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止めません、取りません

 レイアくんの椅子による打撃は、見事命中なされました。私の頭を遠慮なく殴打して、我が意識を刹那の間奪取致しました。


 当然、私の身体能力ですので、このまま完全に意識を失うような愚は犯しません。

 血液のシャワーを浴びつつも、私はしっかりとした調子でレイアくんの瞳を見つめます。


 その瞳に見えますのは、怯えと混乱でございました。

 加害者(無神経なことを申し上げた私こそが一番の加害者でございますが)であるレイアくんが浮かべるべき視線ではございません。


「どうしたのですか?」

「ち、違う!」

「何がですか?」

「僕は悪くない! お前が悪いんだ」


 レイアくんの言葉を受け、マグさんが立ち上がりました。その目には、明確な怒気が含まれておりました。


「謝れ」


 マグさんの眼光に、レイアくんは怯みます。けれども、彼はすぐさまに怒りを返しました。


「どうしてメルセルカなんかに肩入れするんだよ!」

「メルセルカとか関係ない。青方は青方」


 このままでは口論になってしまうので、私は仲裁に入ります。


「マグさん。私も加害者なので、レイアくんが謝る必要はございませんよ?」

「青方はミス。こいつは故意。暴力を振るった」


 マグさんは暴力の恐ろしさを誰よりも理解しておりますから、そう考えるのも無理はないのでしょうね。


「メルセルカ! 全部、お前のせいだ!」


 しかし、レイアくんの生き方は、私としましてはあまりにもつまらないものでございました。


 だって、そうでございましょう?


「お前らのせいで姉ちゃんは弱ったんだ! おい、謝れよ」

「レイア。止めなさい。メルセルカさんは何もーーっ」


 レイアくんのお姉様は最後まで言い切ることもできず、その場に蹲りました。彼女は片手で口を押さえ、もう片手で胸を押さえます。


 ごほごほと咳き込み、その音は次第に激しくなっていきました。ごほごほはやがて、ゲホゲホに変わり、今にも吐いてしまいそうな調子を見せます。


 更に一つ大きく咳き込みますと、血液が吹き出されました。私のバーガーの包み紙で創生したお洋服は、真っ赤に染まり切りました。


「姉ちゃん!」


 レイアくんのお姉様は、放っておけば危険だと一目瞭然で判断させる程の衰弱ぶりを見せております。


 なるほど。

 レイアくんのお姉様が死ねば、彼はきっと悲しむでしょう。また、彼のお姉様は立派なお方でございます。


 死なせてしまうのは、あまりにも悲しい。


 ではーーまずは手始めに、姉弟を救いましょうか。


 私は『創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』を使用して、揚げ芋を召喚致しました。


 それを手に、レイアくんのお姉様に接近致します。


 レイアくんはお姉様に縋り付き、私を鋭く睨み付けます。いやいや、私を睨むよりもお医者様を呼びましょうよ。


 はあ、と、溜息をつき、もう一歩近づきます。


「来るな! また、僕たちを傷付けるつもりか」

「レイアくん。貴方様の態度は正解です。ただ他者を信じるだけでは、それは信頼とは呼べません」

「もう止めてくれよ。僕からもう何も取らないでよ」

「止めません、取りません」


 例えばのお話を致しましょうか。例えば、人に嫌なことをされたとしましょう。それでその人を嫌いになるのは悪いことではございません。


 しかし、それで全人類を嫌うのはお門違いなのでございますよ。


 私のお友達に、まあ誠に遺憾ながらもマグナトバーガーがお嫌いなお方がいらっしゃいます。

 けれども、彼はマグナトの揚げ芋に目がありません。


 そうです。バーガーが嫌いだろうとも、それはつまりマグナトの全てが嫌いだとは限らないのです。


「メルセルカは確かに、貴方様たちを傷付けました。ですが、私は貴方様たちを傷付けたくない」

「嘘を言うな!」

「全てを疑って生きていくことは、辛すぎます。この世は素晴らしいだけではありません」


 ですが。


「ですが、辛いことだけではありません。悪人がいるように、それ以外もいるのです!」


 私はレイアくんのお姉様の口へ、揚げ芋を差し込もうとしました。けれども、レイアくんは必死に抵抗します。


「毒だろう! やめろ」

「マグさん」


 了、の合図とともに、マグさんが駆けました。彼女はレイアくんをあっという間に取り押さえてしまいます。


 彼女のふにゃんとした猫耳がドヤ顔に映えますね。


 私はレイアくんのお姉様に、揚げ芋を食べさせました。

創造せよ、至高の晩餐(メーカーオブマグナト)』の回復能力が行使されました。


 レイアくんのお姉様の荒い呼吸はゆっくりとなり、血液を失って真っ青になっていた顔色には朱色が足されました。


 今回はそれだけに留まらず、次々と新たな現象が巻き起こります。

 彼女の身体から、謎の文字が浮かび上がったのでこざいます。その漆黒の文字は、レイアくんのお姉様の肌から、どんどんと剥がれていきます。


「おや、これはどういうことですかね?」


 未知との遭遇でございました。

 けれども、私は慌てません。こういうとき、どうすれば良いかはとうの昔に存じ上げております。


 そう、このようなときはバーガーを食せば良いのですよ。


 バーガーを口に含んだ瞬間、私の脳内は更新されました。この現象は解呪が行われている証らしいですね。


 呪が全て解け、綺麗な身体となったレイアくんのお姉様は、なんということでしょうか。


 服を着ていませんでした。どこかの青方さんを思い出しますね……

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