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何だと!

 特訓はラピーセルを出た所にある草原で行われました。マグさんが周囲を警戒して、その間に私とナルさんが特訓をしています。


 とはいえ、でございます。


「どうした? 来ないのか?」


 ナルさんは地面に倒れて、顔を泥に塗れさせていました。しかし、そこから戦意は衰えておりません。


 ナルさんはとの特訓は、言葉にしてしまえば単純の一言でございました。

 ただナルさんと戦う。


 それだけなのです。

 けれども、ナルさんと戦っていますと、再確認しますね。実に、戦い辛い。


 攻めにくい、というべきでしょうか。

 想像の範囲外からの攻撃を行われるので、非常に困惑してしまうのです。


「来ないならこっちから行くよ」


 ナルさんが立ち上がり、こちらへと駆けてきます。魔王の膂力によって、莫大な加速力を得た突進。


 けれども、ナルさんの靴がその力に耐え切れず、壊れてしまいました。それによって、彼女は高速で転びました。


「なっ!」


 空中で幾重にも回転を行い、こちらへと飛びかかってきます。結果、彼女の踵が私の頭部を打ちつけます。


 地面に、薙ぎ倒されます。


 ナルさんは私の上に倒れこみながらも、その余裕を崩すことはございませんでした。


「君次、戦闘の基本は未知への対処だ。あり得ない、を想定しろよ」

「無茶苦茶仰いますね!」


 ですが、一理ございます。

 私は勇者様の謎の加速。おそらく、スキルでしょうか。それを受けて、私はすぐに意識を断たれました。


 わからないモノに対処する。それは一見不可能のことのように思われますが、戦闘をするのならば必須の能力なのでございましょうね。


 ナルさんとの特訓をしていて思ったのが、私があまりに常識さんに抱っこにおんぶだったということでございます。

 ここはファンタジーワールド。

 自身でもスキルなどというトンデモナイ物を使用しているのに、未だに慣れておりません。


 また、問題は他にもありました。


「くっ!」


 そもそも私は戦闘経験がないのです。


 地面に転がされます。立ち上がり、ナルさんに向き合うと、また即座に同じことの繰り返し。


「立てるか?」

「ええ」


 敢えて、『創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』は使いません。私は今のうちに痛みに慣れておかねばなりません。

 すぐにバーガーに頼る癖がつけば、バーガーに頼れない場面で詰んでしまいますからね。


 立ち上がり、すぐさまナルさんの間合い目指して踏み込みます。

 手にはスコップトートさん。


 彼女を振り上げ、振り下ろしました。


「攻撃が単調」


 スコップは手刃で叩き落とされ、蹴りが腹へと見舞われました。


「相手が嫌がることをするんだよ、戦闘ではな。それ以外では、まあもっとサービスを増やせ。具体的には寝るときは添い寝だ!」


 そのような軽口とは裏腹に、彼女の動きは止まりません。私が捉えきれない程の速度で移動を繰り返し、死角から鋭利な手刃を放ってきます。


 殺気のようなモノを感じて、咄嗟にトートさんを振り回します。


「やー! もう、やー! ブラック企業! このらブラック企業だあ」

「失礼ですね。マグナトはそれと最も遠い存在でございますよ!」

「うー。使い手がブラック」

「申し訳ありませんね!」


 必死の形相を浮かべているのでしょう。額から大量の汗を流しながら、私はどうにかナルさんの猛攻を凌ぎます。


 これでまだ、ナルさんは本領を発揮していません。彼女の戦闘スタイルは、どちらかというと後方での魔法での殲滅戦。


 また、地面を転がされました。トートさんが地面に投げ出され、ひたすら文句を連呼し始めました。


「トートさん、申し訳ありませんけれども、貴女様は武器でございます。少しは痛いのにも慣れて頂かねば……」


 私の控えめな苦言に対して、トートさんは駄々をこねます。


「無理! 実際は痛くないけど、痛い気がするから嫌だー。ねえねえねえ、どうして戦うの? その先にあるのは悲しみだよ?」

「その先に幸せを得る為、私は貴女様を手に取るのです」

「何ー? ねえねえ、その台詞、格好良いと思って言ってるの? くさいよ! ご主人様がスキルで出す食べ物くらいくさいよ!」

「何だと! 確かににおいは少々キツイかもしれませんが、これは至高の香りでございますよ!」


 わーわー、とトートさんとの喧嘩が始まります。言っていいことと、いけないことがあるでしょう。

 今回ばかりは、この不肖青方、怒ります。おこです。


「その失礼なお口はこれですか! ええ」

「や、やめてー。トートの可愛いお口を蹂躙しないでー」


 私はスキルにより生み出したバーガーさんをトートさんのお口に無理矢理放り込みます。

 スコップですからね。

 口を開閉する以外に、これから逃れる術はございません。


 喰らうが良いのですよ。そして、お客様におなりなさい。


「あ」


 小さく呟いてから、トートさんの口にバーガーが入り込みました。


「意外と美味しい」

「でしょうでしょう! ……まあ、意外ではなく、必然でございますが」


 一飲みで、バーガーがトートさんの奈落に落ちていきます。


「美味しかったですか?」

「うんー!」


 それからしばらくナルさんにしごかれていますと、トートさんがバーガーを口から放出しました。バーガーは無傷でございました。



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