君次ぅ!?
青い花畑でございました。ルビーのように青く、そして透き通った雅なお花でした。
小さくかわいらしい花弁が幾層にも重なり合い、互いを支え合っています。
この一面を覆い尽くす程の花畑。それを構成する一つ一つのお花こそ、私たちが探していたものでございましょう。
「レイアくん。おめでとうございます」
「おめでとう」
私とマグさんはよくわかっていないながらも、祝福の言葉を贈ります。
この『勇気の洞穴』をクリアして、ここに辿り着くことが魔界族の成人の儀式、なのではないでしょうか。まあ、この周辺だけの伝統でしょうけれど。
我々の助けがあったとはいえ、彼はきちんと蛙を倒しました。資格は十分でございましょう。
「では、このお花を貰っていきましょうか。よろしいですか、精霊様」
「良い。良い。『ブルーピアル』あげる」
「ブルーピアル?」
おそらくはこのお花の名前なのでしょうけれど、聞き覚えがございませんね。まあ、異世界のお花ですから当然かもしれませんね。
「あ、マグ知ってる。ブルーピアル」
「ほうほう。どのようなお花なので?」
「花言葉は『愛の幸せ』」
愛の幸せ、ですか。随分とロマンチックな花言葉ですね。
感心と共に、泣き崩れるレイアくんを見守っていました。私やマグさんは落ち着いて彼の様子を見ているのですけれども、精霊様は別です。
彼は何度もその場で回転を繰り返していました。落ち着いて欲しいですね。
「精霊様、どうかなさったのですか?」
「来た。来た。魔物。岩の魔物」
この場面で、魔物さんが登場なさったご様子です。無粋な岩さんですね。
「で、どちらから?」
岩の魔物さんは思ったりよりも小さいようですね。足音が聞こえません。
あの物音に敏感なマグさんでも気が付かないのですからね。
「上。上から来る」
「上?」
見上げました。そこにあるのは、岩の天井ただ一つ。あれが魔物さんなのでしょうか。
答えは、向こうからやってきました。
岩の天井が不自然に隆起を開始したのです。それはやがて人の形を取りました。
破砕音を打ち鳴らしながら、その人型は天井と乖離しました。
それが花畑の上に降り立った。その衝撃で地面が弾け飛び、周囲には青い花弁が舞った。
「あれが岩の魔物ですか?」
「……多分、そう」
精霊様ではなく、マグさんが答えてくれました。精霊様は逃げてしまいました。
「初めまして。私、マグナト店員の青方君次と申します」
人の形をしているとはいえ、相手は岩さん。返事は返ってきませんでした。
それにしても、巨大ですね。私も身長が低くはないのですけれど、相手は私と比較できないほどに巨大でございました。
数十メートルは超えているでしょうか。バーガー食べても、あそこまでは大きくなれませんね。
「あの、あまり暴れないでくださいますか?」
岩さんは無言、どころか一方こちらに踏み出してきました。足が地面を突き刺す度に、青い花弁が散っていきます。
「おやめください!」
私の必死の叫びも虚しく、岩さんはその巨大な拳を振り上げました。
「青方、避けた方がいい」
「ですね」
私とマグさんはバックステップを踏み、その場から退避致しました。
我々がいた場所を直後、岩さんの拳が粉砕しておりました。これが噂にも聴くゴーレムというものなのでしょうか。
自分の意思で動く岩人形でございます。
その破壊力は確かなもので、地面を木っ端微塵に粉砕してしまいました。
あまりものパワーに、戦慄が止まりませんね。
「落ち着いてくださいませ!」
無言。
言葉の代わりに、再度拳が振り上げられました。遅い。
私は敢えてゴーレムさんに詰め寄り、それを回避とします。その試みは成功して、攻撃は私には命中しませんでした。
あの軌道では、確実に地面を殴り付けるだけであろう。と、考えていたのです。
けれども、その考えは否定されました。
花畑の中に、とある物体が姿を顕現なされたのでございます。それは禍々しい雰囲気を放つ門。『門』でございました。
中からナルさんが現れます。
「来たぞ、君次ぅ!?」
登場と同時に、彼女はゴーレムさんの拳の洗礼を受け取ってしまいました。地面に埋まります。
これが噂に聞く出オチという現象ですね。
などと考えていますと、また戦場に変化が訪れました。ゴーレムさんの激しい動きの所為で、天井から吊り下げていた垂れ幕が落ちてしまったのです。
「はぁ……最終確認でございます。止まりなさい」
私の呼びかけは、やはり無視されてしまいます。そうですか。でしたら、私としましても考えがございますよ。
ゴーレムさんが三度、拳を振り上げました。
ーー遅いです。
私は既に地面を蹴り抜いておりました。空を舞い、ゴーレムさんの眼前に現れます。
仮にゴーレムさんにお顔があれば、それは驚愕の色に染まっていたことでしょう。
我が膝蹴りが、ゴーレムさんの顔付近を捉えます。
問題にもならないような抵抗の後、ゴーレムさんの両足が地面から離れました。衝撃に耐えきれなかったのでしょう。
ゴーレムさんは後方に圧倒的な勢いで吹き飛びました。その勢いは頭を壁にぶつけても止まらず、壁をぶち抜いてしまいました。
数枚の頑強だった壁を打ち抜いてから、ようやくゴーレムさんは静止しました。
グッタリと地面を横たわるゴーレムさんに、厳しい現実というものを教えてあげましょうか。
「私、壁を壊すのは得意なのでございますよ」
さあ、壊しましょうか。