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甘いぞ、君次

 ゴーレムさんの肉体が砕け散り、体内の核が露わになりました。

 他の岩とはまったく様相の異なる物質でございますね。その謎の物質はごそごそと動き出したのち、逃げ出そうとしました。


 それは結構な速度で村外れへと向かっています。


「追いますよ、マグさん、ナルさん」


 二人は了承の応答をこちらに送ってくださいます。彼女たちを引き連れて、核を追いかけます。


 そこまで早くはなかったので、普通に追いつくことができます。


 核が向かったのは、レイアくんたちのお家でした。おそらくはナルさんの不運によって引き寄せられたのでございましょう。


 何らかの不運が待っていると見て、間違いがありません。本当ならば放っておいても構いませんが、レイアくんたちのお家ともなれば話は別でございますよ。


 まあ、他のお家でも同じような感覚は抱いたでしょうけれどもね。ですけれど、単純に知り合いとそれ以外でしたらば、モチベーションも変わって参ります。


 核へ向けて、踏みつけを行おうとしました。それと同時に核にも動きが見られました。


 私の足元の岩を一部分だけ隆起させたのでございます。それが原因となり、私は転倒致しました。


「……すけて。……た……けて」

「青方、岩がなんか言ってる」


 マグさんは冷静に、事実だけを端的に伝えてきました。よい心掛けでございますね。


 私がマグナト異世界店を開業した暁には、マグさんを従業員にするのも悪くはないかもしれません。


 私が夢を心中にて語っておりますと、核の声が徐々に大きくはっきりと聞き取れるようになってきました。


「助け、て。命だけは助けて」


 それは懇願でございました。

 命だけは助けてくれという身勝手な御言葉。


 けれども、でございます。私を黙らせるのには、十分過ぎるお言葉でございました。


 その時に知覚させられてしまったのでございます。この核は生きているのだ、と。


 ゴーレムさんは意思なき人形ではございませんでした。命ある生物だったのです。核を破壊してしまえば、容易く終わってしまう命。


 であれば、私には手出しができません。


 殺すのは幾ら何でも酷というもの。


 躊躇する私の真横を赤い魔弾が迸りました。我が頬を擦り、切り裂き、核のいた場所に降り注ぎました。


「甘いぞ、君次。殺すときは殺さないと、全て失う」

「……マグも同感だけど」


 ナルさんは一切の躊躇なく魔法を放ちました。マグさんは言葉とは裏腹に、動こうとはしません。


 マグさんは殺しの恐ろしさを理解しているからでしょう。ナルさんも理解しているのでしょうけれども、それを理由に止まりはしません。


 どちらも正解なのでしょう。

 私はただただ恐ろしくて、手が出せなくなったのでございます。


 生物を殺す。

 その恐ろしさ。


 私は蚊すら殺せないのです。

 意思のある岩も、当然殺すことなどできはしません。


 もちろん、生きる為に殺すことならば私は許容するしかありません。

 けれども、これは単なる排除のように思えてならないのです。ここまで弱った魔物を殺すのは非道ではないのか。


 そのようなことを考えてしまうのです。


 頭をよぎるのは、私が今まで出会ってきた魔物さんたちでした。

 猪さんや闘技場で戦った狼さん。


 彼らは私の大切なお客様でございます。


 魔物さんには確かな自我があり、楽しい時は楽しいと思うのです。

 美味しいものを食べれば、その顔を綻ばせるのでございます。


 そのような命を果たして、殺しても良いのでしょうか。


「あっ」


 唖然とした、驚愕色の声が耳に吸い込まれてきました。思考を中断させて見つめたその先には、レイアくんのお姉様。


 外の様子が気になって、出てきてしまったのでしょう。


 理解しました。


 ゴーレムさんの不運はこれでしょう。

 あのままだと、私は確実にゴーレムさんを見逃していました。説得は試みたでしょうけれども。


 しかし、話が変わってきました。

 レイアくんのお姉様が殺されてしまうくらいならば、私はこの手を汚しましょう。


「申し訳ありません。お許しくださいとは、申し上げません」


 核がレイアくんのお姉様へ襲いかかるのと、私が距離を詰めたのは同時でございました。


 どうにか拳は追いつきそうです。

 手加減はできませんけれども。


「姉ちゃん!」


 核の攻撃が届くよりも早く、私の拳が届くよりも早く、レイアくんが現れました。

 彼はお姉様を突き飛ばし、その場から離れさせました。


 ファインプレーでございますね。


 私は拳を解き、代わりに掌を広げました。核を掴み取ります。


「核さん、お話しましょうか? 貴方様を殺さずに済む道を、共に探しましょう」

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