どんなプレイでございますか
私はあまり飛行機に乗ったことがありませんでした。数回、本場の味を知りたくて、アメリカに行ったことがあるくらいでございます。
入国審査で、本場のマグナトを味わいに来たと言い張って、一悶着あったのを思い出しますね。
最終的には、審査官の方はマグナトとしか喋られなくなっておりましたが、仕事はきちんとできたのでしょうか。
ちなみに、私は接客の為に七ヶ国語を話せるようにしております。
みなさま、ボーナンターゴン!
さて、現実を見ましょうか。
空なう、でございます。
「青方ぁ」
マグさんは寂しげな声を上げながら、私の腕に抱き付いてきます。私も抱きつきたい気分でございますね。
異世界補正によって、身体能力が強化されていなければ、とうの昔に気絶していたことでございましょう。
「これは少し痛いかもしれないなあ」
「その程度のレベルでございますかぁ?」
マリアさんーーナルさんは魔王ですから、私やマグさんとは生物としての格が違います。私たちは落ちれば即死でございましょうね。
「来てください。『創造せよ、至高の晩餐』!」
マグナトバーガーを大量に召喚致します。地面から塔状にバーガーを積み立てていきます。
創造せよ、至高の晩餐タイプ王国といったところでしょうか。
バーガークッションによって、私とナルさんは助かりました。
しかし、不運なことにマグさんは落ち所が悪く、そのまま落下していきます。
けれども、彼女はその程度で死ぬ方ではございません。
足の鎖をバーガーの塔に巻き付け、落下を防ぎました。
「おやおや、随分とバーガーを出してしまいましたね」
これは全て食べるのに結構な時間がかかりますね。幸いなことに、『創造せよ、至高の晩餐』は腐りません。
バーガーを落としていって、時に食べて、我々はゆっくりと下に移動しました。
降りる頃には、大量の魔界族の方々がこちらを見ていました。
何度か矢を射られたり、魔法を放たれました。まあ、私のバーガーは突破されませんでしたがね。
強い。やはり、マグナトは世界一でございますね。
「メルセルカ、それに魔王……か。我らに何のようだ?」
「おや、初めまして。私、青方君次と申します」
「御丁寧にどうも。我らは魔界族だ」
魔界族さんは私に名刺らしきものを手渡してくださいます。私も、名刺を差し出そうとして、ナルさんに止められました。
「君次、それは魔界族流の決闘の申し込み方だぞ。受け取るな」
紳士的な決闘の申し込み方でございますね。決闘は現代日本においては、些か紳士的ではございませんけれども。
「はっ、所詮はメルセルカか。我らのことを何も理解していない。用はなんだ。我らを殺しに来たのか?」
「いえいえ。私たちは貴方様方にお会いする為にやって来たのでございますよ」
「嘘……ではないようだな」
「私の大切なお客様が自信を持てるように、協力していただけないでしょうか?」
「お客様?」
魔界族の代表らしき青年さんは、マグさんを見ました。彼はマグさんに暫く見惚れると、軽やかなステップで彼女に近づきました。
「美しい! どうでしょうか、我と結婚しませんか!」
「嫌」
「どうしてですか?」
「マグは青方が良い」
「あのメルセルカですか? メルセルカですよ? 正気ですか?」
「青方はマグを初めて許してくれた」
嬉しいことを仰ってくださいますね。
それにしても、魔界族青年さんはドンマイでございます。まあ、初対面からプロポーズは軽薄と捉えられても仕方ありませんね。
婚約バーガーくらい用意してからの方がよろしかったでしょう。
「おい、メルセルカ!」
魔界族青年さんは、私をキッと睨み付けますと、不意打ち気味に土下座を行いました。
あれでしょうか。
娘さんをください、的な現象でございますか?
まずはマグさんに許可を貰ってからやるべきなのではないでしょうか。まずは外堀から埋める作戦は、私的にはあまり推奨したくはございませんね。
そもそも、私はマグさんの親ではございません。名付け親ではありますが。
私が困惑していますと、ちょいちょいとナルさんが袖を引きました。
ビリっ、と音を立てて服が破けました。
「っぁ。す、すまない、君次! 許してくれ! 何でもするから」
「いえ、よろしいですよ。また食べれば良いのですからね」
取り乱した彼女を慰めるべく、優しく頭を撫でます。自慢の零円スマイル(注文されたことはあまりございません)を浮かべます。
「あ。幸せだ、君次」
「それは良かったですね。私も幸せでございますよ」
「それとどうでもいいが、此奴のこの動きは魔界族流の決闘の申し込み方だ」
「またでございますか!?」
というよりも、土下座が決闘の合図でございましたか。文化の違いとは、恐ろしいですね。
「これはさっきのとは違う。戦士同士のプライドを賭けた、命すらも賭けた決闘の申し込み方だ」
なるほど。土下座はより強制力を持つ決闘の申し込み方なのでございますね。
「お断りしますっ!」
「君次、それでは戦士の誇りの問題が……」
「私は戦士ではございません」
そう、私は人々に幸せを届ける平和の使者、マグナト店員さんでございます。
「青方……マグの為に争うのはやめてー」
「どうして少し嬉しそうなのですか」
取り敢えず、頭を上げて欲しいものですね。頭が低いですよ。
「決闘を受けるときは、相手の頭を踏むんだぞ」
「どんなプレイでございますか」
受けませんしね。困りますね。
「マグと言ったか。メルセルカ、お前は彼女に足枷を付けて、飼っているのだろう。醜い心のメルセルカめ!」
「は?」
二つの声が響きました。どちらも可憐な乙女の声でございました。
一柱はマグさん。
もう一柱はナルさんでございます。
「……訂正して」
「珍しく意見が合ったな、マグ」
お二方、私の為に争うのはやめてー、でございますよ。大切にして頂けるのは嬉しいのですが、些か盲目的過ぎますね。
依存してしまうのは仕方がありません。けれども、やり過ぎは彼女たちの為にもなりませんね。
「その決闘、妾が買ってやる」
ナルさんが一歩を雄々しく踏み出しましたが、そこにはマグナトバーガーがあり、それを踏んでしまって転んでしまいました。
魔王が転びます。
その頭は丁度、土下座中の魔界族青年さんの頭に命中致しました。
魔王頭突きが炸裂しました。両者ダウン。
勝者ーーマグナトバーガー。流石ですね。




