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その優しさは間違っております

 第七魔王ーー不運のマリアさんが爆誕なさいました。


 みなさま、魔王、でございますよ。ゲームや物語では最後に出てくるお方でございましょう。


 ということはつまり、私の物語はこれで終了ということでございましょうか。

 それは困ります。私にとっての最後の敵とは、決して魔王ではありません。

 あの憎っくき怨敵、ケターキーでございますよ。我が眼中に魔王はおらず、見つめるのはただケターキーのみ。


 魔王に構っている暇はありません。


 ここは素直に謝りましょう。謝れば、許してくださいます。


「魔王様、ドアを破壊したのは申し訳ありません! どうか、お命だけはお助けを」

「うわぁ、変なメルセルカ来たぁ。ついてねえ。ああ、妾、そういうの気にしないから」

「そうなんですか、ありがとうございます!」

「うん。あ、一応形式的に言っておこうか。ようこそ、魔王城へ」


 魔王城と仰いましたか。ここはただの廃墟なのではないのでしょうか。


 私が困惑の境地に至っていますと、隣のマグさんが服の袖をちょいちょいと引っ張ります。


「青方、嘘の可能性ある」

「確かに!」


 私、何と考えなしだったのでしょうか。というより、魔王さんなんて居るはずがありません。

 ファンタジーではないのですから。


「疑われるとか。妾の魔王としての威厳どうなのよ。うわあ、ないわー」

「マリアさん、少しだけここで休ませて貰ってもよろしいでしょうか?」

「こんな廃墟で休むのかよ、そなた」


 廃墟?

 魔王城ではなかったのですか。やはり、本当に謀られたようですね。


「でも、止めといた方がいいよ。妾は不運のマリアだから」

「どういうことですか?」

「妾は運に見放されているんだよね」


 言った直後、彼女の頭にタライが落ちてきました。硬い金属音と共に、マリアさんの頭を強襲しました。


「ね?」


 ね? と可愛らしく言われても困りますね。そもそもあのタライはどちらからやってきたのでございましょうか。


 あと、マグナトの制服を返して欲しいですね。


「まあ、不運に巻き込まれていいなら、勝手に休め。妾は寝るから」


 そういうと、彼女は目を閉じて本当に眠ってしまいました。だらしなく、お尻が露出していますけれども、まあよろしいでしょう。

 私も男ですので、目の保養になりますしね。


 マグさんを引き連れて、家にお邪魔します。足を一歩だけ家に侵入させた時、マグさんが慌てた様子で声を荒らげました。


「青方! ダメ!」

「へ?」


 マグナト製の服を掴まれ、家の外へと投げ捨てられました。私はゴミのように、地面を転がります。ゴミはゴミ箱に捨てましょうよ。私はゴミではありませんがね。


「どうしたのですか、マグさん?」

「っ!」


 バックステップを踏み、マグさんが私の隣にやってきます。彼女は額に汗を浮かべ、魔王城(廃墟)を睨んでおります。


「崩れる」


 マグさんの言葉を待っていたのでしょうか。魔王城が音を立てて倒壊しました。


「何が起きているのですか?」

「わからない」


 超常現象に呆気に取られていますと、家の残骸からマリアさんが這い出てきました。


「買ったばかりなのに……なあ。あの商人、呪ってやる」

「え、えっと、お気の毒様でございますね」


 マリアさんは無事だったようです。けれども、マグナトの制服は所々破けてしまっています。残念ですね。


 ですが、流石はマグナトの制服といったところでしょうか。破れ方が素敵です。


「はぁ。あ、そういえばメルセルカ。この服はそなたのだったんだよな? 返す」


 マリアさんがマグナトの制服に手を掛けました。すると、あっさり脱いだではありませんか。


「な、何をなさっているのですか?」

「脱がなきゃ返せないし。妾、馬鹿じゃないし」


 話の筋は通っております。けれども、普通は脱ぎませんよ。嬉しいですけれど。


 服も返して頂けますし、女性の裸体も見れますからね。完璧と言えるでしょう。


「青方、穢らわしい」

「し、失礼な! 私、紳士である前に一人の男ですからね」


 マリアさんは全ての衣服を脱いでしまいました。それから制服を私に投げてきました。

 キャッチ致します。


 女性の着用済みマグナト制服でございますか。売れば幾らになるのでしょうか。

 まあ、売りませんけれどもね。プライスレスでございます。


「マリアさん、恥ずかしくはないのですか?」

「はぁ……メルセルカ。一つ言っておく。そなたは虫に裸体を見られて恥ずかしいの?」

「なるほど、そういうことでございましたか。……って、誰が虫ですかっ!」

「……」


 無視でございました。魔王、何て恐ろしいお方でしょうか。クレーマーさんより恐ろしいお方です。

 ちなみに昔、クレームを入れられた時は、マグナトの素晴らしさを語って理解頂いたので、問題はありません。


 あのお客様、元気でしょうかねえ。最終的に、マグナトとしか喋られなくなっておりましたけれど。


「さあ、気を取り直して、魔界族の住居を目指しましょうか」

「青方、面白かった……よ」

「その優しさは間違っております」


 私がマグさんとお話ししていますと、マリアさんが口を挟んできました。彼女は申し訳なさそうな様子です。


「すまない。言っていなかったけど、妾と遭遇して生きて帰られるとは思わないで欲しい。はぁ、そなたも運が悪いなぁ」

「それはどういうーー」


 問いを挟もうとして、私はマリアさんの言葉の意味を全身で理解させられました。

 空間が震撼したのです。

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