我慢してくださいね?
トートさんの能力は会話でございます。正直に申し上げますと、ただただ煩いだけの無駄なスキルでございます。
そう、私以外が使えば。
私のスキル『創造せよ、至高の晩餐』は、特殊な能力を保有したマグナト商品を召喚する力でございます。
そして、そのマグナト商品の能力は、それを食すことによって発動するのです。
ここまで申し上げれば、もうお分かりでしょうか。そう、トートさんの能力である会話。会話自体に意味はなくとも、会話をする過程で生まれたモノにこそ意味があるのです。
それはつまり、口。
トートさんはマグナト商品を召し上がり、そうして我がスキルの効果をそのか細い肉体に、一身に浴びられたのでございます。
「あり得ない! 宝具なんて言うレベルじゃないぞ! 何だい、その武器は……」
「世にも不思議な喋る魔道具。トートさんでございます!」
直後、私は勇者様目掛けて、駆け出しておりました。トートさんを振り上げて、いつでも振り下ろせるようにしておきます。
「幾ら強い武器を持とうと、所詮使い手が弱ければ無意味だよ」
目にも止まらぬ斬撃一閃。
勇者様の剣が、トートさんを受けるようにして振るわれました。
ですが、私は微笑みます。
「同感ですね」
私が放ったのは、蹴りでございました。ただ力尽くで、足を振っただけの蹴り。そこに攻撃の意思はございません。
「なっ!」
勇者様の剣に足が命中し、剣を吹き飛ばしました。
「前までの私とは違うのですよ」
ナルさんとの特訓により、私は理解しました。彼女が仰ったことが、脳内で木霊します。
戦闘の基本は未知への対処である、と。
しかし、その対処というのはあまりにも難しいのです。であれば、と私は考えました。
対処はできないならば、対処しなければ良いのです。
対処するのではなく、させる側に回ればよろしいのです。
相手の気持ちを読み取ることは、マグナト店員の必須スキルですからね。
相手の気持ちを読み取って、完全に支配下におきます。そして、的確にお相手の嫌がることを実行に移すのです。
「小癪な! 男なら正々堂々戦いたまえよ!」
人なんてあっさり殺害できそうな凶刃を振るいながら、彼女は私に接近してきます。
が、それすらも私には見えておりました。
「お待たせ致しましたぁ!」
トートさんを地面に突き刺します。すると、それだけで地面に大穴が開きました。
「トートさんの基本性能は格段に上昇しております」
ですから、当たり前のことではございますけれども、一突きで地面に大穴を開くことなど容易いのでございますよ。
「こんな子供騙しに!」
「追加で!」
バーガーを生み出して、それをトートさんで思いっきり打ち付けます。食らう以外の干渉を受け付けないバーガーではございますが、トートさんの力により高速で射出されました。
バーガーの弾丸でございます。
向かう先は一つ。
勇者様のお口でございました。残念ながら狙いはハズレ、彼女の顔面を勢いよく打ち付けるだけの結果となりました。
「あ、あり得ない。身体能力強化を道具にまで適応するなんて」
「ナルさんの記憶を見たのならば、ご存知でございましょう? あり得ないを想定しろ、と」
こちらには余裕が生まれてきましたね。
ですから、私はマグさんとナルさんの戦闘を見やります。
両者一歩も引かずに、高速の乱打を繰り出しあっております。
一秒ごとに、肉を打つ鈍い激音が響きます。
あらゆる不運をその力でねじ伏せて、マグさんは叫びます。普段の静かさを失ったように、彼女は熱く語ります。
「お前はライバル! そんなことで、諦めるな」
「何を。何を……言ってるんだよ!」
幾ら記憶を失ったとはいえ、そこに心は存在しております。私が説得できたのですから、成長したマグさんが説得できない筈がございません。
そう、人は一人では生きていけません。いいえ。生きていくことはできるのでしょう。
けれども、その生はあまりにも虚しい。
死んだように生きること。
それは真の生とは定義できません。
「マグさん! ナルさんは任せましたよ!」
マグさんならできます。友情を自覚した彼女にとって、ナルさんは最早敵ではなく、大切な人。
彼女には大切な人を守る力がございますからね。
「さて、勇者様一行。貴女様方は、私が直々に接客させて頂きますよ。おつきあいくださいませ」
「舐めないで欲しいね! スキルーー発動」
勇者様の背に陽炎が漂います。
私はそれを気にすることなく、トートさんで土を操り、土の雨を降らせました。
その雨は礫となり、勇者様たちを打ち据えます。
「痛いですか? けれども、我慢してくださいね?」
私は微笑んで、前に飛び出しました。




