表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/116

だめ

 炎。

 私はそれを恐れておりました。


 火を恐れない方などいらっしゃるのでしょうか。無論、私も軽く料理などをする時などにはご活躍していただきます。


 けれども、火を武器として、凶器として用いられて恐れない方などいらっしゃるのでしょうか?


 少なくとも、私は怖いですね。


 敵のドラゴンであるアグメルさんは、その炎を自在に操ります。

 現在もその手に炎を宿して、苛立ちを隠さずに、私と対峙しておりました。


「メルセルカ、名は?」

青方あおかた君次きみつぐ。マグトナルト店員でございます」

「スキル持ちか?」

「ええ」


 会話はそこで終了でございました。

 直後、アグメルさんの拳が我が腹を焦がしておりました。


「弱い。弱過ぎる」

「それは……どうでしょうかねえ!」


 反撃。

 こちらも拳をアグメルさんの腹へと叩き込みました。暴力は嫌いですが、苦手ではありません。


創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』により強化された腕力が、敵を容易く吹き飛ばしました。


「無傷で、反撃だと!?」


 そう、私は無傷でございました。

 正確には、回復しただけですが。口内に揚げ芋を隠していたのです。


 そして、ダメージを受けたと同時に咀嚼。回復と身体強化を同時に行ったのです。


「そうか。悪くない!」


 私がやるべきことは時間稼ぎのみ。

 あと少しすれば、ナルさんが残りのドラゴンさんも倒して下さることでしょう。


 乱戦にさえならなければ、私たちには勝機しかございません。

 決闘など、我々はするつもりもございません。流石のアグメルさんも、三人を相手に戦いはしないでしょう。


「強い。いや、わからない、というべきか。お前たち三人は異質過ぎる。まるで、この世界の理から外れているかのようだ」

「三人? 私だけでなく?」


 私の疑問にアグメルさんは答えません。ただ愚直に、こちらへと駆け寄ってくるのみでございます。


 距離を詰めての接近戦。


 私はそれに応じます。

 私の戦闘方法は基本的にマグさんと同じ。素手による殴打のみでございます。

 幾ら戦いが嫌いと言っても、そろそろ武器も欲しいですがね。


 近づいてくれる分にはウェルカムでございます。


 アグメルさんが炎の勢いを変化させます。その炎の姿は、剣へと変わりました。

 あれで斬られたら、流石にマズイですね。


 マグナト商品を食べる前に殺されては、私もなす術がございませんから。


 ですから、私はバーガーにて即席の盾を作り出します。お腹が空いたら即座に食べられる最高の盾が生まれます。


「何だ、その力は!」


 重く、速い斬撃。

 防御を捨てたその一撃は、バーガーの盾ごと私を両断しようとしました。

 が、我がスキルには利きません。


 剣を弾き、拳を握り込みます。


「もう一度、飛んで行って貰います」

「そうはいくか」


 炎が円盤状に変化して、盾へとなりました。我が拳は、その盾を打ちつけました。


「ズルいですよ! 私、剣は作れませんのに、そちらに盾を作られたら困ります」


 火傷を負った拳を揚げ芋で治療しつつ、私は愚痴ります。

 私の盾は決して攻撃を通しませんが、向こうの盾は攻撃もできます。


 私は回復のスキルを持っていますから、そうそう負けはありません。しかし、同時に攻め手が足りませんね。


 このままではジリ貧で、敗北してしまうでしょう。


 火の剣が凪がれました。私はそれを身を縮めてかわします。

 アグメルさんは困ることなく、剣を力尽くで振り下ろしてきました。


「くっ!」


 盾で防ぎますが、態勢が崩されます。


 次の一撃が、私に迫ります。

 紅の炎が、私の瞳に映ります。このままでは命中してしまう。


 慌てた私が取った行動は、いつも通り力によるゴリ押しでございました。


 地面を全力で叩いたのです。


 地面が割れ、土埃が舞いました。


 バランスを崩したアグメルさんの一撃は、私の頬を掠めるだけに終わりました。


 頬が切り裂かれ、そこから発火現象が起こりました。痛みに顔を顰めながら、私はアグメルさんの腹に蹴りを入れました。


 それで距離を取り、こちらも構えを取ります。


「はぁはぁ。名付けて『龍撃の構え』」


 私の手には、バーガーが握られておりました。これは即席のグローブでございます。


 マクドナルドは最強かつ最高の食べ物。いざという時は護身用の盾にもグローブにもなるのです。


 食べる以外のあらゆる害から守られるこのバーガーは、グローブとして使えば武器ともなる筈です。


 衝撃でぐちゃあ、となりませんからね。

 あと、何時でも食べられます。


 早く武器を入手せねば、何時までもバーガーを武器にはしたくありせんからね。


 バーガーをグローブとしたのには、理由がございます。やり過ぎない為、でした。


 私の拳は凶器というよりも、兵器でございます。これを他者に向ける時、ついつい手加減をしてしまいます。


 それを防ぎ、全力の力を叩きつける為に、バーガーは必須です。

 敵を守る為に。


「さあ、行きますよ」


 我々は悟りあっておりました。次の一合で、決着が付くのだと。


 互いにダメージを受けて、集中力は乱れておりました。

 時間を稼ごうにも、もうそこまでの余裕はありません。


 同時に、走り出しました。


 先手を取ったのは、私です。バーガーの盾を投げつけて、敵の勢いを止めました。


 アグメルさんはそれに動揺を見せずに、剣を上段に構えました。

 その動きは余りにも隙だらけ。


 だというのに、何処へ行っても私が切り開かれる未来しか見えませんでした。


 それでも突っ込みます。

 私も防御を捨て、彼の顔面へとバーガーを叩きつけます。


「青方ぁ!」


 マグさんの心配そうな悲鳴が耳を打ちます。


 結果は見えました。


 頬を打たれたアグメルさんの小柄な身体が地面を大きく跳ね、そのまま地面を転がっていきました。


 数十メートルの距離を行った後、彼はその肉体の動きを停止させました。

 死にはしていないでしょうが、意識は確かに失っておりました。


「この勝負。ーー相打ちで、ございますね」


 私は切り裂かれた肩を押さえますが、そこからは絶えず血液が流れております。


 肩口から腹。私が斬られた範囲でございました。血を失い、意識が飛びそうです。


 ふらふらと視線を彷徨わせますが、自身が何をしたいのかもわかりません。


「だめ。青方、だめ」

「……」

「食べて。早く!」


 目の前に差し出されたのは、バーガーでございました。手を伸ばすのですが、どうしても届きません。


 伸ばした手はだらしなくぶら下がり、結局手は届きませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ