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悪化

 戦場は変更です。

 私はゴーレムさんの身体を使って壁に穴を開け、花畑から離れました。


 颯爽と追撃に向かう私の背後には、凛としたご様子のマグさんもいらっしゃいます。ナルさんはまだ土に埋まっておりますね。


 ナルさんは顔の半分以上を地面に埋めながら、もがくようにお口を開きました。


「あの岩は既にわらわに触れた。不運だぞ」

「わかりました」


 ナルさんのスキルは自他共に不運にする力でございます。

 彼女に不運を押し付けられた以上、ゴーレムさんはもうかなりダメでしょうね。


 あの不幸に対抗できるのは、魔王の身体能力(ステータス)を持つナルさんか、特殊なスキルを持つ私くらいでしょう。


 対峙して理解しましたが、ゴーレムさんはそこまで強くはありません。

 ただの力なのでという一点ならば、私の方が上でした。まあ、彼にはあの身体の大きさがあります。大きいは強いということと、そこまで乖離しておりません。


 大きいというだけで、要警戒ではございます。


 しかし、ナルさんの不運に耐えられるでしょうかね。


 一歩を踏み込みました。

 それだけで転倒しているゴーレムさんの懐へと届きました。拳を振り上げ、


「御覚悟を」


 拳を振り下ろします。

 そこでゴーレムさんが慌てた様子で拳を凪ぎました。拳と拳がかち合います。


 そして、私たちはお互いに後方へと吹き飛びました。ですが、私と擦れ違うようにして、マグさんが突撃なされました。


 あの岩さんはあまり許しておける存在ではございません。ですから、容赦など致しませんよ。本気になったマグナト店員程、恐ろしい者はいません。


 あの花畑には人の想いが詰まっていました。子の成長を喜ぶ親の声。


 親の愛を受け取り、これから前へ進もうとした少年の声。


 文化や伝統が繰り返されてきたであろう、青い花畑。


 私には理解できない伝統も、彼らにとってはこの上なく大切なことなのでしょう。


 その場を土足で踏みにじり、破壊した罪は重いです。マグナト店員として、お客様の悲しみは見過ごすことができません。


 岩さんが動く限り、あの花畑は荒らされ続けるのです。


「私が止めましょう」


 青い花を踏まないように、何もない場所に手をついて、飛び上がります。上空で体勢を立て直して、優しく着地しました。


 直後、地を蹴ります。


 ゴーレムさんの元へ行く。


「ステージ。進行。悪化。悪化」


 私の周囲に、精霊様が現れて、言葉を繰り返します。ステージが進行して、悪化したと仰います。


 何のことでしょうか。


 私が疑問に思うより早く、答えは定時されておりました。


「……くっ」

「ヴオオォ」


 ゴーレムさんとマグさんが拳をぶつけ合っていたのです。力は全くの互角。

 両者の拳が触れ合う度、互いの足場が衝撃を殺しきれずに破砕していきました。


 おかしい。

 明らかに、ゴーレムさんの実力が上昇しています。マグさんの膂力に抵抗できる力は、さっきの彼にはありませんでした。


 また、ゴーレムさんには変化がありました。呻き声のようですが、確かに彼は声を発していました。


 のっぺらぼうだった顔は消滅し、今では彫刻のような線が浮かんでいます。顔でしょうか。


 進化していました。

 魔物化が進んだのでしょうか。そもそも、魔物とは一体。


「青方。手伝って」


 堪らず、マグさんが救援を申請してきました。私はそれに応じて、バーガーを齧ります。


 今回のバーガーは、期間限定バーガー。

『鳥と玉子のレモン汁がけ〜パンを添えて〜』でございます。

 最近のお洒落なレストランの影響を受けてかどうかは定かではありませんけれども、風変わりな商品名でございますね。


 お味の方はーーレモンの風味が鳥にかかったテリヤキソースに絡み合い、絡み合い?

 絡み合っていませんね。


 お互いが個別の味覚を放っております。サッパリとしたレモンが爽やかですが、同時にテリヤキのコクもあって。


 まあ、苦手な方もいらっしゃるかもしれませんね。

 しかし、アッサリめな鳥とテリヤキの重量感が溶け合って、パクパクといけます。


「これは……新感覚でございますね」


 マグナトパワーを追加した私は、ゴーレムさんに駆け寄ります。

 蹴りを放つ姿勢を見せますと、何とゴーレムさんの背から新たな腕が飛び出してきました。


 防がれます。


 もしかすると、近接戦は不利かもしれませんね。けれども、私にもマグさんにも遠距離攻撃はできません。


 また、腕を砕きましても、


「ヴオオオオオオ!」


 すぐさま、周囲の岩を吸収して、再生してしまいます。これではきりがありません。


 何処かに弱点はないのでしょうか。


 私がゲーム的思考でゴーレムさんの弱点を探っていますと、見つかりました。


 ゴーレムさんの体内には、赤い核のような物が存在していました。あれはあからさま過ぎる弱点に見えます。


 どうして岩の肉体を持つゴーレムさんの体内が見えたのかと申しますと、不運なことにゴーレムさんが取り込んだ岩の一部が透明な鉱石だったのです。


 おそらく、ナルさんの不運をうつされていなければ露呈しなかった弱点でございます。


 あれを破壊すれば、推測ですけれどもゴーレムさんの動きは停止するでしょう。


 では、まずは近づかねばなりませんね。

 近接戦オンリーの私とマグさんで攻め切れるのでしょうか。


 いいえ、攻め切ります。

 これ以上、何も壊させない為に。

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