負けませんよ!
至福のバーガーもぐもぐタイムを堪能していますと、日も暮れてきました。
今から行動しては、危険かもしれませんね。
夜は何も見えません。そのような中、薬草を探しに町の外に出るのは危険かもしれません。
夜目が利くマグさんならばともかく、私には何もできません。いえ、頑張れば見えるかもしれませんがね。
しかし、無意味にリスクを背負うのも損でございます。
「今夜は何処に泊りましょうか」
ギルド都市ラピーセル。
ここは当然ながら街でございます。家の外で寝る者は、あまり良い顔はされません。
また、ここはそこまで治安が良さそうではありせん。活気こそあれ、それ以外は何と申し上げましょうか。
裏社会の匂いが致します。
ですから、私一人ならばいざ知れず、美少女御二方に野宿はさせられません。
「お金はございませんしねえ」
「ナルは持ってない?」
私の世知辛い独り言に反応なさったのは、マグさんでございました。彼女はナルさんの方を見ながら、そのようなことを仰います。
「詐欺られた。落とした」
でしょうね。
ナルさんのスキルを持ってすれば、お金など懐に納めておける道理がございません。
彼女のスキルの面倒なところでございますね。
しかし、お金がなくとも、できることはあるはず。それを見つけることこそが、私のマグナト店員としての使命なのでございますよ。
「あ、そうです。ナルさん、『門』を使いましょう!」
「何処に行くんだ?」
「魔界族さんの所へ!」
「えー」
ナルさんは露骨に嫌そうな顔をなさいました。どうかしたのでございましょうか。
昔、私がマグナトで働いていた頃、可愛らしいお子様が「もうマグナト飽きた! 今日でもう三週間連続だぞ! 反抗期突入じゃ、ボケ」と仰っていた時とそっくりです。
私、あの時初めて嬉しい悲鳴というものを耳に致しました。素直になれないお客様も可愛らしいですね。
ですが、素人さんでは三週間連続マグナトはキツそうなので、その辺りはきっちり対処致しました。
お子様とご両親とはきっちりとお話をつけたのでご安心を。
最後には、ご両親はマグナトとしか喋られない体になってしまいましたが、週二回しかいらっしゃらなくなりましたからね。
「で、どうして嫌そうなのですか? まさか、魔界族さんが苦手とか」
「そうじゃーー」
「御気持ち、よくわかります!」
私はナルさんに大いに同意しました。私は正直、そこまで得意ではありませんね、魔界族さん。
「青方!?」
「おや、マグさん。どうなさいましたか? 珍しく声を荒らげて」
「……どういうこと?」
「何がですか?」
「魔界族。苦手って」
「いやあ、私アレルギーでして。猫とか大好きなのですけれども、近づくとその鼻水とくしゃみが止まらなくて」
「そっちか。良かった」
マグさんがほっと一息つきました。猫耳さんがくたぁ、っと垂れ下がります。きゅーと。
けれども、触れない。
アレルギーですからね。
「けれども、ナルさんに朗報でございます! 何と今ならばマグナト商品を食べれば、アレルギーが一時的に克服されます!」
凄い。
マグナト凄い。働きたい。
マグナト以外で働いたらと負けかな、と思っております。
「そうじゃなくて、あれだけ盛大に見送られた後に、すぐに行くのはちょっとあれじゃないか?」
「マグも同感。青方はマグと野宿した方が良い。マグは布団になる覚悟ができている」
マグさんは謎の覚悟まで決めてしまいました。やはり、野宿なのでしょうか。
それは嫌ですね。
幸いなことに、バーガーの包み紙を使えば簡易型ホームレスセット三人前を調達することは容易いですけれども。
「負けませんよ! 私は魔界族さんたちの元へ向かうへ一票でございます」
「マグは逆に一票」
「妾もマグに賛成ー」
民主主義とは綺麗事に過ぎないのでございましょうか。うわ、私の発言力低すぎ?
「わかりました。ですが、野宿は危険ですよ? 私は貴女様たちに何かあったらと思うと心配で心配で夜も眠れません」
バーガーしか喉を通らなくなってしまいます。
「青方、そこまでマグのことを……」
「妾のことも、だぞ。最近、そなた妾への当たりキツ過ぎないか。マジ泣きそう」
「ライバルは蹴落とす。それがマグの生き様」
「ライバル! 友と書いて、ライバル!」
「それは違う」
マグさんの鋭い言葉の暴力が、ナルさんの心をへし折りました。けれども、当のナルさんはどこか楽しげでございました。
おそらく、今までの人生では対等に喧嘩する相手もいなかったのでしょう。
彼女たちの友情は、歪んでいますが、本物のようでございますね。
「仲のよろしい御二人の意見には、多数決ですから従います。野宿、何処でやりますか?」
「取り敢えずは街から出ようか。流石の妾も、街中の道端では寝たくないからな」
それについても同感でございますね。けれども、それはそれで不安なのですけれども。
ギルド都市ラピーセル。恐ろしい場所でございます。私は戦慄を友として、街から一旦出ることを決意致しました。




