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私は只のマグナト店員さんです

 洞窟の中は完全に迷路状でございました。通路の広さは幸いなことに、人が六人は横に並んで歩ける程度はあるので、窮屈な思いはせずとも大丈夫です。


 ですが、些か不安でございますね。帰られるのでしょうか。魔界族であるマグさんの嗅覚ならば可能かもしれませんが。


 不安な気持ちを隠しつつも、わたくしは足を前へと進めます。

 足元にはまだウグーの卵が散乱しておりました。不気味ですね。


「こんなにも卵を産む生物がいるのですか」

「青方は子供。どれくらい欲しい?」

「子供ですか? 考えたことがありませんでしたねえ」


 私に子供ですか。想像もつきませんね。

 子供を作る前に、結婚せねばいけませんしね。結婚もまた想像の範囲外でございます。

 相手もいませんしね。


 私はバーガーだけが恋人です。

 食べちゃいたいくらい好きなのでございますよ。バーガーかわいい。


「マグは沢山欲しい」

「そうですか。その方が楽しそうですものね」

「うん。楽しい」


 マグさんは恥ずかしそうに、そう言うのでございました。

 ついでと言うように、彼女は私の腕に抱擁を行いました。腕にはじんわりと彼女の熱が伝わってきます。


「何いちゃついてんだよ」


 レイアくんは不機嫌そうな様子を隠さずに、そう仰いました。正直な所は彼の美点ですね。


「それにしてもレイアくん。この洞窟は『勇気の洞穴』などと言う割には、特に何もありませんね」

「知らねえよ。大人は何かこの洞窟で色々やってたみたいだけど」

「あれでしょうかね。大人になる儀式、という感じのイベントでしょうか」


 私の世界でも、そういう行事はあったと耳にします。これをやらねば、大人とは認めないぞ、という行事でございます。


 成人式のようなものですね。


 勇気を試すための洞窟ですから、肝試し系でしょうか。

 だとしたら困りましたね。怖がる準備をしておきませんと。私は反応が鈍い時がございますので、時折肝試しに赴いてはお化け役の方々をがっかりさせてしまうのでございます。


 本心では驚いているのですけれども、どうにも表情には出にくいようなのです。

 接客スマイルならば、誰よりも優れていると自負しているのですけれどもね。


 試しに笑顔を披露致しますと、レイアくんは表情を引き攣らせました。


「急ににこっとしたぞ」


 一方、マグさんは優しく微笑んで、


「……そんな青方も良い」


 謎の全肯定でございました。やめて。私、すぐに調子に乗ってしまいますので、ダメな時はダメ、と。

 そう素直に仰って下さいませ。


 まあ、マグさんの曇り一つもない微笑みを見ていますと、本心からの言葉であると理解はできていますが。



 なんて、楽しく洞窟探索を行っていますと、突然道が二手に分かれました。

 いえ、元よりも道は迷宮上に複雑に分かれておりしたが。


 今回は何かがあるようなのでございます。


「どうしましたか、貴女様方?」

「……何かいるよ」


 真剣かつ緊張した面持ちで、マグさんが仰いました。この先に何かがいる。

 それはマグさんが言ったのですから確定でございます。


 ごくり、と私は思わず揚げ芋を飲み込みました。額には汗が一筋流れ落ちます。


「何かがいるのはどちらの道ですか?」

「どっちも」

「了解です。では、この道は諦めて、戻りましょうか?」


 と、私とマグさんが話し合っておりますと、レイアくんが首を横に振るいました。


「昔、大人たちが言ってたぞ。結局、どの道に行っても変わらない、って」

「なるほどです。ならば、前に進むしかないのですね」


 私はバーガーを構え、先頭になって右の道を歩き始めました。その道は坂になっており、中々険しい道でございました。


 ーーゴロゴロゴロ、とまるで大地が空腹を訴えてくるような音が響きます。けたたましい地響きでございました。


 マグさんもレイアくんも理解できていないようですが、現代日本人の一員であります私には存分に理解できておりました。


 そうです。

 岩です。


「おやおやまあまあ」

「……おっきい」

「に、逃げろおおおお!」


 三者三様の様子を見せます。

 私は岩さんを予期していたので、やはりかという納得の声を。

 マグさんは率直な感想を。

 レイアくんは逃走を開始致しました。


 巨大な岩が我々の命目掛けて一直線でございます。人が六人並べる道を覆い隠すその巨石を前に、私は……笑みを零しました。


「この程度でございますか?」

「……同感」


創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』を発動。

 バーガーの壁を建造致します。


 グーをマグさんに手渡しながら、私は再度岩さんを嘲笑います。


「その程度で私たちを害するおつもりで?」


 ハンマーで壁を破壊したときのような、衝撃の伝わる破壊音が鳴りました。

 岩さんがバーガーの壁に激突した音でございます。けれども、我が『創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』を破ることは能わず。


 岩さんはその場で処刑を待つのみとなりました。グーを飲み干したマグさんが、バーガーの壁の前に立ちます。


「どうぞ、マグさん。至高の一撃、お願いします!」

「うん」


 マグナト強化されたマグさんが、身体を捻ります。右の拳を後ろに引き絞り、壁に対して鋭い眼光を向けました。


 限界まで振り絞られた一撃がーー解放されました。


 拳がバーガー壁にぶつかる直前、私はバーガーの壁を壊しました。岩さんが動き出しますが、既にマグさんの拳が触れています。


 爆発音。

 破砕音。

 岩さんは内部から爆破されたように、木っ端微塵に消滅なさいました。パラパラと残骸が我々に降りかかります。


「さ、行きましょうか」

「行く」


 私が振り返り、レイアくんを確認しますと、彼は目を丸くして言い放ちました。


「化け物かよ!」

「否です。私は只のマグナト店員さんです」

「マグナト店員さん怖ええ」


 失礼な。

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