だ。みんなが父を知っている。そして、みんなが俺を勇者の娘と呼ぶ」
「それは事実なのでは?」
「違う! 俺は俺なんだ。誰も、俺を見てくれない。俺は英雄の娘じゃないのに」
それは強いコンプレックス。
そして、それと同様の自身を見て欲しいという純粋な考え。
「女は勇者を継げない。父は俺にそう言った。だけれど、俺は努力した。勇者になれるくらいに!」
おそらく、お父様に見て貰う為に。
「ある日、俺に弟ができた。養子だった。だけれども、周囲は喜んだ。俺をまるで出来損ないのように扱い始めた」
実際、仕方のない所もございましょう。私は世襲のことはよくわかりせんが、女の子に継がせるルールがなければ、そうなることもあるのでしょうね。
「弟が勇者になる時。俺は弟と決闘した。戦闘時にスキルが生まれて、俺は勝った」
勝った。
けれども、勇者になったのは弟さんだったようでございます。
どころか、ミーアさんは勘当されてしまったようでございます。
「俺は俺なんだ。なのに、誰も俺を見てくれない」
見てくれないなら、見てもらえるようにしたい。
だからせめて、彼女は勇者の息子になろうとしたのでしょう。
その結果、彼女は裏切られてしまった。
そこで彼女の幼い心は壊れてしまったのでしょうね。
そして、ジョアンさんに目を付けられて、洗脳されてしまった。
「なぁ、何がいけなかったんだい? どうして俺は操られて、お前は仲間にできたんだ!?」
魔王さんとの関係のことでございますね。特に差異があるとは思えませんね。
魔王という種族の方ですからね。仲良くできる方もいらっしゃいますし、そうでない方もいらっしゃいます。
「俺はただ俺を見て欲しかっただけなのに……」
「私は貴女様しか見えていませんでしたよ?」
「はあ!? こ、告白か? すまないが、俺は女の子が好きなんだ」
「いいえ。違いますよ。勘違いなさらないでください。私は戦っている最中も、今も貴女様しか見えておりません」
ミーアさんは首を傾げます。
「私、貴女様のお父様にを存じ上げませんので。貴女様はどうやったって、貴女様以外のどなたにも見えませんね」
「う、嘘だろう! ゴルバス・クローバーを知らないのかい? 馬鹿か!」
「失礼な! なら、貴女様はマグナト知っていますか? あれあれ、ご存じない?」
私とミーアさんがぎゃあぎゃあと騒ぎ立てます。その光景を見たナルさんが小さく、「それはズルいぞ、君次」と、仰っておりました。
「私は貴女様ではございませんので、貴女様のことはわかりません。しかし、一つ言えますよ。貴女様は貴女様だ」
「そ、そうだ。父なんて関係ない!」
「いいえ。ありますよ。貴女様はお父様に認めて貰いたいのでしょう。ですから、勇者を自称していた」
「あ、あれは洗脳の力で……」
と、ボソボソとミーアさんが呟きました。
「けれども、本心でしょう? でしたらば、ミーアさん。本当の勇者になりましょうよ!」
私は提案致しました。




