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姑息な

「ちょっと、トートさん!」

「何? トートに用なのー? いいよー、何でも話してみて。聴くだけ聴くよー」

「神聖なるバーガーを吐き出して置いて、ノーリアクションでございますか」


 トートさんはあろうことかバーガーを吐き出したのです。訳がわかりません。

 美味しいとまで仰っていましたのに。私を騙したのでしょうか。


「あのねー、お腹に残って気持ち悪いから、ぺってしたのー」

「気持ち悪い、ですって? 私、貴女様のお気持ちが理解できません」

「スコップの気持ちって本がねー、道具屋に売ってたよー。二千八百メルカになりまーす」

「買いません!」


 というよりも、一体誰が購入するのでしょうかね。面白そうではございますけれども、地味にお高いですし、私には縁の無い本ですね。

 いえ、まあトートさんをどうしても扱い切れないと判断したのならば、購入も辞さない構えではあります。


「次、行くよ」


 ナルさんは宣告通り、攻撃を再開なさいました。私は必死に打ち合いますが、力負けして地面を転がされました。


「まだまだ甘い。甘過ぎて舐めたいちゃいくらいだ」

「や、止めて下さい!」


 舌を出して迫ってくるナルさんに、トートさんを薙ました。咄嗟に距離を取られます。


「軽いジョークだ。ジョークが通じないなんて、ないわぁー」


 顔を赤らめながら、ナルさんは仰います。けれども、今は可愛らしいよりも恐ろしさの方が勝っておりますね。

 かなり怖いです。


 また、身体中が痛みでズキズキと痛みます。

 立ち上がるのもやっと、と言いますか、既に視界はグルグルと回っておりました。

 回復しなければ、意識を失ってしまうことでございましょう。


 けれども、あまりにも疲弊し過ぎて、スキルを使用できないのです。

 立ち上がり、トートさんを構えると、あまりもの重さに地面に膝をついてしまいました。


「重いです」

「女の子にねー、重いって言っちゃあダメなんだよー? ねえねえ、そんなことも知らないの?」

「知っております。私、実は貴女様を女性として見ておりません」

「うわあー、失礼ー! トートも女の子なのにねー」

「それは失礼致しました」


 トートさんが女性だということは理解しているのですが、どうも上手く女性扱いできませんね。

 私の器の小ささが露呈してしまいましたね。


 けれども、トートさんは見た目さえ考慮に入れなければ女性と考えて問題はございません。そして、見た目でスコップを判断してはいけませんからね。


 ようし、今からトートさんは私の中では素敵な女性でございます。クレームは受け付けません。


 しかし、女の子扱いとは具体的にどうすればよろしいのでしょうか。私には皆目見当も付きませんね。

 誰かの真似をしてみましょうか。


 私の知り合いで、最もモテモテの方。

 ーー勇者様でございます。


 早速、私は彼女の真似をします。さっ、と髪を掻き分けながら、


「やぁ、レディー。今までごめんよ。俺、きみの美しさに魅了されてね。ついついツンとした態度を取ってしまったんだ。許してくれるかい?」

「頭壊れたのー?」

「何ですか! 人が折角気を使いましたのに」


 むしゃくしゃして、再びトートさんの口にバーガーを詰め込みました。

 しかも、一つではございません。

 二十個程詰め込みました。


 それでも、トートさんに限界は訪れませんでした。


「どれだけ召し上がるのですか?」

「んーっとね。食べるというかねー。収納してる感じー?」


 収納、でございますか。

 そして、放出は任意のタイミングでできる、と。


 これは……使えるかもしれませんね。


「ナルさん。タイムお願いしまーす」

「タイム? どうしたんだ?」

「少し、作戦を思いつきました。少しお待ちください」


 そうやって、私はトートさんとある作戦を練り始めます。作戦を考え、準備すること五分。


 私は改めて、ナルさんと対峙しました。


「良い面構えだな。格好良い」

「光栄ですね」


 では、行きますよ。と、意気込んで駆け出したのは良いのですが、何度も地面に転がされた疲弊が重なり、私はその時点で気絶してしまいました。



 頭の下に、柔らかい感触がございます。

 感覚でわかるのですが、これはどなたかが膝枕をしてくださっているのでしょう。

 落ち着きますね。


「あ、起きましたか?」


 目を開くと、そこにいたのは見知らぬ少女でございました。緑の髪を風に揺らす、眼鏡を掛けた女性でございました。

 何処かで見た覚えがありますね。


「ああ、自己紹介が遅れましたね。ジョアン・キリーと申します」

「これはどうも、青方君次と申します」


 膝枕されたまま、私はジョアンさんと会話します。


「私、ジョアン・キリーは勇者様であるミーア様のハーレムメンバーでございます」

「ほうほう」


 通りで見た覚えがある訳ですね。ですが、どうして私は勇者様の取り巻きの方に膝枕をされているのでしょうか。


「簡単です」


 私の疑問を察してか、ジョアンさんが説明してくださいます。


「貴方のお仲間の一人。ナルさんでしたか? を誘拐させて頂きました」

「へ?」

「気絶している貴方を守ろうと、随分苦労なさっていましたよ? 結局、貴方の命と引き換えに、我々の軍門に降りました」


 私はさっと立ち上がりますと、目の前のジョアンさんを睨みます。


「どういうことですか。決闘は一週間後の筈では?」

「先に約束を破ったのは其方ですよ?」

「奪ったのはお一人。もう一匹、残っているではありませんか」


 周囲をみ見渡しますと、マグさんがいました。身体中、傷だらけです。


「ちなみに、私は不本意ながらここに残されました。ミーア様のお言葉を貴方に伝えるのと、貴方が決闘から逃げ出さないように、と」


 要は見張りでございますか。


「ああ、後、ミーア様は仰いましたよ。『この男とジョアンは口調が被っている。きみが側にいればこの男の個性は消え去る』と!」

「姑息な!」

「ふふふふふ。私のミーア様は賢いのですよ。貴方とは違って」


 ここは素直に敗北を認めましょう。勇者ミーア・クローバー。

 我が宿敵でございます。


 けれども、全て彼女の言いなりにはなりませんからね。


「ジョアンさん。今すぐ、私を勇者様の元に連れて行ってください!」

「あら、どうしてですか?」

「一週間後なんて待てません。今すぐ行って、ナルさんを取り返します!」

「そうこなくては」


 と、私がこういうことも予測済みだったようでございますね。まあよろしいです。


 今行きますよ、ナルさん。

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