マグはまあ、頑張れ
『創造せよ、至高の晩餐』を発動して、バーガーの壁を築き上げます。
目的は一つ。
時間を稼ぐ為、でございます。敵は強大。というよりも巨大でございますから、弱点を攻めようにも一筋縄ではいきません。
マグナトのマニュアルにも、ゴーレムとの戦闘方法など記載されておりませんでした。ですから、これはマグナト店員としては初めて経験するタイプの問題ですね。
私はマグさんと向かい合いながら、お話致します。
「どうしましょうか、マグさん」
「あまり近づくのは良くないと思う」
「けれども、トドメを刺すのならば、近づかなくてはいけませんよ?」
「石……投げる」
なるほど。ズルイ気もしますが、理に適っております。人の身で岩の怪物さんを倒そうと思えば、かなりのことをせねばなりません。
それが投石だとしても、ある程度は許して頂けるでしょう。
こくり、と私はマグさんへと頷きを返しまして、石を拾い始めました。マグさんよ石を拾い集めます。
幸いなことに、私が壁を破砕しましたので石には困りません。
集め終えたのち、マグさんに確認を取ります。
「私がバーガーの壁を消したと同時に、この石を投げますよ。良いですね? 一二の三、でいきますよ」
「うん」
一。
二。
三。
バーガーの壁を消滅させ、直後に石を全力で投げつけました。
しかし、それは外れてしまいました。
「いないね」
マグさんがぼそりと呟きました。仰る通りでございます。壁を消した先にいるであろう、ゴーレムさんの姿が見えなくなっておりました。
溶けてしまったのでしょうか。
私がむむむと思考の渦に足を踏み入れかけた時、答えは授けられました。精霊様からでございます。
「逃げた。外。村。村」
「そうでしたか。もうゴーレムさんは『勇気の洞穴』にいませんので?」
「いない。いない」
ゴーレムさんは岩に溶け合い、移動する能力をお持ちでした。それは登場時に見せつけられていた動作でございます。
逃げられる可能性は考慮しておりませんでしたね。詰めの甘さが露呈しました。
「では、今すぐに追いましょう」
今から走っても間に合いそうにないので、ナルさんの魔法に頼りましょうか。
地面に埋まっているナルさんの元に駆け寄りました。彼女は俯きながら、
「せっかくお風呂に入ったのに……」
と、悲しみを吐露しておりました。
私の『創造せよ、至高の晩餐』でも汚れまでは除去できませんね。
彼女を土から掘り出します。私はあまり上手く土を掘れないのですが、マグさんとレイアくんは怒涛の勢いで土を掘り返しました。
その間、ナルさんは死んだ目で天井を見上げているだけでございました。
「な、ナルさん? ナルさんは、土で汚れたくらいではまったく問題ありませんよ? かわいいです!」
このままではあまりにも悲しいので、フォローの言葉を投げかけました。まあ、フォローと言いましても、事実を伝えるだけでございますがね。
「ほ、本当か? 妾をからかっているわけではないよな?」
「無論本当でございます」
「……やる気出てきたわー」
ガシリ、とナルさんが拳を突き上げました。正気と希望の宿った瞳で、私を眺めております。
「君次、そなたのスキル『創造せよ、至高の晩餐』は妾のスキル……を無効化している」
「はて?」
「普通、妾の影響下に置かれたら、不運が続く。だが、そなたもマグも、未だに死んでいない」
「ああ、確かにそうでございますね」
「だから、妾が『門』を使うときに、食べさせてくれ」
ナルさんの言いたいことは理解致しました。ナルさんの『門』 は便利です。
しかし、ナルさんのスキルによって、転移先がズレてしまうのです。また、ズレずとも、その転移先では不運なことが起こります。
それを防ぐ為に、バーガーを食べるのです。能力を常時発動しているナルさんは、治してもすぐにスキルを発動してしまうので、チャンスは一瞬。
ナルさんが詠唱を開始しました。周囲に精霊様がいらっしゃるので、普段よりも軽快に魔が紡がれていきます。
魔法『門』が発動しました。と、同時にナルさんの口へとバーガーを放ちます。
もぐもぐとナルさんが咀嚼しているのを確認して、私たちは門を潜りました。
意識が白に染まった後、景色が現れます。そこは魔界族さんたちの村のど真ん中でございました。
ゴーレムさんがいました。彼はその極大の拳を振り回し、家屋を破壊していきます。
多くの魔界族さんが逃げ去り、一部の魔界族さんが戦闘を挑んでいます。
怪我をした数名が、担架らしきものに乗せられて連れて行かれていました。
「レイアくん、このバーガーを持って怪我人の元へ。あのゴーレムは我々が破壊します」
「で、でも! 僕だって狩人だ。戦える!」
「狩人でしたら、知っておいてください。勝てない相手に挑むのは、間違いなのだと」
バーガーを預け、私は前に出ました。
「君次。妾は遠距離から魔法を放つが、誤射には気を付けろよ。マグはまあ、頑張れ」
「……お前、絶対わざとマグを狙う」
「ふ、無論だよ。だが、安心するといい。どうせ当たらない。妾は不運のナルなのだからな」
ナルさんが炎の魔弾を放ちます。それが戦闘開始の合図となりました。
更新が遅れました。申し訳ありません。
あらすじにも記載している通り、毎日更新は崩す予定はございません。また、あらすじ通り、更新時間はランダムとなっております。
最近は0時更新でしたが、これからは時間がズレてしまいます。申し訳ありません。




