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第九話 追憶3―偶然

 三メートル程と人間よりもかなり大きな巨体。そしてその巨体を覆う脂肪と筋肉の鎧。


 闖入者は熊だった。それもただの熊ではない。赤熊という血の臭いに敏感な魔獣化した熊だ。普通の熊が高い魔力濃度の物を摂取することによって魔獣化するらしい。


 だが一つ気になることがある。それは何故赤熊がここにいるのか、だ。普通魔獣はこんな森の浅い場所まで出てこない。



「グオォォォー!!」



 しかしそれは今はどうでもよいことだろう。赤熊は私を発見したあと鼻をひくつかせると叫び声を上げた。幸い耳を塞いで歌を歌っているリーネには聞こえなかったようだが。


さて一体どうやって倒すか。剣は持ってきていない。いくら吸血鬼王(バンパイアロード)の私でも赤熊と真正面から腕力勝負をして勝てるとは思えない。だからと言って赤熊の筋肉と脂肪の鎧を素手で突発するのは難しいだろう。



「仕方ない。ここは解血(フリーダムラッド)を使うか」



 まあリハビリ相手には丁度いいだろう。私は手首の血管を爪で切る。そしてそこから出る血で小太刀を作り出した。いつもの血剣(ケッケン)を作らないのはまだ怪我が完治していないためだ。



「さあ来い」


 


 手招きして挑発する。赤熊に通じるかは謎だが。が、その考えは杞憂だったのか赤熊は二本足で立ち上がると再度吠えようとした。



「フン!」



 しかしその隙だらけな状態を黙って見過ごすほど私は馬鹿ではない。一足とびに赤熊の胸元まで飛び込むと小太刀をその胸に刺す。胸の傷から出る血を体の中に逆流させて止めをさす、つもりだったのだがそれは出来なかった。何故なら小太刀は思った以上に赤熊の体に深く刺さり持ち手近くまで埋まってしまったからだ。驚きで体が硬直する。


 予定とは少々違うがこの赤熊もこれで終わりだろう。そう思い小太刀から手を離した瞬間、横合いから凄い早さで赤熊の手が迫ってきた。



「なっ!?」



 ギリギリ背中を反らせることでかわす。そしてそのままばく転の要領で離れる。赤熊から五メートルほど離れたところで静止した。



「グルルゥ」



 胸を貫かれた筈なのに赤熊はそれを感じていないかのようだった。むしろ自らの血の臭いでさらに興奮しているようだ。


 おかしい。通常の赤熊ならばもう倒れてもいいはずだ。火事場の馬鹿力というやつか?またはイタチの最後っ屁か。まあどちらにしろ長くはもたないだろう。


 私はこれ以上赤熊と殴り合うのではなく、赤熊が出血で倒れるのを待つことにした。血を逆流させるのは私の精神衛生上よろしくないしな。あれは中々に......惨い。


 そう思っていたのだが赤熊から漂ってきた血の臭いを嗅ぎ考えを変える。この赤熊はいくら待っても出血死しない可能性が高い。そして私の予想が正しければこいつが森のこんな浅い場所にいる理由も説明がつく。



「クソ。なんて偶然だ」



 とにかく先ずは赤熊を倒そう。まあ現状そんなのは簡単だが。私は先程の胸の傷から流れている血を解血で操り赤熊の体の中に逆流させた。そのまま心臓も血で握り潰す。



「ホントだ! 耳を塞いで歌うと声がよく聞こえるね!」



 赤熊が心臓を潰され倒れるとリーネが穴から顔を覗かせ嬉しそうに言った。そして赤熊の死体を見付けると目を見開く。



「クマさん!? なんでそんなところにいるの?」

「あー.....」



 どうごまかしたものか迷う。こんな小さな子に襲ってきたから返り討ちにしたなど言うのは情操教育上よくないだろうし。



「寒くて寝たんじゃないか?リーネも寒いときは布団からでたくなくなるだろう?」

「うん!クマさんも同じなんだね」

「ああ。だから近づいちゃ駄目だ。眠るのを邪魔されたらこのクマさんだって嫌だろうしな。リーネは早く薬草を集めなさい」

「はーい」



 私に薬草の在処を当てるように言ったことも忘れたのか再度穴の中に入るリーネ。私はその綺麗な金髪が穴の中に消えたのを確認してから赤熊のもとに向かう。


 赤熊を観察してみて果たして思った通りだった。目は赤く充血している。そして何より赤熊の口から漂う血の臭い。この臭いは紛れもなく私の血の臭いだ。


 つまりこういうことだろう。人間に負わされた怪我から流れ出た血をこの赤熊――もしかしたら私の血で赤熊になったのかもしれないが――が舐めた。それにより吸血鬼化したのだろう。最も吸血鬼となり身体能力と生命力が上昇したかわりに正気を失ったようだが。


 私、というより吸血鬼や吸血鬼王の血は一部の生き物にとっては毒となる。吸血鬼化というのは便宜上そう呼んでるだけで本当に吸血鬼になるわけではない。能力が上昇するのは本当だが。


 赤熊がこんな浅い場所に来たわけは分かった。舐めたら力を得た物と同じ臭いがしたのでやって来たのだろう。だがということは、リーネが赤熊に襲われる理由を作ったのは私だということになる。命の恩人になんということを。


 そしてまだ一つ腑に落ちないことがある。それは私が小太刀で赤熊をあっさり貫けたことだ。私は小太刀の切れ味は勿論自身の腕力まで計算して貫けないと判断したのだ。赤熊は吸血鬼化していたのだから私の予想より固かっただろう。なのに予想以上の結果が出た。


 可能性としては一度傷ついたことで筋肉が強靭になった、といったところか。まあこれ関しては悩まなくていいだろう。弱くなったならともかく強くなったのだから。



「オジサン採ったよ!」



 私が赤熊を調べ終わるとまもなくリーネが手に薬草を持って穴から出てきた。膝や肘についた土を払ってやる。



「そうか。じゃあ帰ろう」

「肩車して!!」

「ああいいぞ」



 赤熊の死体は放置でいいだろう。他の獣が食べるだろうし吸血鬼化の原因の血は全て抜いておいた。何より運ぶ方法が引き摺るしかないのだが.....いくらなんでも人間がそんなことをするのは不自然だろう

。そんなわけで放置に決定した。

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