表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/116

御機嫌よう

 泣きながら笑った。

 おばあちゃんが亡くなって、僕は心から悲しんだけれども、それに縛られることをおばあちゃんが望む筈がない。


 そうだ。


 僕はおばあちゃんに助けられた。

 苦しいけれども、悲しいけれども、嫌だけれども、それでも僕はきっと幸せなのだ。

 だって、そうだろう?


 大事なおばあちゃんの死を悲しみ、けれどもきちんと愛されていると理解できたのだから。


 僕は幸せな部類である。


「ごめんね、おばあちゃん」


 そして、ありがとう。

 僕はおばあちゃんに沢山の幸せを貰えた。マグナトのバーガー一つで幸せ、なんて何言ってるんだろうとは思うだろうけれども。僕にはそれだけで十分だった。

 それがあれば、もう良かったのだ。失ってから気が付いたのだけれど。


 今度からは、今からは僕が幸せを届ける番だ。


 バーガーを一口齧ったときの、あの多幸感を僕は色々な人に伝えたくなった。



 それから数日後、僕は青方家に行くことになった。よくわからないが、本人たちが強く望んだらしい。

 そうして、僕はわたくしになった。


 やがて、私は学校を辞め、マグナトに努めることになったのだ。

 その時、私は薄っすらと怒られるのではないだろうかと恐れました。

 けれども、我がお父様とお母様も、喜んでくださりました。


「それがお前の望む人助けの形なんだね」

「あの人を思い出すわ。本当に、私たち貴方が誇らしい」


 嬉し涙すらも浮かべて、彼らは私を祝ってくださりました。


 これから私は沢山の幸せを見届けられるのでございます。


 ……


『結局、パクリじゃん』

「え?」

『自分を救ってくれた、自分に初めて幸せを教えてくれたおばあちゃん。そして、マグナト。お前はそれに縋っているだけじゃんか』

「そのようなことーー」

『ない、って言える? 無理じゃんか? だって、そうだよね』


 謎の声が、私の脳内に響き渡りました。


『おばあちゃん殺したの、お前じゃん』

「ち、違います!」

『疲れてたんだろうね。限界だったんだろうね。それでも愛するお前の為に、頑張って店まで行ったんじゃん』


 謎の声は止まりません。

 私が両耳を固く掌で閉ざしても、その声は脳内にて響き続けます。


『それなのに、全部捨ててさ。おばあちゃん、それがショックで死んだんじゃないの?』

「……」

『許して欲しくて、おばあちゃんの代わりになろうとしてるんじゃないの? 馬鹿じゃん。意味ないのに』

「私はそのようなつもりはございません」

『本当に?』

「私は、ただ純粋にお祖母様の教えを理解し、それを行動に移しているだけ、でございます」


 どうしてでしょうか。

 私の声は震えます。

 どうしてでしょうか。

 戯言、の一言で返せる言葉に抗えないのは。


 私は、ただ、誰かの、真似を、していた、だけ?


『そうだよ。お前はその程度の人間なんだよ』


 そう、でしたか。

 私は、その程度の人間。人真似しかできない、愚か者。


 項垂れる私の肩に、手が置かれました。


「違いますよ。きーちゃんは、きーちゃんでございますよ?」

「お、お祖母様!?」


 振り返ると、そこにいたのは朗らかな笑みを浮かべるお祖母様でございました。

 彼女は小さく、更に微笑みを重ねますと、


「御機嫌よう」

『お前は! どうしてここにいる!?』

「私の可愛い孫をあまり責めないで頂けますか? ーー魔王さん」


 え、という私の驚愕を置き去りにしまして、お祖母様は言葉を紡ぎます。


「私はあくまできっかけに過ぎませんよ。彼は優しい方でした。だって、そうでございましょう?」

『どうして、どうしてこのタイミングで現れられる!?』

「御両親の死に対して、きちんと向き合い、悲しみを隠し続けた。その優しさはきーちゃんが元来持っていたものでございます」

『お前はーー』

「さぁ、きーちゃん。言っておやりなさいませ」


 お祖母様の御言葉は温かく、優しく私を包み込むようでございました。


「貴女様がどなたかは知りませんが。ここに断言致します。確かに、私はパクリです。ですが、だからどうしたというのでしょうか」

『お前は自分が救われたい一心で、他者を助ける偽善者だ』

「それでも、お客様たちの笑顔は、マグさんの笑顔は、ナルさんの笑顔は本物でした!」


 私の考えが偽物?

 だから何なのでしょうか。そのようなどうでも良いことに惑わされて、本当に大切なモノを見失いそうになっておりました。


「私は本物を探しに行く。貴女様の狂言には惑わされません!」

『あり得ない。私のスキルが破られるなんて! 私は魔王だぞ! 勇者の娘すらも掌握した、魔王だぞ』

「……魔王は敗北するモノですよ」


 パリン、と何かが砕ける音がしました。と、同時に、世界が元に戻りました。

 過去の世界から解放されたようでございますね。


 そこには、汗にまみれて膝をつく、ジョアンさんがいらっしゃいました。


「貴女様は魔王だったのですね? そして、洗脳能力を持っている」

「私は掌握のジョアン。まあ、どうでもいいじゃんか、そんなこと」


 問題は、とジョアンさんは続けました?


「どうしてお前があの魔女を知っている!」

「魔女?」

「く。ここは引く。覚えてろよ。必ず、支配下におくからな」


 そう言って、ジョアンさんは背後へと大きく跳躍なさいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ