ハロー、でございます
しかし、ここに違和感さんが去来致しました。我々に牙を向いたのは、あくまでも岩さんなのです。岩に牙があるかという疑問は残りますが、それよりも問題点は別にございます。
マグさんたちは仰いました。
何かがいる、と。
岩さんに気配はあるのでしょうか? 何かがいる、という言葉は主に生物に向けられて然るべきではないでしょうか。
そういう考えの元、私は前方を観察します。すると、いるではありませんか。
大きな、けれども半透明の何かが。
「あれは?」
私の問いに答えたのは、レイアくんでございました。
「多分、精霊獣だと思う」
「精霊獣?」
「精霊様が遊びで作った人形だよ」
精霊様、でございますか。新情報でございますね。私はマグナトバーガーを頬張ります。
直後、我が脳内に新たな情報がインプットされました。精霊さんとは、我々メルセルカが魔法を使う為にいなくてはいけない存在だそうです。
魔素というモノが変異して生まれた生物だそうですね。簡単な話が、妖精さんです。
我々はその妖精さんに魔力を提供して、その代わりに奇跡を起こして貰う、とのことです。
魔法ですか。
興味がありますね。
まあ、私には至高のスキル『創造せよ、至高の晩餐』がありますがね。
最近、私『創造せよ、至高の晩餐』言いたいだけな気がして参りました。
「さて、ではあの精霊獣さんたちの所まで行きましょうか」
「襲われるぞ!」
「そうだとしても、進まない訳にはいきませんのでね」
マグさんたちを伴って、精霊獣さんに近づきます。それは半透明の巨大な海星さんでございました。
「ハロー、でございます。私、マグナト店員の青方君次と申す者です」
精霊獣さんは何も仰いません。
まあ、海星は通常喋りませんよね。
無害な様子なので、その隣を素通りします。そうしますと、グニュリと海星さんが蠢きました。
「これは倒すべきなのでしょうか……」
「……気持ち悪い」
私たちが歩きますと、海星さんはついてきます。何ですか。
ご用の場合はお声を掛けて頂きませんと。
精霊さんの目的が不明ですね。『勇気の洞穴』にいらっしゃる精霊さんがこれを作り出したのでしょうけれども、不気味なだけでございます。
「青方、これやだ」
「むー、わかりました。精霊さんの作った人形さんらしいですし、撃破しても問題ないでしょう」
私はバーガーを食べ切り、構えました。
「人呼んで、『骸の構え』」
「……誰も呼んでないと思う」
マグさんの指摘に、私は頷きを返しました。こういうのは雰囲気でございますよ。
踏み込みます。
海星さんは一足遅れて、私の動きに気が付きました。けれども、その知覚は遅い。
海星さんは手足を振り回し、攻撃を仕掛けてきましたが、私の手刀の方が先に命中致しました。
瞬く手刀。
我が手刀はあっさりと海星さんの身体に亀裂を入れ、そのまま彼を昏倒させました。
「私、強いですね。今までは殺さまいと動いていましたけれども」
今回の相手は命のない人形でした。ですから私も全力で動いたのですけれども。
私は容易く人を殺せる力を有している。これは肝に銘じておきましょうか。
「さ、先を急ぎーー」
振り返りますと、そこには何もありませんでした。
マグさんもおらず、またレイアくんもいません。はぐれた、ということではないようです。
だってそうでございましょう。
人がいないだけならば、まだ不思議ではございません。けれども、これは明らかなる超常現象でございました。
何故ならば、私たちが歩いてきた道が消滅し、壁が現れていたのです。そう、行き止まりになっておりました。
「おやおや。これは何かありそうでございますね」
けれども、そうですねえ。マグさんもレイアくんも放ってはおけません。私は突如現れた壁の前に立ち、拳を振るいます。土か岩か、材質は不明ですが、確実に亀裂が入りました。
もう一打。
壁が砕け散りました。その先にいたのは、マグさんでございました。彼女は無数に伸びる触手に囲まれておりました。
「気持ち悪い」
言葉一つ告げたのち、マグさんは触手に踊り掛かります。触手を手で掴みますと、容赦なく引き千切ります。
下から襲ってきたものは踏み付け、頭上から襲ってくる者は状態を捻るだけでかわしてしまいます。
どんどんと触手さんは消えていき、最後の触手もマグさんが爪で切り裂いてしまいました。
強いですね。
「終わりましたか? レイアくんはどちらに?」
「わからない」
ふむふむ。
敵はあまり強くないようでございますね。だとしたら、この敵の目的がわかりません。
我々を分断することが目的なのでしょうか。困りました。
レイアくんがどちらにいらっしゃるかがわかりません。頭を悩ませていますと、頭上で何かが割れる音がしました。
見上げますと、上から丸い水晶が落ちてくるではありませんか。
その水晶は私たちの眼前に落ちますと、映像を映し出しました。占いのようでございますね。
そこに映っているのは、壁に背を預けて蹲るレイアくんでございました。




