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それが夫婦だ

 新たな任務が追加されました。ロズマリオの花だけでなく、キャビの花も手に入れなくてはならなくなったのでございます。


 大変ですね。


 薬草など採って来ずとも、わたくしの『創造せよ、至高の晩餐メーカーオブマグナト』を使えばよろしいのに。


 そちらの方が確実ですし、即効性もございます。おいしいですから、やや依存症がある所が欠点でございましょうか。

 けれども、その欠点も美点の裏返しに過ぎません。


 ともかく、キャビの花でございます。私、この世界に来てから花を摘むことが多くなりましたね。頻尿という訳ではなく。


 前の世界で、私は花を摘んだことがございませんでした。

 小さな花を偶に見つけるだけで、目に触れても特に気になることはございませんでしたね。


 植物図鑑を手にしていますと、目の前の花がなんという名なのか、どのような特徴を持っているのか。気になってしまいますね。


 悪い気分は致しません。

 ただ歩くだけでなく、花を探すという楽しみが生まれたので、寧ろ嬉しいくらいでございます。


 そのようなルンルン気分で歩行します。目指す場所は南です。

 この『猿にもわかる花の見分け方』曰く、平原に入って南側に花はあるらしいです。

 また、この本には周囲にロズマリオの花もある、と記載されております。


 おそらく、店員さんはそれを知っていて、私たちにこの依頼出してくださったのでございましょう。

 良き方ですね。


 ロズマリオの花自体は結構何処にでも生えているらしいですけれども、一石二鳥ですのでやはり南に行きます。


 南ーー『死者の剣山』という場所の付近に生えているそうです。

 物騒な名前でございますよね。


 今回はナルさんの『(イービルゲート)』には頼らないことにしました。徒歩で行った方が、植物を見つけやすそうですからね。


 道の途中にも、ロズマリオの花はあるそうですから。


 平原はかなり広大ですから、その中から一本の花を見つけることは非常に面倒でございます。


 それでも諦めず、我々は前へ進みました。


「……魔物の気配」


 どうしてロズマリオの花の採取とゴブリンの討伐では、お花を採取する方が依頼料が多いのか。


 それはこれが理由でございます。

 ゴブリンを倒すだけならば、そこまで難しくはないそうです。

 けれども、採取は違います。


 足元の花を探索しつつ、襲いかかってくる魔物を蹴散らしながら進まねばならないのです。


 ゴブリンを倒して、解散。

 という訳にもいきませんし、最悪ゴブリン以上の難敵に襲われる可能性も十分ございます。


「で、魔物さんは何処に?」

「あっち」


 マグさんが指差したのは、草でございました。普通の草に見えます。


「擬態してるんだろう。マジで面倒だなー」


 ナルさんは面倒そうに、草へと掌をかざしました。それから詠唱を開始します。


「ちょ、ちょっとお待ちください! ナルさんのコントロールでは、平原を焼き払うのみでございますよ?」

「魔法を放つ直前、そなたが妾に口移しでスキル効果を付与すればいいだけだよ」

「口移しはしませんけれど」


 納得致しました。

 ナルさんが詠唱を再開します。私は片手にバーガーを構えて、ナルさんの詠唱終了を待ち続けます。


『世を赤く染めよ。鮮烈なる赤の弾丸(フレアバレット)


 魔法の発動と同時に、彼女の凛々しい唇にバーガーをぶつけるようにして召し上がって頂きます。


 瞬間、ナルさんの不運のスキルは消滅し、彼女の狙い違わず草に擬態した魔物を退けました。


「あ、あれ? 威力高過ぎませんか? あれでは殺してしまったのでは?」

「君次。敵に情けをかけるな。敵は魔物だ。草だ」

「そ、そうですけれども」


 けれども、そのような理由で命を奪うのは心が痛みます。


 全てを救うことは不可能です。けれども、私はやはり全てに救われて欲しいのです。ですから積極的に殺すのは、推奨することができません。


 女々しいのかもしれませんが。

 私は命を奪うことが怖いのです。


「気にするな、君次。そなたにできないことは、妾がやってやる。それが夫婦だ」

「夫婦はそうでしょうけれども、私たちは夫婦ではございませんよ」


 彼女の手を汚すことも、したくはありません。話し合いはできないのでしょうか。


 強欲、傲慢に過ぎるのでしょうか。


 私がこれから命に対してどう向き合うのか、考えながら歩いていますと、徐々に景色が様変わりしてきました。


 青々としていた草木は枯れていき、青空は曇天へと変わりました。


 まるで世界から色彩が奪われたかのようでございます。


「……見えた」

「そうだな」


 マグさんとナルさんが山を見つけました。

『死者の剣山』


 その名の通り、その山からは全てが息絶えていて、草木の代わりに無数の巨大な針が突き刺さっておりました。


「不気味な場所ですね」


 嫌な予感をひしひしと受けつつ、我々は花を探すために地面を這うようにして動き出しました。

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