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面白い処刑法でございますね

 翌朝、わたくしを涙ながらに見送ってくれる男性がいました。


「お願いだ。脱獄しよう。俺もこのままじゃあ死刑なんだよ。家には家族もいるし、友達も沢山いる。だから、助けてくれぇ」

「家族がいて? 友達も沢山? 自慢ですか」

「え、いや、そうじゃねえだろう。可哀想だとは思わねえのか?」

「私の方も可哀想だとは思いませんか? 恋人もおらず、友達もおらず、唯一の拠り所でしたマグナトはこの世にはもうなく、気絶していたところ服を盗まれました。それが理由で投獄され、隣の死刑囚はうるさい。そして、バーガーを強請られて、それを渡したら死刑!」

「お、おう。悪かったよ。だから、助けてくれ」

「何ですか、そのだからは。どこからやってきたんですか、だから」


 うう。私は今困り果てております。

 お隣さんが何と死刑囚だったのです。私、一夜を彼と共に過ごしてしまいました。恐ろしい。殺されなくてよかったぁ。

 まあ、死刑囚といえど、人殺しかは不明なのですがね。


「お前なら脱獄も簡単だろう? 助けてくれよ」

「嫌ですよ。死刑囚を逃すほど、私は愚かではございません。貴方が冤罪と仰いましても、それを証明できない以上は助けられません」

「冤罪じゃねえけど」

「そこは嘘を吐きましょうよ」


 私は看守さんに連れて行かれてしまいました。


「あの方は連れて行かれないのですか?」

「あいつはお前とは違う。お前は一日でも放っておいたら、壁壊して逃げるだろうが」

「なるほど」

「逃げるなよ? 言っておくぞ。俺は高位魔法使いだ」

「お気の毒様でございます」


 独り身。

 その上、仕事を失敗して無職へ転職。そのようなことになれば目も当てられませんよね。

 強い同情心から逃げないことを誓いました。


 死刑といっても、どうにかなるでしょう。しっかりと謝罪して、無実を証明するのです。

 実際、私はそこまで悪くないですしね。


 ーー最悪、あのお隣さんに壁破壊の罪を押し付けてもよろしいですし。

 あの方、脱獄脱獄としつこいのです。一日中、犯罪告白を聴かされた私としましても、彼にはあまり良い印象を抱いておりません。


「着いたぞ」

「立派な建物でございますねぇ」

「ここがアリーナだ」

「ほうほう」


 アリーナと呼ばれた施設は、他の木造建築住宅とは一線を画すものがありました。

 まず、鉄のようなもので作られています。

 そして、何よりも独特なのが形状でございましょう。丸いドーム状の形をとっております。


 入り口からは沢山の人達が建物内に入っていきます。何かあるのでしょうか。


「ここは何をするところですか?」

「普段は闘技場だ。だが、今日は死刑囚たちを魔物と戦わせる日だ」

「随分とまあ。面白い処刑法でございますね」

「何で他人事なんだよ。お前が行くんだぞ」


 私はアリーナの地下牢へと移されました。そこには生気を失った人々が沢山おりました。


「皆様、随分とお疲れのようでございますね」

「……」


 他の方は無言で震えるばかりでございます。

 震えている方は、次々と監視官様に連れて行かれてしまいます。

 監視官様に手を取られると同時に、死刑囚の皆様は絶叫致します。余程恐ろしいモノが待っているのでしょう。


 私は冤罪も同然ですから、そこまで恐る必要はありません。無論、壁を壊したのは私ですが、悪意は一切存在していません。

 脱獄が可能だったのにも関わらず、私は逃げませんでした。これで私の潔白さは証明されましょう。


 そうこうしている間に、私にもお声が掛けられました。大人しく従いましょう。


「お前は叫ばないんだな。怖くないのか?」

「ええ、全然」

「余程実力に自信があるのか。それとも恐れ知らずなのか。魔界族を知らん訳ではないだろう?」

「魔界族、ですか」


 正直に申しますと、全く知りません。それに私は今日、魔物と戦う筈でしたが。魔界族とやらと戦うのでしょうか。

 まあ、どちらにしろ戦いませんけれどもね。


「魔物で殺し切れなかったら、魔界族を使うんだよ。今日はすでに二人、魔界族に挑んでいる」

「なるほど」


 私はアリーナの中心に連れて行かれました。

 アリーナはどんな場所なのだろうと期待していたのですが、所謂闘牛場のような所でございました。

 円状のバトルフィールド。それを囲むように観客席があります。今日はお客様がいっぱいいますね。満員、満席でございます。


 接客業としては嬉しいのですが、私の処刑を見に来た方々だと考えますと、あまり素直に喜べませんね。


「いけー! 殺せー!」


 野蛮な歓声が私を鼓舞します。

 処刑を見に来るなど、余程暇なのでしょうね。こういう場所にはお偉いさんがいらっしゃるのが世の常でございます。

 探しましょう。


 私が首をキョロキョロさせていると、鉄が軋む音がしました。正面の門が開いたのでございます。


 中から現れたのは、一匹の狼です。ただの狼ですら恐ろしいというのに、今回の狼は正しく異形でございました。

 体長は私を優に超え、口からは多量のよだれがダラダラ流れております。その唾液が地面に触れた瞬間、肉を焼くような音を立てて穴が生まれました。


 溶かしているのです。


「お、お客様。その当店では、ですね。人肉の販売は……」


 狼さんが吼えました。

 今にも目の前の餌(私のことでございます)を食さんと狙っております。


「武器を選べ」


 監視官様が私に仰います。見ると、そこには多種多様な武器の数々。

 沢山あって迷いますねえ。


 狼さんはまだ檻に入れられております。

 門の前には檻があって、今はそこに捕獲されているのです。勝負が始まると同時に、あの檻が上がるのでしょう。


 結局、私は剣と盾を選びました。普通が一番、でございますね。


 檻が開き、中の狼さんが解放されました。


「処刑を開始します!」


 歓声が世界を覆い隠します。

 さあ、戦いが始まってしまいました。

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