食糧難?
魔界族の皆様の間に、ざわめきが起こりました。みなさま、何やら真剣な表情で話し合っております。
「少し痛かった」
「リアクション、それで大丈夫なのでございますか?」
見れば、あの魔界族青年さんはまだ頭の上にヒヨコを出現させております。
そういう能力でございましょうか。頭からヒヨコを出現させる、という。迷いますが、やはり私の『創造せよ、至高の晩餐』には及びませんね。
「青方。何か言ってる」
「はい?」
魔界族のみなさんが私たちを囲み、何やら相談しております。その中でも一柱の御老人が、前にいらっしゃいました。
「我ら魔界族の中でも『クルークル』という部族です」
「そうでございましたか。私はマグナト店員、青方君次と申します」
ぺこりと頭を下げ、挨拶を返しました。向こうは無視してきましたね。
おや、私、何か失礼なことでもしたのでしょうか。やはり、あれでしょうか。
このわざとらしい敬語が鼻に付くのでございましょうか。正直に申しますと、謙譲語とか尊敬語などチンプンカンプンでございますからね。
ですが、この話し方は譲れませんね。今更変更することは致しません。
「我らの部族は最も強い者をリーダーとします。今倒れているその男こそが、元のリーダー」
「なるほど。つまりは勝者であるナルさんが新たなリーダーということでございますね」
通りで私を無視する訳でございます。
私は彼らにとっては、ただの敵なのですからね。
メルセルカにとっての魔界族さん。魔界族にとってのメルセルカさん。
彼らはお互いを差別し合っている、ということですか。悲しいですね。
マグナトさえあれば、世界は一致団結するに決まっているのですが。
私がしっかりしませんといけませんね。ガンバっ、でございますよ、青方君次。
「ナル……様か。どうか、これからよろしくお願いします!」
御老人はそう仰いますと、地面に転がっているマグナトバーガーに丁寧なお辞儀を返したのです。
確かに、あながち間違ってはおりません。先の決戦、勝者はマグナトバーガーでございました。
ですけれども、何でしょうかね。違うでしょう。
魔界族の方々は一斉にひれ伏すと、マグナトバーガーに対して敬意を示します。バーガーに敬意を示す姿勢は素敵でございますけれど。
私は困惑して、思わず尋ねてしまいます。
「あのみなさま、そのですね。それは生物ではなく、食べ物でございますよ」
「馬鹿を言え! この魔力が見えんのか。確かに、生物ではなかろう。だが、これは確実に歴史に名を残すような宝具だ」
なるほど。でございます。
どちらかというと、宝として祀るというようなニュアンスなのですね。納得です。
「これほどの魔力を保有なされているのだ。きっと思考兵器なのでしょう?」
「思考兵器?」
まあ、会話の流れと字面である程度の推測ができます。
おそらく、思考兵器とは自我を保有した兵器のことなのでしょうね。
嘘のようなお話ではございますけれども、この世界は中々にファンタジー。あり得ないということがあり得ない状態でございましょう。
「ご期待に添えなくて、申し訳ありません。それはそもそもが兵器ではありません」
私はバーガーに近づきますと、情け容赦なく包みを開いて、中身に食らい付きました。
ケチャップが舞います。
「ほ、本当に食べている、だと」
「はい、食べ物ですから」
「それはどこから持ってきた?」
「ああ、これは私のスキル『創造せよ、至高の晩餐』でございますよ」
試しに、ホワイトジェルを生み出します。おお、っというどよめきが魔界族さんたちに伝わります。
「この食糧難の時代、食料を生み出す力に目覚めるとはな」
「食糧難?」
私はピンと来ず、マグさんとナルさんを見ました。彼女たちならば、答えを知っているでしょうから。
マグさんは首肯を返してきました。
「魔界族とメルセルカがいがみ合うのも、元々は食糧難の所為」
「そうだったのですか」
食糧難はいけませんね。食事がろくにできないと働くこともできなくなります。そうなりますと、当然農家の方なども働けません。
そうして食糧がなくなっていくという悪循環。また、空腹による焦燥感や絶望感に支配されてしまうことでございましょうね。
我がスキルさえあれば、食糧難は起きません。
しかし、やはり気にはなりますね。この世界のお食事事情。
マグナトは至高の食糧ではございますけれど、だからと言って万人にうける美食という訳ではありません。
そうです。
味には好みがあるのです。
マグナト異世界を開く上では大事なこと。
地方や文化の違いによって生まれた味覚の違いがどの程度のものなのか。
今回の事件はマグナト異世界店にとって、大切な一歩となりそうな予感でございますね。




