マグナト異世界店を作ります!
ナルさんの己への敗北を尻目に、物語は続行されております。
ゴーレムさんを手にしたレイアくんが、お姉様と何やら相談し合っているのです。
やがて、会話が終了したのでございましょう。私たちの方へと向き直って、
「決めた。このゴーレムと一緒に、俺は狩りに行く。あと、村の手伝いをする」
それは素晴らしい案でございますね。
あのゴーレムさんはかなりお強いです。私とマグさん、ナルさんが戦ってやっと倒せるレベルですからね。
まあ、私の見立てですと、ナルさんならばお一人様でも倒せたでしょうけれどもね。
彼女は私たちの中では、実は最強なのでございます。まあ、魔王ですからね。
魔王、マグナト店員の次くらいには就きたい職業でございますよね。
「では、この話は一旦、一件落着ということで構いませんよね?」
「うん」
マグさんが了承してくださいました。
今回の事件はマグさんにとっても、収穫のある事柄でございました。そもそも、私がここへ来たのも、彼女に理解して頂く為ですからね。
魔界族さんといえど、立派に生きていて、十二分に幸せになる資格があるのだ、と。
本当に、完全に理解なさったのかは定かではありませんけれどもね。
それでも確実に、彼女は前へ進んでいます。
私がマグナト店員としてお手伝いできるのはここまで。後は彼女自身が幸せを見つけ出すしかないのです。
「あと、そうですね。この村の飢饉問題を解決したのちに、マグナト異世界店を作りましょう」
何と、夢へは後一歩でございますか。思えば、ここまで来るのには長かったですね。
異世界に召喚され、猪さんに襲われ、服を脱がされ、処刑されかけ、マグさんを解放しました。
魔王と出会い、魔王と仲良くなり、そして魔界族さんたちとの諸々。
長かったですね。
ですが、もう後は店を建てるだけなのです。おやおや、実は何も進んでいないような気が致してきました。
私、経営を舐めている節がございますね。
まあ、マグさんがいらっしゃいますし、お客様には事欠かないでしょう。マグさんは可愛らしいので、客引き猫耳さんとして君臨できることでございましょう。
楽しみですね。
「取り敢えず、どう問題を解決しましょうか」
「それには及ばないぞ、メルセルカ!」
「あ、貴方様は!?」
私がこれからの魔界族さんたちを考えていますと、背後から突如人影が現れました。
その姿、声には聞き覚えがございます。そうです。魔界族さんの村の元リーダー(現在はマグナトバーガーがリーダーでございます)さんでした。
「もうお前に助けて貰う訳にはいかない。世話になり過ぎた」
毅然とした表情で、元リーダーさんは断言致します。
「養殖の件、ゴーレムの件。これ以上助けられても、我らには返せるものが無い」
「ゴーレムさんの件は私たちが原因でございますよ?」
「いや、あれは『勇気の洞穴』に出現した。つまり、放っておくとどの道遭遇した」
確かに、そうでございますね。元リーダーさんの仰る通りです。
「だから、もういい。それに優秀な働き手が現れたと聴く」
元リーダーさんが示しているのは、ゴーレムさんの存在でございましょうか。ゴーレムさんはおそらくですが疲れません。
その上、力持ちですし、再生能力にも秀でております。遠慮なく使える働き手ですね。
うちのマグナトにも一人欲しいですよね。
今度捜しに行きましょうか。
「メルセルカに助けられてばかりだとはな」
自嘲気味に、元リーダーさんは仰います。
「やめてくださいませ。私はマグナト店員。報酬やお返しなど求めておりません。私はただ貴方様たちのーーお客様の笑顔が見られれば十分なのですよ」
それに勝るものはございません。
「そうか。メルセルカ。すまなかった。我らは貴方を誤解していた。メルセルカは全て、我らを差別して、侮蔑して、我らから搾していく存在だと考えていた」
彼は深く深く、自らの膝に頭が命中してしまいそうなくらいに、頭を下げました。
魔界族さんたちのルールがわかりませんね。
決闘を申し込むときは、握手と土下座ですのに、謝罪の時は普通なのですか。
いや、もしかすると新手の決闘申し込みだったりするのでしょうか。不安ですね。
彼は顔だけをこちらに上げて、言葉を続けました。
「もう助けてくれなくて結構だ。我らは借りは作りたくない。だから、メルセルカ。いや、青方君次。貴方に何かあれば言ってくれ」
「どういうことでしょうか?」
「何かあればすぐに駆けつける」
「……」
なんと嬉しいことなのでしょうか。
お店をオープンしたと同時に、満員が決定した瞬間でございました。なるほど、集客はこうやるのでございますね。
流石はマグナト。
初日満員とはもう無敵でございますね。この世界にはケターキーもミセスドーナツも存在しませんから、邪魔者は存在しません。
マグナト無双の開始でございましょう。
「まあ、あまり手伝うのもダメですよね。わかりました」
「青方たちはこれからどうする?」
元リーダーさんの問いに、私は堂々と明言しておきます。
「マグナト異世界店を作ります!」




