至高の日
「マグナト異世界店?」
と元リーダーさんは怪訝そうな表情を隠そうともせずに、そう仰いました。やはり寂しいものでございますね。
故郷のことを誰もご存知ないということは。
とはいえ、すでに魔界族さんはマグナト商品の素晴らしさをご存知でしょう。
ですから、安心して説明できますね。
私は『創造せよ、至高の晩餐』を発動しました。
それによって、多種多様な商品が顕現なさいます。パーティができますね。
「これは。養殖に使うと言っていた、謎の棒!」
「……謎の棒ではなく、揚げ芋でございますよ」
この揚げ芋を小さくして、魚さんに召し上がって頂くのです。そうすることにより、お魚さんは弱ることなくすくすく育ちます。
また、マグナト補正により、かなり強いお魚に育つのではないでしょうか。味は保証します。
すぐには食べられないのが問題ですが、それはゴーレムさんという立派な労働者さんが現れたことにより解決しました。
ちなみに、養殖用の揚げ芋は大量に召喚してありますので、毎日与えても八年はなくなりません。
今、人がいない家には、揚げ芋の山が。天国でございますね。
「私はこれを売り出します。そして、それによりみなさんの笑顔が見たいのです!」
「ふ」
元リーダーさんがニヒルに微笑みました。補足致しますと、彼はかなり美形でその上格好つけていますが、マグナトバーガーとの熾烈な生存競争に敗れた敗者であったりします。
そのめげない姿勢、是非うちのお店に欲しいですね。けれども、彼はこの村にいなくてはいけない存在。
ここで勧誘などという野暮な真似は致しません。疼く身体を必死に抑えます。
「君次、様子がおかしいぞ。何時もだけど」
「ナルさん、今の私に近寄らないでくださいませ。火傷しますよ」
「近寄るな……とか」
ナルさんがその場にて両膝を抱くようにして座り込みます。所謂、三角座り(体育座り)を開始致しました。
虚ろな目で、何やら呟いております。
そのようなナルさんが見ていられなかったのでございましょうか。マグさんが近づいていき、ナルさんの肩をポンと叩きました。
「マグも言われたことある」
「おお、同志! そなたもか」
「うん」
お二人は同じ境遇から意気投合したようでございますね。微笑ましくて素敵です。
若干のニヤニヤと共に、彼女たちのやり取りを拝見致します。
「妾はそなたを勘違いしていた。親友よ!」
勢いに任せて、ナルさんが抱擁を放ちます。それをマグさんはさっとかわしました。
「触らないで。不運がうつる」
「そなた! やはり、敵だ。心の隙間に入り込みやがって。魔王舐めんなよ」
「ふふ。青方がいるから、お前が敵でも構わない……」
「悪魔!」
「魔王」
「何もそこまで言わなくても良いだろう。幾ら何でも、魔王は言い過ぎだ」
「ごめん。今のはマグが悪かった」
諍いの後の和解。見事な友情でございますね。
「さて、では。折角、大量のマグナト商品を呼んだのですし、パーティをしましょうか! 村中の飢えた方をこちらに! 飢えていなくとも大歓迎でございますよ」
「いいのか?」
私の提案に、元リーダーさんは尋ねてきました。無論です。
それからの村は早かったです。
机はありませんでしたが、小さな木を切り出して、即席の机と椅子を用意してくださいました。
無数に並べられた机と椅子の中央には、皆さんが凍えないように巨大な焚き火が行われました。
キャンプファイアのようですね。
パチパチと火が木材を焼いていきます。
用意が終わり、村の方々が集まった頃には、既に夜でございました。
群青色の空は深く深く、どこまでも続いていると錯覚してしまう程に大きいですね。
その下で、小さな我々は真紅の炎を囲んで、ワイワイと騒いでおります。
ある方は腕が生えてきたと喜び、ある方は腰痛が治ったと歓喜に震え、ある方は痔が治ったと飛び上がっておりました。
誰もが笑い、幸せそうにマグナト商品を頬張ります。口々に、美味しいという細胞が打ち震える程嬉しいお言葉が木霊します。
ああ。
生きていてよかった。
「青方」
隣に座るマグさんが、不思議そうに私のお顔を覗き込みました。
「どうして泣いているの?」
「え……ああ、なるほど。嬉しいからですよ」
沢山の方が、幸せになる。
これ程、マグナト店員にとって幸せなことはないでしょう。今日は良い夢が見れそうですね。
ふふふ、と私の口元を弛緩させる幸せ波動を食い止めながら、マグさんやナルさんと共にバーガーを食べます。
今日は至高の日でございますね。




