うわあ
新たに現れました魔王さん。
掌握のジョアンさんを倒しました。彼女はどうやら戦闘には秀でていなかったようでございますね。
結構簡単に倒せましたよ。スキルは凶悪でしたがね。
ジョアンさんを倒した影響でしょう。勇者様のハーレムメンバーもとい、魔王さんの配下さんたちは全員その場で倒れました。
意識を失っただけのようでございますね。
「君次、助けに来てくれてありがとう」
「それは当然のことでございますよ。こちらこそ、私の所為で捕まえられることになりましたね。申し訳ありません」
共に、謝罪を放ち合います。両者、拮抗し、やがて同時に折れました。
「妾は今の日常が好きだ」
「ええ。私もでございますよ」
「しかし、妾はいつも周囲に迷惑をかける。そのような妾がーー」
「その話は前に終えましたよね? そもそも、生物というのは誰だって、常に周囲に迷惑をかけているものでございますよ」
そこに大小はあれども、ですね。
「いや、分かってはいるんだ。でも、どうしても気にしてしまうんだよ」
「そういうものですかね?」
「だから、その……忘れさせてくれ」
ナルさんはそう仰いますと、そっと私に抱き付いてきました。
柔らかい、女性特有の抱き心地。
私は静かに、彼女の頭を撫でました。
ナルさんの不運は、マグナトバーガーでどうとでもなりますからね。安心して欲しいです。
「よしよし。もう大丈夫でございますよ」
「ふわぁ」
すっかり弛緩した表情で、ナルさんが私の胸に頬擦り致します。実に可愛らしいですね。
と、そのようにすっかり和やかな雰囲気になっていたので忘却しておりしたが、まだ勇者様を地面に埋めたままでございましたよ。
トートさんを地面に突き立てて、土を退かします。本当に、バーガーって凄いですよね。普通の喋るスコップさんが、今では只ならぬ喋るスコップさんに変化しています。
人間などが食せば、その身体能力が強化されます。道具や武器が食せば、その効果が劇的に上昇するようでございます。
まあ、普通の武器ではバーガーを食せませんがね。
煩い、という部分を除けば、トートさんは私と相性抜群なのでございましょう。
土から掘り出した勇者様は、白目を剥いて意識を失っておりました。
顔に付いている泥などは、トートさんで取り除いましたが、それでもあまり人に見せられるお顔ではございませんね。
生き埋め。
かなり怖いです。
犯人が私でなければ、怖くて泣いていたかもしれませんね。
「さ、では、湖に行きましょうか」
水をかければ、意識も戻るでしょうしね。幸い、ナルさんたちの戦いの最中に現れた湖の主さんは、帰ってしまいましたからね。
魔王の戦いの余波は、湖の主程度では耐えきれなかったようでございます。
『創造せよ、至高の晩餐』を発動して、大量の揚げ芋を召喚致します。
これを食べさせても、おそらくは意識が戻るのでしょうけれども。
それでは甘いですよね。きちんとお灸を据えねばなりませんから、多少の罰は我慢して頂きたいです。
マグさん、ナルさんと共に、揚げ芋パーティを開催しました。
マグさんはグーばかり飲みますがね。
お二人は、私の両脇にピタリと座り込んでおります。夏であれば嫌ですが、この時期ならば大歓迎でございますよ。
揚げ芋を食べ終えます。
その容器を使用して、私たちは水を汲み始めました。あまり効率的ではありませんね。
容器の隙間からドバドバと水が放出され続けていますし。
如何にか水を持ってきて、勇者様のお顔にかけます。
それでも、彼女は無反応でございました。
「し、死んでいませんよね? ね?」
水を顔にかけて無反応は、危ういのではないでしょうか。幾ら、一方的に攻められたとはいえ、殺してしまうのは幾ら何でもありえません。
動揺して、私は勇者様の胸に手を伸ばしました。
鼓動は感じますから、どうにか生きていらっしゃるようですね。
ほっと一息吐きますと、とあることに気が付いてしまいます。
マグさんが冷たい瞳で、私を睨んでいました。
「青方、それは犯罪」
ナルさんは何度も己の胸を揉みながら、私に告げます。
「妾のを触った方がいいと思うぞ」
……言い訳をさせてください。
「ちゃうねん。私、今のは事故やと思うねん」
「何だ、その喋り方は?」
「おっと。つい、癖で方言が出てしまいましたね」
「ともかく、触るなら妾のにしろ。両者ともに、幸せになれると思うぞ」
急に関西弁を話して、話題を反らすというマグナト店員の奥義が見事に買わされてしまいました。
項垂れて、私は事情を説明しました。
「そう。なるほど」
マグさんは理解してくださったようでございますね。良かった、良かった。
「う、ぐ。急にお腹が痛、く」
と、マグさんはその場に倒れこみました。下手な演技ですね。棒読みでしたし、こちらをチラチラ見ますし。
「ナルさんは……」
ナルさんは何もなさらないのでございますね、と続けようとしたのですが、彼女を見てその言葉は封印されました。
口から泡を吹いて、その場に倒れておりました。渾身の死んだフリでした。
「うわあ」
私がドン引きしておりますと、遠くの方で勇者様が起き上がりました。
良いタイミングですね。
「良く起きてくださいました。では、お話ししましょうか、勇者様。いいえ、ミーア・クローバーさん」




