妾の不運を乗り越えていけるのか?
真の姿を現したアグメルさんは、疲弊しておりました。その飛行には危なげしかなく、放っておいても今にも墜落しそうでございました。
だというのに、彼の瞳からは戦意が萎えません。
「どうして、そこまでするのですか!」
「簡単だ、メルセルカ。我々は戦い、死ぬ。そういう種族だ」
「種族……」
「我々はそういう風に作られた」
「作られ、た?」
「欲望者ならば知っているだろう。我らの創造主を。世界のバグを」
世界のバグ?
創造主?
私はそのようなこと初耳でございます。意味がわかりません。
「本来ならば、その定めから逃れられない魔王を手懐けたのは、我らを倒す為だろう」
「貴方様は何を仰っているのですか?」
「知らぬか。惚けているのか。どちらでもいい。さあ、我輩を殺せ!」
アグメルさんがその全霊をもって突撃してきました。満身創痍の彼にできる、最後の攻撃なのでしょう。
私は『創造せよ、至高の晩餐』により壁を生み出します。
音すら置き去りにして、アグメルさんが加速しました。風を切る轟音が、私の耳に入ってきます。
ただ生物として強い。
ドラゴンとはそういう種族なのでしょう。
「我輩は決闘に負けた時点で、もう死ぬしかない!」
彼は断末魔を上げるかのように、我らへ向かってきます。
その速度は圧巻の一言。
「ならば、せめて我輩を降したお前たちに、殺されたい」
出現したバーガーの壁へ真っ向から、ドラゴンさんはぶち当たりました。
衝撃により、私たちはその場に立てなくなります。尻餅をついていますと、何かが地面に墜落しました。
その何かとはアグメルさんでした。
「え?」
あまりにも呆気ない終わり方に、私は素っ頓狂な声を上げてしまいます。
彼は人の姿に戻り、地面に横たわっておりました。全力で壁にぶつかったのです。無事ではありません。
駆け寄り、マグナトバーガーを食べさせようとしますが、彼は断固として口を開きません。
「貴方様も口移しがよろしいので!?」
「喚くな。そのスキルは寿命も覆せるのか?」
「寿命? それは不可能ですが」
「ならば、止めておけ。これは寿命だ」
「嘘を仰い!」
私は彼を疑いますが、アグメルさんの姿は明らかに変わっておりました。御子様の姿は老人に変わり、その顔には深い深い皺が刻まれておりました。
「言っただろう。こういう風に、作られていると」
「どういうことなのですか」
私の問いには応えることなく、彼はその瞳を閉じてしまいました。
そして、その瞳が開くことは二度とありませんでした。
ハッとして、周囲のドラゴンさんたちへも視線をやりますと、彼らも全員倒れて動かなくなっておりました。
「ナルさん、貴女様は彼らを殺害しましたか?」
「いや、そなたが嫌がりそうなので生かしておいた。が、あれはもう生きていないな」
「生きていない。命を失った?」
「ああ。妾はドラゴンとの戦闘経験はなかった。知識はあったがな。だが、このような話は聴いていないぞ。何よりもーー」
ナルさんは、告げました。
「ドラゴンはこんなに弱くない」
「弱い?」
「ああ。無論、今のドラゴンたちも普通の生物と比べれば段違いに強いだろう。ギルドの任務ランクでいえば、間違いなくトップクラス」
妾たちでなければ全滅していた、とナルさんは言葉を続けました。
その顔は珍しく、何かを恐れているかのように深刻なものでございました。
「妾たちの知らない所で、何かが起きている。そして、ドラゴンの言葉を参考にするに、その事件にそなたが関わっている」
「そのようでございますね」
「君次。妾は不安だ。今回のドラゴンで死にかけるそなたを見て、妾は不安になった」
「でしょうね」
「そなたは本当に、妾の不運を乗り越えていけるのか?」
ナルさんの疑問は当然のことでございました。私はまだまだ弱い。
幾ら優秀なスキルがあれども、使い手が私では限界がございましょう。
「妾はそなたを殺したくはない。だから、頼む君次。強くなってくれ」
「強く、ですか?」
「その通りだ」
私は今まで、マグナト店員に強さは不要だと考えておりました。いえ、断言できますが、強さは不要でございます。
けれども、マグナト店員青方君次には、力が必要なのかもしれません。
お客様を悲しませない為に。
「戻ったら、君次。そなたの武器を探そう。そして、その後に妾が訓練をつけてやる」
「わかりました。では、お願いします」
とはいえ、先に休息を取りたいですね。怪我はスキルによって治癒できていますが、精神的疲労までは回復できていませんから。
「青方。ドラゴンたちが」
「どうしましたか、マグさん?」
「ドラゴンの耳」
私はドラゴンさんたちを見ます。殺すつもりはございませんでした。
あちらから攻めてきました。
とはいえ、です。私たちが殺した事実は変わりません。
せめてお墓でも作らねばと思っていたのですが、それはできそうにありませんでした。
死体は消え去り、代わりにそこにはドラゴンの耳がありました。
「身体はどちらへ?」
私の疑問には誰も答えてくださいません。そう、誰もわからなかったのです。
一体、私は何に巻き込まれているのでしょうか。
「君次。その耳をギルドに提出するぞ」
「どうしてですか? せめて、これだけでも埋めてしまいませんか?」
「いいや。甘いんだ、そなたは。今は妾の言う通りにしろ。妾だけでなく、マグまで不幸を感じるぞ」
そう言われては、私は何も言えません。
私は人々に幸せになって欲しいだけなのです。だというのに、私の力が及ばないばかりに、人々は苦しみ続ける。
どうすれば良いのでしょうか。




