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何の味もしないガム

 わたくしは現地調査のつもりで、取り敢えずはこの地域の料理を頂くことにしました。


 食糧難ですから、私が料理を頂こうとしたら苦い顔をされました。しかし、その代わりにマグナトバーガーを提供したら、快く承諾を貰えましたね。


 やはり、マグナトの魅力には誰も逆らえないのでございますよ。


 と、私がマグナト流洗脳術を披露していますと、私たちの目の前に料理が運ばれてきました。


 私はメルセルカだというのに、きちんと対等の扱いをしてくださいます。良い方々でございますね。


 若干、本当に誤差の範囲で私とナルさんの分がマグさんよりも低ランクな気が致します。けれども、それは私の下劣な精神が見せる錯覚でございましょう。


「で、これは何という料理なのですか?」

「ザビア」


 ザビアという料理が現れた。

 青方はどうする?

 食べるしかありませんね。


 私はスプーン状の道具を駆使して、ザビアを掬います。バリバリという破砕音とねっちょりとした不快な感触が私を襲います。


「これは……また」


 これは固体なのでしょうか。液体なのでしょうか。判断致しかねますね。

 ですが、意を決して、口にします。


 何でしょうか。まず、食感は酷い。じゃりじゃりと謎の食感が歯に触れて、喉越しはドロリとしております。


 これで味がよければ良かったのですけれども、何と形容すればよいのかわかりません。

 強いて言うのならば、


「何の味もしないガム、でしょうか」


 なんとも言えない気持ちになりつつも、黙々と食事を咀嚼致します。噛む度に、何かが口の中を泳いでいるような気がしますね。


「君……次、愛して、る」


 ナルさんなどはあまりもの食感の悪さに、その場に倒れてしまいました。


 マグさんは少しだけ表情を青くしつつも、結構普通に食しています。まあ、マグさんの場合はもっと酷い食事だったのでしょうから、当然でしょうか。


 やはり、きちんとした食事ができないことは許しがたいことですね。


 まあ、味覚の差もあるのでしょうね。魔界族さんたちにとっては、ごちそうなのかもしれませんね。

 異世界、怖いですね。


 そう考えて、周囲を伺いました。すると、


「うわぁ、本当に食べたよ」


 ええっと、これ大丈夫なのですよね。同じ魔界族であるマグさんもザビアを食べていますし、きっと無問題な筈でございます。


「さ、気を取り直して訊きましょうか。このザビアはどうやって作っているのですか? 食糧難と仰いましたが」

「作るというよりも採っている」

「ほうほう。それはどうやって?」


 私が問いかけますと、魔界族さんたちはとある生物を運んできました。

 それは透明な毛を持つ羊でございました。完全な透明ではなく、僅かに濁っているのでどうにか視認できます。


「これがザビアだ」

「え、これってお肉だったんですか?」

「いや、それは正確にはザビアの毛、だ」


 私、動物の毛を初めて口にしましたね。


「そもそもどうして食糧難に?」


 私のこの台詞はあまりにも残酷で、そしてまた不躾でもありました。ですからナルさんにだけ尋ねます。


「メルセルカと魔界族の増加が原因だろうな。どちらか一方だけなら問題ないが、両種族を合わせると数が多すぎる」


 また、とナルさんは続けました。


「ここ数年、農作物が不作だ。半数以上の農地がダメになっているらしいぞ」


 人口は増え続けているというのに、農作物が採れないということですか。


「それに貴族ルールが駄目だな。一部の奴が得をして、他は基本抑えつけられている」


 本来ならば、貴族の方が平民を雑に扱いますと、反乱を恐れなくてはいけません。しかし、食料の配給を抑えてしまえば、反乱する体力もなくなる、と。


「あと、ここはどちらかというとメルセルカ領だからな」


 と、ナルさんは締め括りました。私にはこちらの世界の知識がないので、彼女には助けられてばかりでございますね。


 感謝の気持ちを込めて、頭を撫で撫で致します。ナルさんはあまり髪を気にしていらっしゃらないようなので、あまり手触りはよろしくありません。


 これは手入れの楽しみが増えましたね。これが伸び代、でございますか。


「では、みなさま会議をしましょう!」

「会議? 何の?」

「それは当然。どうやって食糧難を解決するか、ということをお話するのですよ」


 私はこれでも現代人。ある程度の知識はございます。この世界はそこまで技術力も高くはありません。


 魔法という未知の部分こそあれど、私の前では児戯も同然なのでございます。


 まあ、しかし、児戯も侮れませんからね。マグナトなどでは、御子様が時々やんちゃをなさいますので。

 私の接客スマイルが一切効かない存在ーー御子様。現代、恐ろしいですね。


「では、私が現代知識で魔界族さんたちをお救いしましょうか」

「どうするつもりだ?」

「えっと、その、ですね」


 おやおや。

 どのように救えば良いのか。方法が思い当たりませんね。


 私は忘却しておりました。私は現代人ではありましたが、あくまで一般人でございました。


 知識は有しておりますが、それは現代の基盤があったからこそ。

 そうです。私はあくまでただのマグナト店員。


 現代知識で魔界族さんは救えません!

 それに、マグナト店員だからといって、このままでは何もできませんよ。


 認めましょう。


 これは青方君次の人生で最も難しく、困難な課題であると。


 マグナト店員最大の壁が、我が前に立ちはだかったのでございます。

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