始動
(スタスタスタスタスタ...ドタッ!)
(ドンッ!)
「すいません!」
ここは、国立国際開発高校。通称国発。国の学校と言うこともあり日本中のエリートの中のエリートが集まる学校である。そのため、合格するに当たって日本最難関の学校の1つなのだ。
しかしこの学校にとってのエリートというのは学業だけではない。徹底した文武両道を掲げていてクラブ活動でも全国的に活躍できなければならない。その為、ほとんどのクラブが全国区であり、野球部に関しては昨年、夏の全国大会2連覇を達成した。そのような校訓のため、少し変わった受験方式を取り入れている。
最初に学力テストを行う。そこで上位1000位以内に入らなければならない。ここで2000人近くいた入学希望者の数がだいぶ絞られる。
続いて全20つのクラブの内、1つのクラブのセレクションに合格しなければならない。クラブの定員は、全て、10人と決められている。(つまり全20クラブ、部員は30人かそれ以下で、極端に少ない)。ここでまた、学力テストで生き残った1000人が遂に200人へと絞られていく。(そのような受験方式をとりいれる、もう1つの理由として定員200人(男女比率5:5)に対して毎年受験生の数が前述のように、2000人近くなる事も含まれる。ちなみに昨年の入学希望者は2256人となり、遂に2000人越えとなった。ちなみに今年は1831人)。
全部クラブの中で最も合格困難とされているのは男子サッカークラブで、なんと毎年約200人来る。これは学力テストを通過をしてくる入学希望者の5分の1だ(ちなみに男子サッカークラブは30人というクラブ員数に関わらず昨年、見事に全国高校サッカー選手権大会初優勝した)。
また定員割れしたクラブ活動があるとセレクション日から一週間後再セレクションが行われる。毎年定員割れする長距離走クラブや短距離走クラブ(それぞれ陸上部から独立している)などに各クラブのセレクションに落ちた者が再セレクションを受け、合格し、見事全国的に活躍したという話も珍しくはない。(ここまでして入学しようとする生徒がいる、または、いたのだからこの学校がいかに超一流の中の超一流なのかがわかるだろう。女子卓球部も、しばしば定員割れするのだが男子卓球部のセレクションに落ちてしまった人がここにコーチとしてセレクションを受け、合格し、実際にコーチをしている生徒もいるほどだ)。
こういった少数精鋭で学校の活動を運営するのも1つの特徴だ。
突然だが、よくスポーツ選手や芸能人にある傾向で、ある特定の分野では非常に優秀ではあるが、それ以外はどこか抜けているという人がいる。
この学校は、正しく、それの集まりであった...。
今日2026年4月1日。この後入学式を迎えるこの2人は式会館へ向かっていて、その途中である廊下を歩いていた。
この2人は男子サッカーのセレクションを受け、合格した。
1人は非常に落ち着いている。隣人からのマシンガントークに応えているものの、自分から話を持ち出すことは決して無い。クールというよりドライだ。彼は学力テストを学年1位で通った。国語・数学・英語は、ほぼ満点(いずれも98.7点数)であったという。しかしセレクションは危うくも10位に入り、合格した(本人曰く本当はもっと下だったのだが最後の試合による考察で活躍したからだという)。
そしてもう1人は相対的に非常に活発だ。隣人にしこたま話しかけている。その様子は、正にマシンガンであった。彼の学年順位は502位と中間的であったが、セレクションで圧倒的な力を見せつけ総合1位で合格した。
マシンガンは前方を見ずにトークを繰り出していた。いつ人に衝突してもおかしくない状況であった。そして案の定、巨漢の男に(と言っても、身長は高くなかった)衝突してしまった。さらに、その巨漢は気が短かった。
「いっつ...痛ぇぇよ!あぁん?!」
言葉の発信ともに巨漢はマシンガンの胸を掴む。そこで反射的にマシンガンも胸を掴み返しまった。このバカは入学式早々、暴力沙汰(結果的には未遂で終わったが)を起こすつもりなのか、とドライは呆れた。
「すいませんって言っただろうがあぁ?!」
「それがすいませんって言う野郎の態度かよ!?」
「てめぇが掴みかからなきゃ平和に終わっただろうが、チビが!」
「チビ?お前だって身長の割には細いな?パスタかよ。」
ちなみにマシンガン=パスタの身長は192cm、体重は75kgだ。
「そういうお前は肉...」
「いい加減にしろ、ユウタロウ。この場は妥協しろ。」
熱くなりすぎて口論を長引かせかけたユウタロウ-小門ユウタロウ-を二人の間で見ていたヘイト-吉田ヘイト-が愛想を尽かし、二人の口論を"インターセプト"した。
「はあ?!何言ってんだよヘイト。吹っ掛けたのはあっちだろ?!」
「落ち着け。ここで本格的な口論に持ち込んだら面倒な事になる。」
「そ、そうだな...。」
「愚痴は後で何時間も聞くから。」
最後の一言は、いまいち落ち着かないユウタロウを落ち着かせる為だった。そしてユウタロウが一言「すまない」と呟き、落ち着かせる事に成功した。
しかし巨漢は落ち着いていなかった。その為、ヘイトは巨漢の説得も試みた。無論、ヘイトは「面倒だな」と思っていたが、この場をしっかり"清掃"しておかないと、ある意味後で面倒だと察知していた。
「すまない。うちのユウタロウが迷惑をかけた。」
「お前は親か。友達に対する態度か、それ。」
巨漢は短気だが、怒るべきユウタロウと怒るべきでないヘイトを弁えられた分、悪い奴ではないとヘイトは判断できた(厳密には頭が良い人だと判断できた、という言い方が正しい)。
巨漢はユウタロウに対するヘイトの態度への驚愕、ユウタロウとの口論に巻き込んでしまった事に対する罪悪感、そして身分的には「御曹司である」自分に沿っていない行動をしてしまった事に強く羞恥心を感じていたため、複雑な表情をしていた。ヘイトはその表情を見て、かなり不気味そうに感じていたが、そこで決めつけるのも良くないし探るのも面倒であり無駄だと判断し、あえて考えないようにした。
「親って、そんな自分は偉くないよ。そうだな...親友というか、鏡というか、もう1人の自分自身というか、とにかく自分にとっては欠かせない存在だ。」
「そうなのか...」
巨漢は納得した。だが羞恥心が抜けなかった事や表情何一つ変えず語りだすヘイトに気持ち悪さを覚えていた為、表情は変わらなかった。
「ところで、君は何故、逆走しているの?」
「えっ?!は?!逆走?!」
隣で俯いていたユウタロウが大袈裟に言葉を発したが、ヘイトはそれを流した。
「いや、その、HR教室に忘れ物したんだ。」
「ちょ...ちょっと待てよ。こいつ、タメなのか?!」
「ユウタロウ、会話ができない。そういうのは後にしよう。」
ユウタロウはヘイトに叱られ、「はあ...」という寂しさ混じりの返事をした。
「忘れ物って、入学式に持ち物なんか、あったっけ?」
「いや、その、なんつーか、それが無いと落ち着かないんだ。」
「そうか。高校入学の初日だから緊張しているんだな。急いだ方がいいぞ。式が始まるまであと10分だ。階段で事故るなよ。」
「ああ...ありがとう。」
と言い、走りだそうとした瞬間ヘイトが、いつもより大きな声で巨漢に声をかける。
「ちょっと待って。すまない、最後に1つ。君の名前を教えてくれ。」
立ち止まり、親指を立てながら笑顔で振り向いて、巨漢は言った。
「神矢ユヅキ、ニックネームはカミユだ。悪い、急ぐよ!」
ヘイトは「ああ、すまない」と、またいつもより大きな声でカミユに返事をした。
(やはりそうか...神矢ユヅキ、通称地獄のウィリアム=テル...まさかあいつもここに来るとは...)
「おい、俺たちも遅れるぞ!」
今度はヘイトの思考をユウタロウが"インターセプト"した。「悪いな、いつもの癖で」とヘイトは返事をし、二人はまた歩き始めた。
(これは面白くなりそうだな。この学校の事だから他に面白いメンツがいるかもしれない。)