御覧なさい!
ナルさんの魔弾はゴーレムさんの腕に掠りました。爆煙が生まれ、周囲が煙に包まれます。
魔界族さんの一人が、小さな声で「やったか」と呟きましたが、ゴーレムさんは無傷でございました。
呟いた魔界族さんは顔を赤く染めて、その場から逃げ出してしまいました。
「ふ、妾の魔法を受けて無傷とはな」
「きちんと命中していませんでしたよ」
「風が悪い! 断じて妾はノーコンじゃないからな」
ナルさんが次弾を装填する為に詠唱を開始しました。敵も待ってはくださいません。
我々を目にした途端、その大きな体躯を歪ませます。私の全長程もある掌をこちらに向けると、そのまま石の弾丸を放ってきました。
「来てください。『創造せよ、至高の晩餐』」
バーガーの壁を創造しまして、その影に隠れます。石がバーガーを撃つ、鈍い音が響きます。
「ナルさん!」
『世を赤く染めよ。鮮烈なる赤の弾丸』
紅に染まった弾丸が放射されました。それは一直線に、ゴーレムさんへと向かいます。顔面を撃ち抜き、確かな隙を作り出しました。
マグさんが一駆けで、ゴーレムさんとの距離を食い尽くしました。そして、その足に全力の拳を叩きつけたのでございます。
足は粉々に砕け散り、積み木遊びのように、下の支えを失ったゴーレムさんが崩れ落ちます。
私はゴーレムさんの核目掛けて走ります。ですが、私が追いつくよりも先に、ゴーレムさんが起き上がってしまいます。
「そう簡単にはいきませんか」
周囲には魔界族さんたちのお家が並んでおります。下手にゴーレムさんを転倒させれば、お家は容易く倒壊の結末を迎えてしまうことでございましょう。
そうはさせません。
魔界族さんたちの家は、お世辞にもできがいいとは言えません。現代日本人から見れば、明らかに欠陥住宅なのです。
しかし、それはつまり乏しい知識で生きる為に、必死に作り出しだしたということを表しております。
どの家も、不恰好。けれども、心が込められて建てられたのだと一目見ればわかる。
壊させるわけにはいかないのです。
また、ゴーレムさんにも、これ以上、人の大切な物を壊して欲しくないのです。
例えゴーレムさんに心がなくとも。
これ以上、彼に悲しいことをさせるのは、私の矜持に反します。
「さあーー貴方様を破壊して、これ以上罪を犯せないようにしましょう」
『創造せよ、至高の晩餐』により、多量のバーガーを召喚。
バーガーによって城塞が築かれていきます。私はその上に乗りました。
そのバーガーの壁は高く聳え立ちました。ゴーレムさんよりも高い場所で、私は彼を見下ろします。
「貴方様はただの岩でした。では、どうして人々を苦しめるのですか!」
「ヴオオオオオオ!」
「答えてはくださいませんか」
ゴーレムさんには我々を襲うメリットがないのです。食事も見たところ不要そうでございますしね。
意味もなく、暴れているだけ。
「貴方様はここで止めます!」
雲にも届こうかという高度で、私はバーガーを消失させました。私にはマグさんほどの破壊力はございません。
けれども、この位置からならば。
位置エネルギーを使用したのならば、話はまったくの別でございましょう。
「ヴオオオ……」
ゴーレムさんの腕が私に向かって振り上げられました。
空中の私には回避の手段がありません。
けれども、回避する理由もまた皆無でございました。何故ならば、
『鮮烈なる赤の弾丸』
ゴーレムさんの腕に、炎が襲いかかりました。動きを鈍らせたゴーレムさんの頭上に、私は拳を突き立てました。
破砕。
石の砕けるけたたましい音を耳にしながら、私は地面にぶつかりました。衝撃を殺すことなど出来ず、勢いで意識が昏倒しそうになります。
召喚した揚げ芋を口にし、全快致します。
「装甲が厚いですね」
砕くことは可能なのですが、すぐに直ってしまいます。ナルさんの支援のお陰で、かなり安全に戦えてはいるのですが。
せめて動きを止めなければ。
そのような考えに至ったのと同時でした。魔界族さんたちが戦場に集まって来たのです。
「メルセルカに頭を下げるのは癪だが、すまない。手伝ってくれ!」
彼らはその手にロープを持っておりました。
「行くぞ!」
魔界族の膂力によって、ロープが投擲されます。そのロープは見事、ゴーレムさんの足を捉えました。
「せーの!」
「おー!」
魔界族の男性たちが、一気にロープを引っ張りした。それにより、ゴーレムさんの姿勢が僅かに揺れます。
「チャンスでございますね! 行きましょう」
魔界族さんたちの表情は一様に必死でございます。汗を額に浮かべ、それを拭うこともせずに全力でロープを引きます。
それは当然でしょう。
守るべきものがあるのですから。
彼らはこの村を、そこに住む仲間たちを、必死で守ろうとしているのでございます。
「御覧なさい、マグさん。貴女様たち魔界族さんは確かに差別されています」
ですが、
「誰に差別されようが、それは根拠のない、なんの説得力もない、言い掛かりに過ぎません」
みなさん、こんなに一生懸命生きている。
「己を御覧なさい! 仲間を御覧なさい! 隣を御覧なさいませ。何処に恥じるべき方がいらっしゃいますか!?」
マグさんは己を魔界族だから汚いのだと、そう考えております。そのようなこと有るはずがないのに。
「行きなさい、マグさん。貴女様が彼らを救うのです!」
私は魔界族さんと共に、ロープを引きました。それによって、ゴーレムさんは再度転倒なさいます。家屋のない場所へと、ゴーレムさんは倒れこみます。
その上、ロープの効果でゴーレムさんは立ち上がれません。捕まえました。
「……うん!」
核へと向けて、マグさんが渾身の一撃を穿ちました。




