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青方、低俗

「青方、低俗」

「誤解でございます! わたくしは健全潔白な素敵マグナト店員さんでございますよ」


 マグさんの毒舌が解き放たれました。猪さんの牙よりも鋭い一撃に対して、私は撃ち抜かれることしかできませんでした。


「ね、姉ちゃん! お前!」

「いや、違うのです。お姉様からも一言お願いしますよ」


 我々全員の視線がレイアくんのお姉様に向かいます。彼女は不思議そうに、回復した己の肉体を見つめ続けております。


 ですが、不意に口を開きました。


「……胸が膨らんだ気がする」


 おやおやぁ、またもや爆弾発言がやって参りましたよ。私はうんざりします。


「おい、メルセルカ! お前、姉ちゃんの身体に何をしたんだよ。急に顔色良くなったけど。……どうして胸を膨らませたんだよ!」

「そこですか?」

「姉ちゃんは貧乳だから可愛いんだよ!」


 レイアくんのシスコン発言を聴いて、マグさんが「うわ、シスコンだ」と呟きました。

 そして、レイアくんのお姉様は、


「うわ」


 と、一言だけ仰いました。

 レイアくんの目が生き絶えてしまいました。シスコンですからねえ。


 私が生暖かい(一時間程放置したマグナト商品くらい)視線を投げかけておりますと、マグさんがくいくいと私の服の袖を突きます。


 このかまってー感が愛らしいですね。


「大きい胸、好き?」


 突然の質問でございます。

 さて、巨乳が好きか貧乳が好きか。という質問でございますか。


 そうでございますねえ。


 特筆する程の好みはございませんね。


 しかし、マグナト商品ならば断言できます。マグナト商品でしたらば、貧乳よりも巨乳派でございますね。お得ですし。


 つまり私は巨乳派でしたか。マグナトのお陰で、また一つ進化してしまいましたね。


「マグさん。貴女様は貴女様であるだけで良いのですよ。それが素敵でございます」

「でも」

「貴女様らしくいればよろしいのです」

「マグは青方の好みになりたい」


 これは巨乳になる、ということですか。マグさんの好意は肌で感じ取っていますが、それはあくまで命の恩人……親に向けられる愛でございましょう。


 そうだと仮定するのでしたら、マグさんが言いたいことは一つ。

 いいからマグナト商品寄越せ、です。


 マグさんはグーばかりを飲み、また要求するので、今更他のことを私に頼むのが恥ずかしいのでしょう。


 私と彼女の仲です。気にすることはないのですけれど。


「では、マグさん。お食べください」


創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』により、揚げ芋を生み出します。それをマグさんにお渡ししますと、手掴み(そういう食べ物です)で獣のように貪り始めたました。


 良い食いっぷりで、提供した身としては幸せでございますね。


 さて、ではレイアさんのお姉様をどうにかしましょうか。服を着ていませんと、この世界では死刑にされてしまいますからね。

 異世界、恐ろしいですね。


 私が服を脱ぎ、それを手に持って近寄ります。すると、レイアくんのお姉様は悲鳴を上げて、後退ります。


 紙製の服を持って、全裸の犬耳少女に接近する、上半身裸のマグナト店員さん。

 少々、犯罪の香りが致しますね。


 マグナトの紙であることと、マグナト店員の肩書きがなければ詰みでしたよ。やってて良かった、マグナト店員さん。


「レイアくん。これをお姉様に」


 私は目を逸らしつつも、我がお洋服の上着を渡します。カサカサという衣擦れの音が聞こえます。

 カサカサとだけ表現しますと、例の名前を呼んではいけないあの生物を思い出しますね。飲食店の天敵でございます。


「終わりましたか?」

「はい」


 レイアくんのお姉様が返事をなさいます。


「調子はどうでしょうか?」

「とってもいいです」

「それは良かった。お洋服の件は申し訳ありませんでした」


 うふふ、とレイアくんのお姉様は微笑して、満面の笑みで言い放ちました。


「許しません」

「ええ!?」

「ただし、あることをしてくださるのならば、お許しします」

「私は何をすればよろしいのでしょうか?」

「お花を摘んできてください」


 トイレに行けということでしょうか。別に我慢はしていないのですけれど。


 私が頭を悩ませていますと、レイアくんのお姉様は答えをくださいました。


「私たちの両親に供えるお花を取ってきて欲しいのです。少しだけ危険なのですけれど、お願いできるでしょうか?」


 女性を裸に剥いたことが許されるならば、それくらいは容易いでしょう。自身が裸になることが罪な世界でございますから、他者ーーそれも異性を裸にした罪はかなり重いはずですから。


 私は突如、お花を摘みに行くことになった。ちなみに、男性バージョンでは鹿を撃ちにいくという派閥が存在するようでございます。

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